Posts in Category: 苔玉に寄せて

【コラム】苔玉に寄せて Vol.118~生活に根付いた園芸文化

 酷暑の晩夏から、あっという間に冬の到来です。年末に向かって苔玉も忙しくなります。街中にジングルベルが流れ始める『シクラメン』の季節、そして慌ただしい年末になると、『マツ類、マンリョウ、ヤブコウジ、フクジュソウ』等々の苔玉作で大忙し・・・・・、『モミノキ』に飾り付けたXマスツリー、そして玄関周りには門松・注連縄飾り・・・・・年末・年始の生活空間は花卉園芸で満ち溢れます。


 クリスマスには赤い『イチゴ』のXマスケーキ、玄関ドアに飾り付けたフラワーリース、正月は餅に鮮やかな緑色の『ミツバやセリ』をあしらった雑煮、『ニンジン・ダイコン』の紅白のなます、『サトイモ、ゴボウ、マメ類等』の煮物の食文化、蔬菜園芸で賑やかです。

 手元でシクラメンの苔玉を作りながら、豊かな園芸文化に包まれた生活を享受していることに、あらためて思いを致しております。生命を維持するために野菜の種を蒔き野菜を収穫した『蔬菜園芸文化』、敷地の一角に果樹を育て、カキ、ウメ、モモ等の果実の美味を知った『果樹園芸文化』・・・・・食を満たすことに始まった『園芸』であったと思われます。食に満たされた先人たちは、ウメ、モモ等の花の美を知った『花卉園芸文化』・・・・・赤、白、紫、ピンク色と、華やかな開花のシクラメンを苔玉に作る中で、毎日の生活のなかでの『園芸文化』に思いを馳せたことでした。

愛好者の私たち、『苔玉』を賭して新しい時代の花卉園芸の一角を伝えて行きたいと願っています。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.117~カエデの苔玉

 長く続いた酷暑の候が去り、涼しい季節となってきました。秋となってはカエデの『紅葉』、赤や黄色が待ち望まれます。私たちの日本には、秋に紅葉を楽しませてくれる落葉樹木は多数あります。
でも、カエデ類程多数の品種を網羅する種(スペシィズ)は他にありません。苔玉の世界でも『カエデ類』の人気は群を抜きます。

 『カエデ類』は江戸時代に多数の品種が作出され、明治、大正、昭和そして今日まで連綿と続いています。江戸・元禄の頃の江戸は、当時としては世界一の花卉園芸文化都市であったと思われ・・・・・カエデ類の愛好栽培が今日に引き継がれている次第です。こうした花卉園芸文化史の流れを、苔玉スタイルで『カエデ類』を体現できることに心ばかりの誇りを思っております。

 江戸・元禄時代の花卉園芸文化は徳川将軍家によって支えられ、諸大名は江戸屋敷に優れた庭園を造り、国表に花卉園芸文化を持ち帰り伝えることになったということです。その代表的なものが肥後の国・熊本の大名・細川家であった・・・・・
肥後6花(肥後椿、肥後山茶花、肥後花菖蒲、肥後芍薬、肥後朝顔、肥後芍薬)が、よく知られています。 『カエデ類』の他に、古い江戸の時代に世界一の花卉園芸文化を築いた植物たちを列記します・・・・・
オモト、フクジュソウ、イワヒバ、マツバラン、サクラソウ、ヤブコウジ、マンリョウ、サクラ、等々・・・・・これらの花卉園芸植物を『古典植物』として分類・取り扱っている今日・此の頃です。比較的目立たない、地味な植物たちが多いですネェ!

『古典植物』として取り扱われる一群は、『苔玉』仕立て栽培に馴染む植物たちです。

 令和の今日の花卉園芸愛好者の私たち、『苔玉』を賭して新しい時代の花卉園芸の一角を伝えて行きたいと願っています。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.116~苔玉・植物の組み合わせ

 2種類以上の植物を組み合わせて、『寄せ植え苔玉』を作る場合が多々あります。山アジサイ、ケヤキ、サルスベリ、モミジ等の落葉樹木の苔玉造りに当たっては、必ず、玉リュウノヒゲ等の背丈の低い常緑性の草類を『下草』として添植します。

落葉樹木は、晩秋 ~ 冬季の間、紅葉して落葉してしまい、寂しい景観となってしまいます。・・・・・落葉した寂しい冬の間、『玉リュウノヒゲ』は極めて丈夫な植物で、濃緑色で元気、冬の苔玉の根元を賑わしてくれます。『緑』の下草・玉リュウノヒゲが、僅かに生命活動する苔玉景観を演出してくれます。
造園、庭作りで言う『上木』、『下草』の心意気です。

アカマツ、クロマツ等の常緑樹マツ類を苔玉に仕立てる場合、その根元部分に『松ぼっくり(松笠)』と『下草』を添付・添植するなどして、苔玉景観を演出したりします。マツ類は、『松ぼっくり』が発芽してクロマツやアカマツが育った生命の循環を、苔玉界で演出します。
生命の姿、『自然の摂理』を想い描きます。

2~3種類のミニ観葉植物を、寄せ植えにした形状で苔玉に作ったりします。この場合、それぞれの植物たちの背丈比は概ね 7 : 3 : 1 ( 主 : 客 : 控 ) 程度で纏めます。
心は、『生花道』、『花生けの心』です。

私の勝手・気ままに、植物たちを苔玉の姿に衣替え・衣装直しする・・・・・『生花の心』や『庭作りの技』に学び、『大自然界の摂理』を素直に受け入れ・・・・・温故知新、多くの植物たちに学ぶ毎日です。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.115~ブルーベリーの苔玉

 ブルーベリーの枝先に、黒紫色の果実がたわわに実っています。ほんのり甘酸っぱい美味に誘われての実摘み収穫、暑い最中の重労働です。苔玉に仕立てておいたブルーベリー小苗にも、5~6個の果実が着きました。酷暑の中、よく可愛らしい果実を着けてくれたな・・・・・収穫するのは恐れ多く、小粒の黒紫色を鑑賞・堪能しております。

 『花より団子』・・・ブルーベリーの果実収穫を目的として庭先に小苗を植え付けた筈でした。濃緑色の枝葉に包まれ、たわわに実る黒紫色の果実・・・甘酸っぱい美味を知る舌先が騒ぎ立てます。一方で、苔玉仕立ての小さな黒紫色の小粒たちは、細やかに夏の音連れを演出しているようです。
 私たちが生命活動を維持していくには、まず『果実』が必要・・・・・腹を満たしたゆとりの中で、僅かに5~6個の果実揺らぐ枝先に夏の訪れを情緒し、美として堪能できること、まことに幸せなことです。

 私たちは家を建て居を構える・・・家回りのオープンスペースに、野菜の種・苗を植えて収穫する、更に片隅にウメの苗を植えて果実を収穫する・・・・・いつしか梅の花の美しい生活環境に育まれていく、それが『庭』の原点だった・・・・・ブルーベリーは、そんなことを語ってくれました。
 地方によって育つ植物は異なるし、気候も異なる・・・・・さらに国によっても生活環境は変わらざるを得ない、『食』と『庭』の在り様をブルーベリーが語り掛けてくれました。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.114~産地で見る植物たちを苔玉に!

買い物がてら、近所のホームセンターへ出掛けました。園芸生モノ売り場の一角に、4寸鉢に植えられたビカクシダ(コウモリラン)を見かけました。1鉢580円、苔玉に仕立てて、パソコンデスク回りに置きたいナァ、ついつい手が出ました。

自宅に持ち帰って机上に置き、一風変わった緑葉の様相を見る、嬉しくなってきました。60余年以前、大学2年生の頃、下宿部屋の一端にコウモリランを吊り鉢して眺めたことを懐かしく想い出します。「イヤァー、また会えたナァー!」・・・・・

よし、吊り仕立ての苔玉に作ろう・・・・・コウモリランの苔玉造りは先月に書きました。
苔玉に仕立てる植物を探して園芸植物の産地、園芸店、ホームセンター等を歩くのは楽しいことです

『これは、苔玉にピッタリ・・・見―つけた!』ときは、宝物を見つけた感覚です。過去・50余年、苔玉に仕立てる植物材料を探して全国を歩きました。苔玉等、園芸の本質は「園芸生モノ」を知り抜くことにあると思います。園芸生モノを真に理解・熟知するためには、植物それぞれに異なる「産地を歩く」ことも重要です。まずは、近辺にある産地を歩くことによって、研ぎ澄まされた園芸愛好家の目で見ること、さすれば、思いもよらない素晴らしい植物にぶつかることでしょう。

 さてコウモリラン君! しばらくの間は私のデスクライフを見ていて下さいねぇ!

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。