【苔玉に寄せて】Vol.24〜梅の苔玉
梅の苔玉
厳しい寒さの中、凛と開花する紅白の梅が、新春の息吹をもたらしています。
濃緑の苔の丘に赤、ピンク、白花の苔玉仕立盆景の梅も園芸店頭を賑わしています。一足早い早春の訪れに、心躍り身の引き締まる思いです。
苔玉で花を楽しんだ後に、5~6月には梅の果実も着け楽しみたいと希望される方も多く、「どうしたらいいの?」と問われること、しばしばです。花が咲いたら果実が着く、自然の成り行きで、期待されるのは当然でしょう。
ウメという植物には、同じ品種の雄蕊(おしべ)と雌蕊(めしべ)の間では決して結ばない、「自家不和合性」という性質があります。同一親族間で結婚しては「ウメ」という種が弱体化して行く、ということを本能的にウメは知っており、それを避けているんです。ウメに結実させるには、必ず異なる品種のウメが1本ずつ必要です。
「いやそんなことはない、うちの庭先の梅は、1本でも毎年必ず実を着ける」と、言われることもしばしばです。「家主の知らぬ間に、隣近所の庭先にある梅と浮気してますよ」と説明、「そういえば確かに三軒先に梅の木があったなぁ!」と、一件落着。
それでもなお、1本でも結実する場合があります。白梅に紅梅を接木した、めでたい紅白の梅の木など、人為的に1本の木に2品種を同居させた場合です。おめでたい紅白で、結婚も成立させる、先人の知恵に敬服します。観梅で有名な水戸の偕楽園には、約100品種のウメが、計300余本、植えられています。その結果、6月頃に梅の実の収穫が行われています。
5~6月に梅の苔玉に果実を期待されるのならば、全く異なる品種の梅の苔玉を1本ずつ、計2本、並べてお楽しみください。苔玉の梅の木に、見事な果実が着く、素晴らしい景観となることでしょう。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。