Posts in Category: 苔玉に寄せて

【コラム】苔玉に寄せて Vol.92~ガジュマルの苔玉

ガジュマルの苔玉

 「苔玉」を作って45余年にもなります。この間、「ガジュマル」の苔玉は他の植物たちに抜きん出て人気を持ち続けております。「ガジュマル」という和名は、沖縄の地方名ですが、その由来は明確ではありません。垂れ下がった気根は、徐々に土台や自分の幹に複雑にからみつき、派手な姿になっていきます。捩じれたりトンネル状の奇妙な樹形を作ったり、その変幻自在に成長した樹形が喜ばれていると思われます。しかも、ガジュマルは常緑広葉樹であることから、四季を通じて濃緑の革質でやや厚い楕円形または卵形の葉を楽しむことが出来ます。

 ガジュマルの花言葉は「健康」とされて、別名「多幸の木」と呼ばれます。「ガジュマル」の名の由来は、こうした幹や気根の様子である「絡まる」姿が訛ったといわれています。気根は出初めはごく細いが、太くなれば幹のように樹皮が発達します。地面に達すれば幹と区別が付かなくなります。また、成長した気根は地面の舗装に使われているアスファルトやコンクリートなどを突き破る威力があります。こうした過程で、土台となる木は枯れていきます(ガジュマルはいわゆる「絞め殺しの木」の一種での由縁です)。観賞用として、中の枯れた木部を取り除いて空洞状にした木も販売されています。イチジクのような小さな花がつきます。

 大学で園芸学を学んだ私でしたが、「ガジュマル」という樹木を知ったのは社会人になってからのことでした。「ガジュマル・・・?!」その名称だけは聞いてはいましたが、「面白い名前の植物があるんだナァ?・・・」、程度の認識でしかありませんでした。職務で東京都八丈島に出張の折「面白い木があるもんだナァ!・・・」これがガジュマル君との出会いでした。


 「苔玉」が私の生業に位置付けられてきた中で、ガジュマル君は私の生活の中に大きく幅を利かせて頑張っております。正に「多幸の木、ガジュマル」となりました。牧野富太郎博士の仰る如く、もっともっと多くの植物たちに親しまなければと思いを致す次第です。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.91~ヤマモミジの苔玉

ヤマモミジの苔玉

  過去40余年、多くの種類の樹木たちを苔玉に仕立ててきましたが、中でも『ヤマモミジ』は非常に人気があります。ヤマモミジ( 学名 Acer palmatum var. matsumurae )は日本の固有種で、北海道と本州の青森県から鳥取県にかけての日本海側に分布します。主に太平洋側に分布・自生するイロハカエデ( 学名 Acer palmatum )の変種になります。

 赤く芽吹く新芽の美しさ、初夏以降の手のひら状に5つから7つに深く裂ける緑葉が生い茂り、秋には赤~橙色に紅葉する、冬期間は葉を振ってしまい枯淡の美を呈する、四季の変容にたまらない魅力を演じてくれます。

 殆んどのヤマモミジは実生繁殖されていますので、葉色や葉型に様々な変化がみられ、この変化に楽しみを見出すのも楽しいことです。また、春の芽吹きに備えて2月初旬頃から水揚げが始まり、枝の末端まで水が行き渡り、枝がしなやかになります。自由に枝を曲げたりすることで、好みに応じた枝振りを演出ることができます。具体的には園芸用のアルミ線を使って枝振りを整えることになります。

 好みの枝振りに変形加工したヤマモミジを苔玉に仕立てると、言わば『カジュアル盆栽』とでも言いましょうか、そんな苔玉ができあがります。
ヤマモミジは落葉樹ですから冬期間は少々寂しい風情です。その寂しさを補うために各種の下草を根元に配植したらいいでしょう。私は『玉リュウノヒゲ』を下草として利用します。玉リュウノヒゲが丈夫であること、細やかな玉リュウノヒゲの葉をバックに添植することで、苔玉全体に遠近感を創出し景観を作ってくれること、等の理由に依ります。

 一見、か弱そうで小さな下草・植物たちではありますが、色々な下草たちを添植することで、更なる園芸の世好み界に誘われていくのではないかと思います。NHK 朝ドラで植物を語っておられる牧野富太郎先生も、そう言って下さるように思います。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.90~苔玉に添植する小さな下草たち

苔玉に添植する小さな下草たち

 過去40余年、多くの種類の樹木たちを苔玉に仕立ててきました。ウメ、サクラ、ハナミズキ、イチョウ、カキノキ、コナラ、ハナノキ、モミジ類等の落葉樹木、マツ類、カシノキ類、ガジュマル、ツバキ類、コーヒーノキ等の常緑樹木と、多岐の樹木類に及びます。

 樹木類を苔玉に仕立てる場合、苔玉としての景観を高める目的で、その根元の部分に玉リュウノヒゲ、コクリュウ、ハクリュウ、トキソウ等の単子葉植物たちを下草として添植しております。細身で小さくて目立たない草たちですが、より一層の高木の景観をもたらしてくれます。場合によっては、キヅタ類、シダ類、等を添植します。

 丈夫で殆んど枯れることのない『玉リュウノヒゲ』を多用してしまいがちですが、下草として他にも多くの種類・植物が考えられます。春先に可愛い頭を出すツクシンボだって苔玉にひょっこり頭を出すと、春を待つ園芸心を擽られてしまいます。多くの野草類を園芸に取り込んで頂きたいところです。


 秋には葉を落としてしまう落葉樹木たちは、晩秋から冬季にかけて誠に『枯淡』・・・淋しい景観・・・となってしまいます。その根元に緑の下草が生い茂っている景観を作ることで、春を待つ景観を醸し出す目的で、冬でも緑なす下草を添植するという次第です。更にはクロッカスの球根等を下草として植え付けておけば、黄色、紫色、白色の小さな花を、苔玉地面に楽しむことも可能です。新春を寿ぐなどの目的をもって、フクジュソウを添植するなどしても、『枯淡』の冬景色に上品な彩りを添え、奥深い園芸をお楽しみ頂けるのではないでしょうか。

 一見、か弱そうで小さな下草・植物たちではありますが、色々な下草を添植することで、更なる園芸の世界に誘われていくのではないかと思います。NHK 朝ドラで植物を語っておられる牧野富太郎先生も、そう言って下さるように思います。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.89~苔玉植物、スズメ一家そして私

苔玉植物、スズメ一家そして私

 ベランダの苔玉栽培陳列棚で、昨年に引き続いてスズメ君が営巣・子育てを始めた。定かではないが、昨年も営巣・子育てしたスズメご夫婦だろうと思われます。早朝から『ピーピー』と餌を求める小スズメ君たちの鳴き声も、間もなくの巣立ちで聞こえなくなるのでしょう。スズメ君一家の巣のベランダにうっかり私が近付こうものなら、『ジュ―、ジュ―』と親スズメに怒られてしまいます、「苔玉に水を遣るんだから」という私の事情説明は一切受け付けてくれません。仕方がない、私は窓を閉めて部屋に引きこもると・・・・・辺りの様子を伺いつつ、親スズメご夫婦はせっせと何処かで確保した餌を運んでいる。

 仕方がない、親スズメたちが餌探しに飛び立ったすきを見計らって、苔玉の水遣り等の私の務めを果たしています。子育てスズメ一家と私の園芸作業・・・葛藤・・・、今しばらく続きそうです。子スズメたちがしっかり大人スズメに育ち、巣立っていくまでの我慢、致し方なし!

 苔玉を栽培管理する棚には、オリーブ、大実ヤブコウジ、カマツカ、クロマツ、ユキノシタ、ラン類・・・等の苔玉・・・
更に、これから苔玉に仕立てて行く2.5~3.5号鉢に植え付けたケヤキ、コナラ、玉リュウノヒゲ、ミニサルスベリ、ヤマモミジ、ムラサキシキブ等の樹木苗たちや、園芸トレーに入った山積みの山苔が、水を欲して並んでいます。『水』と『緑』と『土』とが織りなす苔玉園芸植物のベランダに、断りもなく割り込んで営巣・子育てするスズメ君ご一家・・・・・葛藤しつつも、心密かに楽しんでいる私、三者三様です。苔玉植物とスズメ君ご一家に感謝!です。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.88~植物学者・牧野富太郎博士と苔玉

植物学者・牧野富太郎博士と苔玉

 月曜日~土曜日、NHKの朝の連続ドラマで、近世日本植物分類学の功労者「牧野富太郎博士」の生涯が放映されています。私たちが生きている地球上のすべての植物たちには、それぞれに特徴があり名前があるのだと、生涯をかけて日本の植物研究に携わられまた先生でした。毎朝、このドラマの放映を楽しみにしている此の頃です。

 私は、小学2年生(満7歳の頃)の頃に立っての願いで、原色・牧野植物図鑑を買ってもらいました。牧野先生の手によってデッサンされた、植物の素晴らしさに夢を描いた楽しい思い出があります。「三つ子の魂、百迄も・・・」とか、大学進学に当たっては園芸学を選択し、80歳間近い今日に至って尚、苔玉等を通して植物に携わっていること、誠に幸せです。

 苔玉を作るようになって40数年を経ました。この間に概ね1000余種の植物たちを苔玉に仕立ててきました。新たな植物と出会う度に、『苔玉に仕立てたら、どうだろう・・・・・?』との、チャレンジ心に駆られる次第です。極、平凡な「置き玉」、吊るすタイプの「吊り玉」、茶筒型の「棒状苔玉」、手の平に納まってしまう小さな「ミニ苔玉」等々と、植物の特徴に合わせて多様な苔玉を想起し楽しんでいる次第です。

 プラスチック製の植木鉢に植物たちを植えるのは素っ気ないし、さりとて「盆栽」に仕立てていくには相当の時間と技術を要するし、手軽な植物仕立て、云わば「カジュアル盆栽」的な範疇と捕らえて「苔玉」を見建てたらいいのかなと考えている次第です。苔玉として仕立てるなかで、多くの種類の植物たちと親しんできた過去40余年でした。これからも更に多くの種類の植物たちを苔玉に仕立てて、多くの人々の生活空間に植物たちを取り込んで頂きたく、植物チャレンジャーであり続けたいと思います。

 到底、牧野富太郎先生の植物の日々には及びませんが、放映される牧野先生の心意気に少しでも近づきたい・・・・・夢多き少年ならぬ、ボケ玉ジィさんです。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。