45余年以前から、私は園芸店、ホームセンター等の園芸売り場、造園工事業等を営まれる方々への経営コンサルに携わって、列島行脚しております。そうした中で、売れ残ってしまった植木類の小苗や小さな観葉植物等の対応に行き詰り、困りきっておられる方々の窮状を知ることになりました。さて、さて、如何に対応したらいいのやら・・・・・?
とりあえず、売れ残った植物の根部が乾燥しないように、根元を水苔等の苔類で覆い包んで店頭に陳列して頂く・・・・・という対応を促したことでした。水苔を使って、丁寧かつ美しく植物の根部を覆い巻く、そんな園芸売り場を見かけるようになりました。そうこうするうちに、黒ビニールポットに植えられた樹木苗よりも苔で根元を巻いた樹木の苗が、多くのお客様に好まれていることに気付かされたのでした。なるほど!これはいい!
「苔玉」の始まり、であったと思います。時、あたかも生活全般に拡大した高分子化学・プラスチック製品が、環境汚染の元凶と目されつつある世相でした。至極自然に、多くの園芸愛好家の皆様方に、根元を苔巻きした樹木苗が受け入れられていったのだろうと、思いを致したことでした。
あれから概ね45余年を経ました。この間に概ね1,000余種に及ぶ植物を、「苔玉」という形でデビューさせてきました。濃緑色の苔で根部を包まれた植物に触れ、何気に心・癒されておられる人々の姿を見させていただき、心から嬉しくなります。
園芸愛好されてきた大先輩たちには盆栽、盆景といった高度の園芸芸術があります。これらを入手・管理・愛培するには多くの手間暇、そして経費も掛かります。それに比べると誠に手軽に入手可能、愛培できるのが「苔玉」です。いわば「カジュアル盆栽」とでも言えましょうか。今日も、高齢の方々が終の棲家とされているとある高層マンションで、「御殿場桜」の苔玉作りにチャレンジして頂きました。出来上がった桜の苔玉に触れ、嬉しそうなお顔のご高齢の方々でした。
たかが手の平に乗るほどのまことに小さな「苔玉」にすぎません。されど、私たちを大きな自然界に誘ってくれる大きな存在の「苔玉」に感謝です。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
歳の初め一月末以来、仙台市、都区内、京都市、新潟市、そしてまた仙台市と園芸を語って歩き回り、多忙を極めました。
為に散髪に行くことままならない有様で、白髪交じりの髪を伸びっ放しで苔玉を語っていた次第、昨日、仙台市内の園芸屋さんで苔玉論議を交わしていたところ、とうとう「苔玉仙人」の如し、と言われてしまったことでした。
一月末、仙台市でユキツバキの苔玉作りに始まりまして、都区内ではクロマツ等のマツ類、京都市では苔玉をメインに据えた超ミニ庭園に及ぶ打ち合わせ、そしてまた仙台市では白花の開花した常緑クレマチスの吊苔玉で園芸店舗空間を賑わし・・・・・等々、枝は切っても髪を切る間のない状況・・・・・白髪の伸びた「苔玉仙人の如し」と揶揄されて、やっと散髪・身嗜みの必要性を認識したことでした。
歳のはじめから、かくも多くの方々に「苔玉」を愛でて頂いたこと、深く感謝しています。寒さ厳しいにもかかわらず、赤、白、ピンク色の各種の「雪椿」を苔玉に創っていく過程で、多くの仙台市の方々の嬉しそうなお顔に触れることが出来ました。
京都市では大・中・小の各種植物の苔玉を組み合わせて、超ミニ庭園(寸庭)を構築していくことに、新たな想い・知恵・技能の有り様を語り合いました。
そしてまた仙台市では、寒さ厳しい園芸ハウスの天井下・空間に、少しでも暖かい彩りを添えたいとの思いから、白花の常緑クレマチス、黄花のカロライナジャスミン等を、吊り仕立ての苔玉に仕立て、園芸大好きなお客様たちに喜んで頂きました。
戸外を歩くことの憚られる厳冬期です。赤い雪椿の蕾、黄色や白い花たちを咲かせてくれる小さな「苔玉」を通して春よ来い♪、早く来い♪ おんもヘ出たい待っているミヨちゃんの願いを叶えて上げたい「苔玉仙人」です。
黄花のカロライナジャスミン
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
昨年末から新春にかけて多くの松の苔玉を作成しました。クロマツ、アカマツ、ゴヨウマツ等でした。植物の本性・向日性の故に、若いマツは素直に真っすぐ上に伸びた樹形で育ち、鑑賞するには面白味がありません。私たちの住む日本列島は、アジアモンスーン地帯に位置しているので海岸風が強く吹き付け、クロマツの樹形は風に押されて幹も枝も曲がってしまいます。この曲がったクロマツを故人たちは「磯慣れ松(そなれまつ)」と言って、慣れ親しんできました。風に煽られて曲がった松の生育する環境の中で生きてきた私たち日本人に、「磯慣れ松」という自然が心のどこかに映像化されてきたのかもしれません。
風に煽られ磯部に力強く張り付いて生きる松・・・・・を盆景の中に描くために、枝振りに変化を付けて面白みを演出する必要に迫られました。ために、幹や枝部分に園芸用のアルミ線を螺旋状に巻き付け、右・左に、更にスパイラル状にと、自在に枝振りを作るようになりました。
真っすぐに幹の伸びた樹形を「直幹」と言います。穏やかな地中海型気候のイタリアや南仏に育つ松は「直幹」型に育っています。直幹樹形の松は、それなりに良さもありますが、私たちは風に煽れるアジアモンスーン地帯が育ち慣れ親しんだ環境の故か、マツは主幹や枝の細い部位を曲げたり捻ったりと、自在に変化を付けたくなってしまいます。この年末年始に作成したマツ類の苔玉の殆んどに、園芸用アルミ線で曲げ・捻り等を加えて「松の苔玉」に仕立てたのでした。
クロマツ、アカマツ、ゴヨウマツ等の苔玉に限らず、過去に制作した苔玉たちにも、園芸用アルミ線等を使って主幹・枝振りに変化を付けてきました。オリーブ、コナラ等の雑木類、シマトネリコ、ツバキやサザンカ類、ナナカマド、ムラサキシキブ、モミジ類、等々の苔玉作成がそうでありました。
枝や幹を曲げたり捻ったり・・・・・植物達には甚だ迷惑千万なことは百も承知、でも私たちの生活環境に合わせて我慢してもらうしかありません。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
60数年も以前のこと、私が高等学校3年生時の担任の先生、長嶺洋先生が92歳の誕生日を迎えられた。当時のクラスメイト10余人が故郷長崎・佐世保の地に集まり、お祝いすることとなりました。祝宴に当たり、記念品は何にしたものか?・・・
悩んだ末に、私、「宮内・作製の苔玉がいい」と、世話役同級生たちの結論・・・
という次第で、悩みは私・一人にバトンタッチ。さてさて植物は何を選定したものやら、どんな形に纏め上げたものやら、等々、責任重大・・・。悩んだ末に「黒松」の苔玉に思い至りました。早速に、良き樹形のクロマツを求めての植物探しです。「千歳松」と名付けられた香川県産の縁起良い黒松を探し当てました。京都市産の山苔を使って苔玉に仕立て上げ、松ボックリを添景物として何とか仕上げることが出来ました。
11月23日が佐世保で祝宴、前日22日に苔玉に仕立てた「千歳松」を荷造りし、新幹線を乗り継いで佐世保市に到着、翌祝宴会場に届けることが出来ました。
祝宴会場に恩師ご夫妻をお迎え、宴たけなわの中で、記念の千歳松を無事にお贈りし、肩の荷を降ろしたことでした。「磯馴れの松」形状に仕立てた黒松の苔玉に、恩師ご夫妻には喜んで頂き、つくばから九州佐世保市まで運んできた甲斐がありました。高等学校を卒業してより60有余年、お元気な恩師のお姿に触れ、乾杯、喜びを分かち合えたこと、誠に幸せです。
「磯馴(そなれ)松」の形状に仕立て上げた黒松の苔玉が祝の宴を一層盛り上げてくれたことに感謝です。恩師・友人たちには「よか盆栽だネェ」というお褒めを戴きましたが、「盆栽」域には及ばず、敢えて言うならば、「カジュアル盆栽」のクロマツとでも、言っておきましょう。
「長嶺洋先生!ご長寿おめでとうございます。益々のご健勝を祈念申し上げます。」
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
歩行者専用の緑道が整備された筑波研究学園は、散歩するにはうってつけのラインでいっぱいです。紅葉で彩られた秋の歩行者専用道路を散策する、魅力がいっぱいです。
自然の景観に見とれて、この佇まいを苔玉の世界にいれていきたいものだなぁ・・・と思い描いております。
紅葉する木々の合間に濃い緑の黒松や赤松の林が程よく散在します。松の樹林下には松ボックリが転がり落ちています、ついつい手に取ってみたくなること、しばしばです。松の木の直下に松ボックリ・・・なかなかの景観であり、ストーリーだなぁと思うことしばしばです。
そうだ、この景観、季節感、ストーリーを苔玉作品に描いてみよう・・・と、早速にクロマツの苔玉に、添景物として松ボックリを配してみました。クロマツの老いた厳つい風情の幹肌に、マツの赤ん坊である松ボックリが張り付いている・・・なかなかの景を醸し出しました・・・老木と若い子孫が同一空間に生きている姿は、なかなかの様となり、ストーリーとなりました。
私が若き日々、大学時代の頃、園芸・造園学を学ぶ中で折に触れて、「自然に学べ」と、教え諭されたものでありました。ゴツゴツとしたクロマツの老木の幹肌・傍らに無造作に転がる松ボックリ、この相者が若き日々の学びを想起させてくれました。松の老幹肌・松の赤子「松ボックリ」を見ていると、永遠に繋がる命の偉大さを改めて思い知らされた気がしないでもありません。黒松の強面な老幹肌と松ボックリは、一個の苔玉景観を通して、命の世代交代を、言わず語らずのままに私に教えてくれました・・・たかが路辺に放り出された松ボックリ、されど未来の松の大木であったのです。
緑なす「苔」の大地で、老幹肌「クロマツ」と「松ボックリ」が演出する舞台・・・たかが小さな「苔玉」、されど思いは無限に拡がる「苔玉」空間舞台です。小さな苔玉園芸空間に、私たちの思いの一端でも表すことが出来たらいいなぁ・・・等々、深み行く秋の中で思いを馳せています。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。