さくらの開花前線とともに、春の到来を待ち焦がれる日本列島です。苔玉愛好の私たちにとりましても、3~4月は『桜の苔玉』作りで大忙しでした。『旭山桜』、『御殿場桜』、『富士桜』など、一才桜の品種たちでした。中でも、八重咲種の『旭山桜』が一番人気でした。
多くの人々に知れ渡った桜の代表品種は“染井吉野”という品種です。『パッと開花して、サッと散る』潔さが、明治以降の国策に合致したことから、国花・桜の代表として公園などの公共のオープンスペースに植栽されてきました。
一斉に開花して薄桃色の樹冠をなし、花吹雪となって散りゆく様、水面に散った幾万の花弁は見事な花筏を呈す・・・・・“貴様と俺とは同期の桜”と、歌われた由縁のようです。
戦争が遠い今、森山直太朗は歌ってくれました。
ぼくらはきっと待ってる
君とまた会える日々を
桜並木のみちの上で
手を振り叫ぶよ
さくら さくら 今咲きほこる
刹那に散るゆくさだめと知って
~ 中 略 ~
さくら さくら いざ舞い上がれ
永遠にさんざめく光を浴びて
さらば友よ またこの場所で会おう
さくら舞い散るみちの
さくら舞い散るみちの上で・・・
また、遠い昔の伝承で・・・・・隠岐の島へ流罪となった後醍醐天皇の跡を追いかけて、児島高徳が院の庄(岡山県)で忠節を桜の幹肌に書いたという・・・・・
桜ほろ散る院の庄
遠き昔を偲ぶれば
幹を削りて高徳が
書いた至誠の歌形見
君の御心安かれと
闇に紛れてただ一人
刻む中節筆の跡
永久に輝く花の蔭『天、勾践を空しゅうする莫れ。時に范蠡無きにしも非ず』
そんなこんなを想い描きつつ、桜の苔玉を作ったことでした。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
桜咲く季節、眼前に迫ってきました。何年経っても、桜の苔玉は人気が高い!・・・・・茨城県つくば市、埼玉県久喜市、横浜市などで「桜の苔玉教室」を開催しましたが、いずこでも大変喜ばれております。サクラの品種は、『御殿場桜』『湖上の舞』『旭山桜』などの、一才咲き種類で、下草に2~3芽立ちの『タマリュウノヒゲ』を添えました。
日本に住む私たちにとって、春爛漫の桃色の桜花は他に代えがたく、春を待つ心に思いが重なってきます。コンパクトな桜の苔玉です、ほんの数輪の蕾、開花にすぎません。ほんの数輪に春の息吹を感じ、仄かなピンク色の蕾・開花を愛でる人々の心の繊細さ、優しさに思いを致しております。
私の手元には3年前、2年前に作った『桜の苔玉』が、寒さで硬く窄んだ新芽が少しばかり動き始めたようです。2~3年と経過する中で、樹名札が落ちてしまい、品種名が定かではありません。出雷・開花の動きがみられて来る度に、樹名札を完璧にしておけばよかったと、反省しきりです。『でも、まぁ、桜だし、これでいいや!』と、園芸プロとしての再認識?・・・・・反省、の次第です。
サクラ等の落葉樹木は、晩秋 ~ 冬季の落葉期には、ついつい忘れられて園芸棚の片隅に放置されてしまいがちです。葉が散っても『なお・桜』です。潅水を忘れなければ、翌年にも新芽を吹き出し、仄かなピンクの蕾・花を咲かせ、私たちに春の到来を知らせてくれます。季節の到来を優しく語りかけてくれる桜を忘れないようにしなければ・・・・・!と、思いつつ、ついつい忘れてしまう・・・・・『反省・再認識』です。
『落葉樹』たちの細やかな願いです。
“葉は落ちてもまた必ず『翌年蕾・開花』致します。たかが、小さな、小さな『苔玉・桜』です、されど紛いなき『桜花』です。来年も必ず蕾・開花致します”
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
年初に当たって、椿の苔玉を作ってみました。樹高40㎝程度、3本の枝先にはほんのりと赤味を帯びた蕾が7~8 個、着いていました。花は赤色・一重咲き種で、品種名『三千院の侘助』と命名されていました。
因みに『椿』は1月の『茶席の花』の代表花とされます。菊月(一重筒咲き)、加茂本阿弥(雪白色 一重咲き)、侘助(淡桃色地に濃桃色斑入)、紅妙蓮寺(紅色)、初嵐(白色)、等が、古くからの『茶席の椿花』の代表品種とされています。
寒さ厳しいこの季節に、濃緑の葉先にほんのりと赤い蕾が着いた椿、白一面の雪景色に置いたらいいだろうナァ!・・・思い描きながら、早速、椿の苔玉造りにチャレンジです。下草として三芽ほどのタマリュウノヒゲあしらい、根元を山苔覆い仕上げました。
苔玉に仕立ててみると、3本の直幹が単純に立っているだけの樹形がなんとも心もとなく、不自然に感じました。3本の直幹それぞれに園芸銅線(直径3㎜)をスパイラルに巻き付けて、直幹を右に左にあるいはスパイラルに曲げ、枝振りを整えました。ふくよかな紅色の蕾の『三千院の侘助』椿を、黒褐色の美濃焼皿にのせて居間の一角に誂えました。「ワァ!・・・・・素敵!」、茶の湯に親しむ高齢の女性の眼鏡に敵い、お持ち帰り頂きました。
今から24~25 余年以前の1月、故郷・長崎で茶の湯に興ずる私の母、初釜の席を賑わす茶花が欲しいとの話、20余種の椿の苔玉を送ったことがありました。主として梅芯タイプ『肥後椿』系統でした。初釜茶席は『椿談義』で賑わったとのこと、終わりに招客皆様に『椿の苔玉』をお持ち帰り頂き、喜んで頂いたとのことでした。
椿は純粋な日本生まれの花木です。日本から欧米各国に渡って華やかに品種改良されたものも多く、令和の時代、それぞれの好みや思い出に沿って、『椿』を私たちの生活に取り入れ、楽しんで頂きたいと願っています。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
昨年末から新年にわたって、クロマツ、アカマツ、ウメ、ミリオンバンブー、マンリョウ、センリョウ、ヒャクリョウ、ヤブコウジ等の苔玉を作った。いずれも新年を寿ぐ縁起物として多くの人々に慶んで頂いた。
これらの植物は、ポットに植え付けてあるそのままの形では鑑賞に値しない場合が多い。針金当を使って、自在に樹形を整える・・・あるものは枝振りをスパイラルに曲げたり、クロマツの枝をそ馴松「磯馴松」に見えるように枝を大きく曲げたりと、加工した。マンリョウ、センリョウ、ヒャクリョウ類は、一本立ちでポットの中心にポツンと味気なく立っている。右に左に、また前や後ろに自在に枝を針金で誘引して枝振りを整えた。
出来上がった苔玉たちを見て、「盆栽苔玉みたいだなぁ」と、若い人たちに人気を博した。単に園芸用銅線で樹形を整えただけのことであったが、若い人たちの園芸に対する心眼に触れ、園芸愛好家として嬉しくなりました。さしずめ、「カジュアル盆栽」とでも位置づけられそうです。
植物への銅線針金かけには、細かい配慮が欠かせません。葉を巻き込まないように上手に針金をあてがったり、枝分かれ部分には支線の針金をあてがったり、また、針金の頂上をどこで打ち止めにするものか・・・アレコレ悩みながら針金巻きにチャレンジです。時折、無理を承知で針金掛けして、ポキンと大事な枝を折ってしまうこともあります。
そんな苦労の結果、思いのままの枝振りに仕上がった苔玉たちが出来上がったときは、心から嬉しくなります。古くから伝わる園芸技術を、広く伝承していきたいと願っております
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
12月中旬を迎え、急激に寒さ厳しくなりました。ベランダに展開していた熱帯や亜熱帯地方生まれの植物たちを、大急ぎで室内へ取り込む・・・観音竹、月下美人、大銀龍、ウンベラータ、サンスベリア、ブーゲンビレア・・・どれも30㎝の大鉢仕立ての巨体、室内は熱帯ジャングルの様相。
熱帯巨木の足元は小さな植物たちが溢れている、『苔玉』『多肉植物』等々・・・寒風吹きすさぶ外空間から室内に取り込まれて安堵しているようです。
年末・年始の苔玉たちもいっぱいです・・・ミニシクラメン、カロライナジャスミン、ミニバラ等の花の苔玉・・・クロマツ、ミリオンバンブー、紅白のウメ、赤実のナンテン、マンリョウ、ヤブコウジ、等々の新年を寿ぐ苔玉たち・・・ガジュマル、パキラ、ポトス等の亜熱帯植物の苔玉たち、私の部屋はパソコン空間を残し、植物たちに占拠されてしまっています。
乾燥した寒風吹きすさぶ戸外に放置しては、『苔玉』は上手く育ちません。本来、『苔』は高い空中湿度を好む植物です、西から吹きすさぶ空っ風は、『苔』は勿論のこと、植物本体をも傷めてしまいます。さらに氷点下に降下してしまっては、苔玉も凍結してしまいます。苔玉も乾燥・寒風そして寒さは避けなければなりません。
年末・年始を松竹梅の『苔玉』で寿ぎ、暖かさ陽射す春の訪れを心待ち、苔玉や亜熱帯生まれの植物たちを同居人として面倒見ながら、楽しみながら、厳寒期を乗り切ります。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。