【コラム】苔玉に寄せて Vol.93~シクラメンの苔玉
シクラメンの苔玉
秋深まって来ると、赤、白、ピンク、紫色で園芸店を彩るシクラメンの花たち・・・単色以外に絞咲き、フリンジ咲き等々と暖かな室内に一鉢欲しくなります。最近のシクラメンは品種改良が進み、大輪大鉢仕立てのシクラメンとともに、ミニサイズで耐寒性も高く、手頃な鉢花が多く出回るようになりました。
ミニサイズのシクラメンを苔玉に仕立ててみたい、と思う心は晩秋から年末の年中行事・作業になっています。小洒落た受皿に小さなシクラメンの苔玉を誂えて手土産として持参し、友人・知人に喜ばれることしばしばです。

60余年も以前の昔々、私が大学で園芸学を学んでいた頃には、市場にはシクラメンは殆んど出回ってはいませんでした。冬休みの折、大学の花卉園芸学研究室で赤花のシクラメンを一鉢分けてもらって長崎の実家まで持ち帰り、母が大変に喜んだことが懐かしまれます。母は大事に育てて、5月中旬までシクラメンの開花を楽しんでいました。当時は重くて壊れやすい素焼きの陶器製植鉢(5号鉢:15㎝鉢)に仕立てられたシクラメンでした、九州まで列車に揺られて運ぶのは大変なことだった・・・懐かしいシクラメンの思い出です。

令和の時代のシクラメンはミニサイズに品種改良が進んでいる、また軽くて壊れにくいプラスチックの植木鉢に植えられている、更に苔玉に仕立てて楽しむことも出来ます。歌手『布施明』の囁く『シクラメンの香り』を、多くの人たちに楽しんでもらいたいと願います。カラフルで艶やかなシクラメンたちを生活の片隅に置いて頂き、心温まる年末年始を過ごして頂ければ、一塊の園芸家の端くれとしてこの上ない喜びです。
素焼きの陶器鉢に植えられた赤単色花のシクラメンを抱えて九州まで運び、母が大喜びしてくれたこと・・・時移り・・・軽いプラ鉢に植えられた艶やかな花々の開花するミニシクラメンを持ち運び気軽にプレゼントが出来る令和の時代・・・ミニシクラメンを苔玉に仕立てながら『アレコレ』思い出し、思いを致しております。

執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。