Posts in Category: 苔玉に寄せて

【コラム】苔玉に寄せて Vol.109~ツバキの苔玉

 年初に当たって、椿の苔玉を作ってみました。樹高40㎝程度、3本の枝先にはほんのりと赤味を帯びた蕾が7~8 個、着いていました。花は赤色・一重咲き種で、品種名『三千院の侘助』と命名されていました。

 因みに『椿』は1月の『茶席の花』の代表花とされます。菊月(一重筒咲き)、加茂本阿弥(雪白色 一重咲き)、侘助(淡桃色地に濃桃色斑入)、紅妙蓮寺(紅色)、初嵐(白色)、等が、古くからの『茶席の椿花』の代表品種とされています。

 寒さ厳しいこの季節に、濃緑の葉先にほんのりと赤い蕾が着いた椿、白一面の雪景色に置いたらいいだろうナァ!・・・思い描きながら、早速、椿の苔玉造りにチャレンジです。下草として三芽ほどのタマリュウノヒゲあしらい、根元を山苔覆い仕上げました。
 苔玉に仕立ててみると、3本の直幹が単純に立っているだけの樹形がなんとも心もとなく、不自然に感じました。3本の直幹それぞれに園芸銅線(直径3㎜)をスパイラルに巻き付けて、直幹を右に左にあるいはスパイラルに曲げ、枝振りを整えました。ふくよかな紅色の蕾の『三千院の侘助』椿を、黒褐色の美濃焼皿にのせて居間の一角に誂えました。「ワァ!・・・・・素敵!」、茶の湯に親しむ高齢の女性の眼鏡に敵い、お持ち帰り頂きました。
 今から24~25 余年以前の1月、故郷・長崎で茶の湯に興ずる私の母、初釜の席を賑わす茶花が欲しいとの話、20余種の椿の苔玉を送ったことがありました。主として梅芯タイプ『肥後椿』系統でした。初釜茶席は『椿談義』で賑わったとのこと、終わりに招客皆様に『椿の苔玉』をお持ち帰り頂き、喜んで頂いたとのことでした。

 椿は純粋な日本生まれの花木です。日本から欧米各国に渡って華やかに品種改良されたものも多く、令和の時代、それぞれの好みや思い出に沿って、『椿』を私たちの生活に取り入れ、楽しんで頂きたいと願っています。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.108~苔玉の樹形を整える

昨年末から新年にわたって、クロマツ、アカマツ、ウメ、ミリオンバンブー、マンリョウ、センリョウ、ヒャクリョウ、ヤブコウジ等の苔玉を作った。いずれも新年を寿ぐ縁起物として多くの人々に慶んで頂いた。

これらの植物は、ポットに植え付けてあるそのままの形では鑑賞に値しない場合が多い。針金当を使って、自在に樹形を整える・・・あるものは枝振りをスパイラルに曲げたり、クロマツの枝をそ馴松「磯馴松」に見えるように枝を大きく曲げたりと、加工した。マンリョウ、センリョウ、ヒャクリョウ類は、一本立ちでポットの中心にポツンと味気なく立っている。右に左に、また前や後ろに自在に枝を針金で誘引して枝振りを整えた。

クロマツの苔玉

出来上がった苔玉たちを見て、「盆栽苔玉みたいだなぁ」と、若い人たちに人気を博した。単に園芸用銅線で樹形を整えただけのことであったが、若い人たちの園芸に対する心眼に触れ、園芸愛好家として嬉しくなりました。さしずめ、「カジュアル盆栽」とでも位置づけられそうです。

植物への銅線針金かけには、細かい配慮が欠かせません。葉を巻き込まないように上手に針金をあてがったり、枝分かれ部分には支線の針金をあてがったり、また、針金の頂上をどこで打ち止めにするものか・・・アレコレ悩みながら針金巻きにチャレンジです。時折、無理を承知で針金掛けして、ポキンと大事な枝を折ってしまうこともあります。

そんな苦労の結果、思いのままの枝振りに仕上がった苔玉たちが出来上がったときは、心から嬉しくなります。古くから伝わる園芸技術を、広く伝承していきたいと願っております

マンリョウの苔玉

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.107~私の部屋の同居人、『苔玉』たち!

 12月中旬を迎え、急激に寒さ厳しくなりました。ベランダに展開していた熱帯や亜熱帯地方生まれの植物たちを、大急ぎで室内へ取り込む・・・観音竹、月下美人、大銀龍、ウンベラータ、サンスベリア、ブーゲンビレア・・・どれも30㎝の大鉢仕立ての巨体、室内は熱帯ジャングルの様相。

熱帯巨木の足元は小さな植物たちが溢れている、『苔玉』『多肉植物』等々・・・寒風吹きすさぶ外空間から室内に取り込まれて安堵しているようです。

年末・年始の苔玉たちもいっぱいです・・・ミニシクラメン、カロライナジャスミン、ミニバラ等の花の苔玉・・・クロマツ、ミリオンバンブー、紅白のウメ、赤実のナンテン、マンリョウ、ヤブコウジ、等々の新年を寿ぐ苔玉たち・・・ガジュマル、パキラ、ポトス等の亜熱帯植物の苔玉たち、私の部屋はパソコン空間を残し、植物たちに占拠されてしまっています。 

乾燥した寒風吹きすさぶ戸外に放置しては、『苔玉』は上手く育ちません。本来、『苔』は高い空中湿度を好む植物です、西から吹きすさぶ空っ風は、『苔』は勿論のこと、植物本体をも傷めてしまいます。さらに氷点下に降下してしまっては、苔玉も凍結してしまいます。苔玉も乾燥・寒風そして寒さは避けなければなりません。 

部屋の様子

年末・年始を松竹梅の『苔玉』で寿ぎ、暖かさ陽射す春の訪れを心待ち、苔玉や亜熱帯生まれの植物たちを同居人として面倒見ながら、楽しみながら、厳寒期を乗り切ります。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.106~シクラメンの苔玉

10月下旬頃から花屋さんの店頭に並び始めたシクラメン・・・・・赤、紫、ピンク、白等とバラエティ豊かな花色のシクラメンがいっぱいです。この時期、『苔玉』もシクラメンの人気が高く、『シクラメンの苔玉教室』を募集・開催すると、瞬く間に定員いっぱいになります。苔玉教室・当日は、赤花がいい、いや白花だ、紫色花だと、賑わいます、嬉しいことです。


60余年以前、私は園芸学研究室で花卉の園芸学を学ぶ大学生でした・・・が、シクラメンは、これ程多種・多量に出回っていませんでした。花色も殆ど赤色のみ・・・今日に比べると、まことに貧弱なシクラメン園芸でした、隔世の感がある今日のシクラメン園芸です。

元気に育つ鉢仕立てのシクラメンは、植え付けられた鉢いっぱいに葉が拡がっています。葉数が多いだけに、鉢植えで元気に育っているシクラメンは、葉面からの蒸散作用による水分の蒸発が多くなります。うっかり水遣りを忘れて、花茎・茎葉とも萎れてしまった姿をよく見かけます。急遽・水を遣って、元気な姿に立ちなおしてみようと試みるものの、グンなり萎れた茎葉・花茎をもとの姿に立ち上げ直すのは、容易なことではありません。


そんな時の対応策として、私は『ションボリ』してしまった鉢植えシクラメンにたっぷり水遣りして、その後しっかり水を切って、然る後に、鉢植えシクラメンを逆さに吊るす作業を施します。2~3時間後、逆さ吊りした鉢植えシクラメンを正常体形に戻す・・・・・ほとんどの場合、元気な姿に戻ってくれます。『苔玉仕立てのシクラメン』が、水切れ・ションボリしてしまった場合は、鉢植え以上に効果抜群です。元気なシクラメンに立ち直ったところで、『葉組み』作業を施しながら、花茎を立ち上げ直して鉢植え姿全体を整えて下さい。


あくまでも、緊急事態対応策です、基本は水遣りを忘れないことが一番です。上手く管理を行って、年末のシクラメン園芸をお楽しみ下さい。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.105~苔玉の受皿を見直してみましょう

  室内の一角にさり気なく設えられた苔玉・・・心癒されること、しばしばです。

益子焼、笠間焼や美濃焼等の渋い色合いの陶製皿に置かれた苔玉仕立てのヤマモミジ、クロマツ、コナラ等には、ついつい見惚れてしまいます。赤い実を着けたヘビイチゴや暗赤色花のワレモコウ等の山野草の苔玉たちが、微かな風に・・・・・揺れる動きを覚えさせられたとき・・・・・心地よい自然との触れを知らされます。

 赤、黄、紫と艶やかな色合いの花・ミニチュアローズの苔玉は、洋風食器皿盤上に可愛らしく煌びやかに、彩を添えています。

 洋の東西を問うことなく、それぞれの出生に合った陶製の皿上に苔玉植物たちは、その存在を主張しています。主役・苔玉植物たちを支えるものの、受け皿は品格ある優しさをもち、でも目立って欲しくはありません。 苔玉植物と受皿との関係を、少しばかり深読みしてみます。

白色の受皿は避けるべきです。皿は陶製・磁器製の二種類がありますが、中でも磁器製の皿は白色に仕上げられたモノが多くみられます。白色地の皿に太陽光線が当たると強い反射光が発生し、その反射光線が植物の葉裏を照らすこととなり、植物を痛めることになってしまいます。

 また、受皿の白色は明度20度で明るく目立ちます。私たちが見たいモノは・・・
緑色の枝葉と、赤色に代表される花や果実・・・であったはずです。緑色と赤色は明度14度で、白色よりも暗くて目立ちません。明度20度の白色受皿が目に入り、明度14度の緑や赤い花の存在が薄れてしまう・・・という結果、本能的にセンスの程を疑わざるを得ない結果を招くということになります。 結論、鑑賞する植物の受皿等は、白色のモノは避けてください。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。