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【コラム】苔玉に寄せて Vol.96~万両、千両、百両、十両、一両の苔玉

万両、千両、百両、十両、一両の苔玉

 『万両、千両、百両、十両、一両』・・・・・

全て園芸植物の名称です。

植物学上では、次のように分類されます。

マンリョウサクラソウ科
センリョウセンリョウ科
ヒャクリョウ(別名 カラタチバナ)サクラソウ科
ジュウリョウ(別名 ヤブコウジ)サクラソウ科
イチリョウ (別名 アリドウシ)アカネ科

年末・年始の頃に赤い果実を付け、古来より縁起モノ植物として親しまれてきました。お金に恵まれ、豊かな気持ちをもたらしてくれそうな植物たちです。

 『万・千・百・十両』は嬉しい、として、『一両』は出来れば遠慮したい・・・初詣に当たって、一部の寺社では一円玉お賽銭を遠慮したいとのこと・・・金融機関に1円玉を100枚預けると手数料100円プラス10円の消費税・・・一円が敬遠される所以でしょう。でも、一両には見過ごせぬ縁起があります。

一両(アリドオシ)の苔玉

 植物『イチリョウ』は、別名『アリドオシ』とよばれます。植物体に細くて鋭い棘を有する・・・その棘が『蟻』をも突き『通し』、すなわち『蟻通し(アリドオシ)』によるものです。

 更に『蟻通し』を『在通し(アリドオシ)』と読むことで、『万両・千両・百両・十両・・・在り通し』、・・・お金に困ることがない、という願いを込めた、縁起植物・・・!

 昨年末から年始にかけて、たくさんの松・竹・梅の苔玉を作り新年を寿ぐことが出来ました。『万両~十両』常に『在り通し』の豊かな歳でありたい・・・そんな願いを込めて、黄金の植物たちの苔玉もたくさん作って、2024年新年を迎えました。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.95~ウメの苔玉

ウメの苔玉

 古来、日本の年末・新年を寿ぎ彩ってきた植物たちの代表は、松・竹・梅ということになります。寒さ厳しい中で固い蕾を過ごし、紅白の開花で新春を華やいでくれる『梅の花』、厳冬を乗り切った強さの中に、凛とした美しさを思い起こさせてくれます。今、開かんとする紅白の『梅の蕾』付き苔玉は、『新年の苔玉』人気のトップの座にあります。新年の園芸店では、赤い実で彩られたヤブコウジ、マンリョウ、ナンテン等の下木類の中で、凛としたウメの蕾は格別です。白梅、紅梅、赤・白咲き分けする『思いのまま』等、多くの品種群が新春を伝えてくれます。

樹冠いっぱいに紅白開花した苔玉の梅は、早春を思わせてくれます。花散ると、ウメの苔玉も一足早い新緑で満たされ、春の到来を確実に定着させてくれます。

 更に異なった品種のウメがあれば、5~6月にはウメの果実を楽しむこともできます。ウメの苔玉に5~6個の『梅の実』が付いたら、これは新たな『苔玉景観』を見る喜びになります。梅の実の付いた・景観を期待するには、必ず異品種のウメの存在が必要です。一本のウメの苔玉だけでは、けっして結実することはありません。

 「庭先に植えた一本のウメの木だけど、毎年実が付くんだ」という声を聴くことがあります・・・それは、庭先のウメの木が、隣近辺の異品種のウメの木に咲く花と自由恋愛しているからに他なりません。ウメという植物は『自家不和合性』という性質があって、決して同一植物体・同一品種間では雄蕊と雌蕊が結合しない、すなわち同一親族間では決して生殖することがないということです。

 もし、梅の実を期待されるのであれば、紅梅と白梅の『梅の苔玉』等、異なるウメの品種をお持ちになって下さい。そうすれば隣近辺の梅の花と自由恋愛すことなく、自家製の『梅の実』が期待できる・・・苔玉栽培・鑑賞をお楽しみ頂けるでしょう。血筋の近い婚姻は強い子孫を残さない・・・『内婚弱性』ということをウメは知っているのですね。ご当地に古くからある茨城県水戸市の偕楽園には数十種類の品種のウメが植えられており、観梅で楽しみ、多くの『梅の実』を収穫されています。

 来春も紅梅、白梅の苔玉を楽しみ、初夏には10粒程度の梅の実を苔玉樹上に付けようと、思い描いて・・・・・

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.94~クロマツの苔玉

クロマツの苔玉

 まだ11月初旬、街中ショッピング街はすでに忙しない年末の装いが始まっています。園芸の店先では赤い実で彩られたヤブコウジ、マンリョウ、ナンテン等と共にクロマツ、ゴヨウマツなど年末・年始の植物たちも徐々に並び始めました。年始を寿ぐ植物の大様は、やっぱり松類でしょうか。クロマツ等の苔玉作りの季節が来たナァ・・・園芸愛好家も御多分に漏れずという此の頃、早速クロマツの苔玉作りにチャレンジしました。

 クリスマスを彩る赤葉のポインセチアや色とりどり・艶やかなシクラメン等に比べると、地味な存在に思われる松類ではありますが、新年はやっぱり「松竹梅」が私たちの生活・習慣に根付いた植物です。中でも松はその筆頭格です、見逃すことは歴代の慣習に反します。

 クロマツは樹木の王様格・見るからに威厳に満ち溢れており、苔玉制作に当たっては、それなりの忖度に及ばざるを得ません。小さな苔玉とは言え、クロマツ大王の威厳を保って、その風格を表現しなければ等々、思いを致しながら、しかし気取ることなくクロマツの苔玉にしたい・・・あえて言うならば「カジュアル盆栽」的に位置付けたい・・・そんな思いを致しながら、チャレンジしました。

 クロマツだけを単体で苔玉に仕立てては、ちょっと寂しいし・・・、下草に玉リュウノヒゲを添植、更に添景物として松ポックリを配してみました。添景とした松ボックリから発芽したクロマツと見るか、はたまたクロマツから落下した松ボックリという景観と読み解いてみるか、いずれにしても「松と松ボックリ」のストーリーを思い描いてもらいたい・・・と、願いをこめました。

 余談ですが、添えた松ボックリが、果たして黒松の松ボックリであるのか、ひょっとしたら赤松の松ボックリなのか?・・・、少々気になるところです。(笑)

 クロマツの苔玉を作りながら、平穏なる年末であれよ、そして良き新年であれよかし、と祈りつつ・・・。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.93~シクラメンの苔玉

シクラメンの苔玉

 秋深まって来ると、赤、白、ピンク、紫色で園芸店を彩るシクラメンの花たち・・・単色以外に絞咲き、フリンジ咲き等々と暖かな室内に一鉢欲しくなります。最近のシクラメンは品種改良が進み、大輪大鉢仕立てのシクラメンとともに、ミニサイズで耐寒性も高く、手頃な鉢花が多く出回るようになりました。
 ミニサイズのシクラメンを苔玉に仕立ててみたい、と思う心は晩秋から年末の年中行事・作業になっています。小洒落た受皿に小さなシクラメンの苔玉を誂えて手土産として持参し、友人・知人に喜ばれることしばしばです。

 60余年も以前の昔々、私が大学で園芸学を学んでいた頃には、市場にはシクラメンは殆んど出回ってはいませんでした。冬休みの折、大学の花卉園芸学研究室で赤花のシクラメンを一鉢分けてもらって長崎の実家まで持ち帰り、母が大変に喜んだことが懐かしまれます。母は大事に育てて、5月中旬までシクラメンの開花を楽しんでいました。当時は重くて壊れやすい素焼きの陶器製植鉢(5号鉢:15㎝鉢)に仕立てられたシクラメンでした、九州まで列車に揺られて運ぶのは大変なことだった・・・懐かしいシクラメンの思い出です。

 令和の時代のシクラメンはミニサイズに品種改良が進んでいる、また軽くて壊れにくいプラスチックの植木鉢に植えられている、更に苔玉に仕立てて楽しむことも出来ます。歌手『布施明』の囁く『シクラメンの香り』を、多くの人たちに楽しんでもらいたいと願います。カラフルで艶やかなシクラメンたちを生活の片隅に置いて頂き、心温まる年末年始を過ごして頂ければ、一塊の園芸家の端くれとしてこの上ない喜びです。
 素焼きの陶器鉢に植えられた赤単色花のシクラメンを抱えて九州まで運び、母が大喜びしてくれたこと・・・時移り・・・軽いプラ鉢に植えられた艶やかな花々の開花するミニシクラメンを持ち運び気軽にプレゼントが出来る令和の時代・・・ミニシクラメンを苔玉に仕立てながら『アレコレ』思い出し、思いを致しております。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.92~ガジュマルの苔玉

ガジュマルの苔玉

 「苔玉」を作って45余年にもなります。この間、「ガジュマル」の苔玉は他の植物たちに抜きん出て人気を持ち続けております。「ガジュマル」という和名は、沖縄の地方名ですが、その由来は明確ではありません。垂れ下がった気根は、徐々に土台や自分の幹に複雑にからみつき、派手な姿になっていきます。捩じれたりトンネル状の奇妙な樹形を作ったり、その変幻自在に成長した樹形が喜ばれていると思われます。しかも、ガジュマルは常緑広葉樹であることから、四季を通じて濃緑の革質でやや厚い楕円形または卵形の葉を楽しむことが出来ます。

 ガジュマルの花言葉は「健康」とされて、別名「多幸の木」と呼ばれます。「ガジュマル」の名の由来は、こうした幹や気根の様子である「絡まる」姿が訛ったといわれています。気根は出初めはごく細いが、太くなれば幹のように樹皮が発達します。地面に達すれば幹と区別が付かなくなります。また、成長した気根は地面の舗装に使われているアスファルトやコンクリートなどを突き破る威力があります。こうした過程で、土台となる木は枯れていきます(ガジュマルはいわゆる「絞め殺しの木」の一種での由縁です)。観賞用として、中の枯れた木部を取り除いて空洞状にした木も販売されています。イチジクのような小さな花がつきます。

 大学で園芸学を学んだ私でしたが、「ガジュマル」という樹木を知ったのは社会人になってからのことでした。「ガジュマル・・・?!」その名称だけは聞いてはいましたが、「面白い名前の植物があるんだナァ?・・・」、程度の認識でしかありませんでした。職務で東京都八丈島に出張の折「面白い木があるもんだナァ!・・・」これがガジュマル君との出会いでした。


 「苔玉」が私の生業に位置付けられてきた中で、ガジュマル君は私の生活の中に大きく幅を利かせて頑張っております。正に「多幸の木、ガジュマル」となりました。牧野富太郎博士の仰る如く、もっともっと多くの植物たちに親しまなければと思いを致す次第です。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。