Posts in Category: 苔玉に寄せて

【コラム】苔玉に寄せて Vol.90~苔玉に添植する小さな下草たち

苔玉に添植する小さな下草たち

 過去40余年、多くの種類の樹木たちを苔玉に仕立ててきました。ウメ、サクラ、ハナミズキ、イチョウ、カキノキ、コナラ、ハナノキ、モミジ類等の落葉樹木、マツ類、カシノキ類、ガジュマル、ツバキ類、コーヒーノキ等の常緑樹木と、多岐の樹木類に及びます。

 樹木類を苔玉に仕立てる場合、苔玉としての景観を高める目的で、その根元の部分に玉リュウノヒゲ、コクリュウ、ハクリュウ、トキソウ等の単子葉植物たちを下草として添植しております。細身で小さくて目立たない草たちですが、より一層の高木の景観をもたらしてくれます。場合によっては、キヅタ類、シダ類、等を添植します。

 丈夫で殆んど枯れることのない『玉リュウノヒゲ』を多用してしまいがちですが、下草として他にも多くの種類・植物が考えられます。春先に可愛い頭を出すツクシンボだって苔玉にひょっこり頭を出すと、春を待つ園芸心を擽られてしまいます。多くの野草類を園芸に取り込んで頂きたいところです。


 秋には葉を落としてしまう落葉樹木たちは、晩秋から冬季にかけて誠に『枯淡』・・・淋しい景観・・・となってしまいます。その根元に緑の下草が生い茂っている景観を作ることで、春を待つ景観を醸し出す目的で、冬でも緑なす下草を添植するという次第です。更にはクロッカスの球根等を下草として植え付けておけば、黄色、紫色、白色の小さな花を、苔玉地面に楽しむことも可能です。新春を寿ぐなどの目的をもって、フクジュソウを添植するなどしても、『枯淡』の冬景色に上品な彩りを添え、奥深い園芸をお楽しみ頂けるのではないでしょうか。

 一見、か弱そうで小さな下草・植物たちではありますが、色々な下草を添植することで、更なる園芸の世界に誘われていくのではないかと思います。NHK 朝ドラで植物を語っておられる牧野富太郎先生も、そう言って下さるように思います。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.89~苔玉植物、スズメ一家そして私

苔玉植物、スズメ一家そして私

 ベランダの苔玉栽培陳列棚で、昨年に引き続いてスズメ君が営巣・子育てを始めた。定かではないが、昨年も営巣・子育てしたスズメご夫婦だろうと思われます。早朝から『ピーピー』と餌を求める小スズメ君たちの鳴き声も、間もなくの巣立ちで聞こえなくなるのでしょう。スズメ君一家の巣のベランダにうっかり私が近付こうものなら、『ジュ―、ジュ―』と親スズメに怒られてしまいます、「苔玉に水を遣るんだから」という私の事情説明は一切受け付けてくれません。仕方がない、私は窓を閉めて部屋に引きこもると・・・・・辺りの様子を伺いつつ、親スズメご夫婦はせっせと何処かで確保した餌を運んでいる。

 仕方がない、親スズメたちが餌探しに飛び立ったすきを見計らって、苔玉の水遣り等の私の務めを果たしています。子育てスズメ一家と私の園芸作業・・・葛藤・・・、今しばらく続きそうです。子スズメたちがしっかり大人スズメに育ち、巣立っていくまでの我慢、致し方なし!

 苔玉を栽培管理する棚には、オリーブ、大実ヤブコウジ、カマツカ、クロマツ、ユキノシタ、ラン類・・・等の苔玉・・・
更に、これから苔玉に仕立てて行く2.5~3.5号鉢に植え付けたケヤキ、コナラ、玉リュウノヒゲ、ミニサルスベリ、ヤマモミジ、ムラサキシキブ等の樹木苗たちや、園芸トレーに入った山積みの山苔が、水を欲して並んでいます。『水』と『緑』と『土』とが織りなす苔玉園芸植物のベランダに、断りもなく割り込んで営巣・子育てするスズメ君ご一家・・・・・葛藤しつつも、心密かに楽しんでいる私、三者三様です。苔玉植物とスズメ君ご一家に感謝!です。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.88~植物学者・牧野富太郎博士と苔玉

植物学者・牧野富太郎博士と苔玉

 月曜日~土曜日、NHKの朝の連続ドラマで、近世日本植物分類学の功労者「牧野富太郎博士」の生涯が放映されています。私たちが生きている地球上のすべての植物たちには、それぞれに特徴があり名前があるのだと、生涯をかけて日本の植物研究に携わられまた先生でした。毎朝、このドラマの放映を楽しみにしている此の頃です。

 私は、小学2年生(満7歳の頃)の頃に立っての願いで、原色・牧野植物図鑑を買ってもらいました。牧野先生の手によってデッサンされた、植物の素晴らしさに夢を描いた楽しい思い出があります。「三つ子の魂、百迄も・・・」とか、大学進学に当たっては園芸学を選択し、80歳間近い今日に至って尚、苔玉等を通して植物に携わっていること、誠に幸せです。

 苔玉を作るようになって40数年を経ました。この間に概ね1000余種の植物たちを苔玉に仕立ててきました。新たな植物と出会う度に、『苔玉に仕立てたら、どうだろう・・・・・?』との、チャレンジ心に駆られる次第です。極、平凡な「置き玉」、吊るすタイプの「吊り玉」、茶筒型の「棒状苔玉」、手の平に納まってしまう小さな「ミニ苔玉」等々と、植物の特徴に合わせて多様な苔玉を想起し楽しんでいる次第です。

 プラスチック製の植木鉢に植物たちを植えるのは素っ気ないし、さりとて「盆栽」に仕立てていくには相当の時間と技術を要するし、手軽な植物仕立て、云わば「カジュアル盆栽」的な範疇と捕らえて「苔玉」を見建てたらいいのかなと考えている次第です。苔玉として仕立てるなかで、多くの種類の植物たちと親しんできた過去40余年でした。これからも更に多くの種類の植物たちを苔玉に仕立てて、多くの人々の生活空間に植物たちを取り込んで頂きたく、植物チャレンジャーであり続けたいと思います。

 到底、牧野富太郎先生の植物の日々には及びませんが、放映される牧野先生の心意気に少しでも近づきたい・・・・・夢多き少年ならぬ、ボケ玉ジィさんです。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.87~春です、初夏です、苔玉園芸多忙です!

春です、初夏です、苔玉園芸多忙です!

 迎春とは名ばかりの未だ寒さ厳しい新年、「苔玉仕立ての梅」の開花は、艶やかな紅白で春の訪れを実感させてくれました。ウメ開花に続いて、黄花のロウバイ、レンギョウ、桃色花のヒメコブシ、ハナモモと続き、春本番・桜花の季節となりました。マメザクラ、雲竜湖上の舞、御殿場桜等の一歳もの品種の「サクラの苔玉」を多くの方々に作って頂きました。

桜の苔玉

 春・本番です・・・・・新緑のヤマモミジ、赤芽のノムラカエデ、ケヤキ、コナラ、アメリカハナノキ等々の落葉樹木類の芽吹き・新緑。更に蔓性植物・白花の羽衣ジャスミン、黄花のカロライナジャスミン、オリヅルラン、イングリッシュアイビー等の「吊苔玉」作りも大忙し、春爛漫の様相を呈してきた苔玉世界です。赤・白花のハナミズキ、黄花のレンゲツツジ、樺色花のカバレンゲツツジ、紫色花のヤマアジサイと、今年は初夏の訪れも早く目まぐるしいこと・・・・・

 木の芽時、鮮やかに咲き誇らんとする花々、新緑の萌芽・・・と、苔玉植物たちに季節の変化を否応なしに知らされ、それに伴う時々刻々の管理・苔玉作成作業に否応なしに追いまくられる此の頃です。

ケヤキの苔玉

 また、この時期から徐々に陽射しも強くなり、風も吹き荒れて来るし、苔玉仕立ての植物たちは乾燥することで、潅水作業も大変です。植物たちが元気に育ち始めると、病害虫も喜んで発生します。風通し良い場所に苔玉たちを非難・養生、場合によっては薬剤散布もやむを得ません。

 数百種類に及ぶ植物たちを苔玉に仕立てて40数余年、何年経っても変わりようのない「季節の変わり目の慌ただしさ」を、植物の成長していく喜び・・・・・と、少しばかり楽しみつつ、一方で多忙の程を身に染みつつ、また今年も忙しい時期が来たなと恨めしく思う・・・・・悪戦苦闘する苔玉チャレンジの日々を、「楽しいのだ」と自分に言い聞かせながら、多忙の季節を過ごしております。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】 苔玉に寄せて Vol.86 ~「苔玉」を振り返る

「苔玉」を振り返る

 45余年以前から、私は園芸店、ホームセンター等の園芸売り場、造園工事業等を営まれる方々への経営コンサルに携わって、列島行脚しております。そうした中で、売れ残ってしまった植木類の小苗や小さな観葉植物等の対応に行き詰り、困りきっておられる方々の窮状を知ることになりました。さて、さて、如何に対応したらいいのやら・・・・・?

 とりあえず、売れ残った植物の根部が乾燥しないように、根元を水苔等の苔類で覆い包んで店頭に陳列して頂く・・・・・という対応を促したことでした。水苔を使って、丁寧かつ美しく植物の根部を覆い巻く、そんな園芸売り場を見かけるようになりました。そうこうするうちに、黒ビニールポットに植えられた樹木苗よりも苔で根元を巻いた樹木の苗が、多くのお客様に好まれていることに気付かされたのでした。なるほど!これはいい!
「苔玉」の始まり、であったと思います。時、あたかも生活全般に拡大した高分子化学・プラスチック製品が、環境汚染の元凶と目されつつある世相でした。至極自然に、多くの園芸愛好家の皆様方に、根元を苔巻きした樹木苗が受け入れられていったのだろうと、思いを致したことでした。

 あれから概ね45余年を経ました。この間に概ね1,000余種に及ぶ植物を、「苔玉」という形でデビューさせてきました。濃緑色の苔で根部を包まれた植物に触れ、何気に心・癒されておられる人々の姿を見させていただき、心から嬉しくなります。

園芸愛好されてきた大先輩たちには盆栽、盆景といった高度の園芸芸術があります。これらを入手・管理・愛培するには多くの手間暇、そして経費も掛かります。それに比べると誠に手軽に入手可能、愛培できるのが「苔玉」です。いわば「カジュアル盆栽」とでも言えましょうか。今日も、高齢の方々が終の棲家とされているとある高層マンションで、「御殿場桜」の苔玉作りにチャレンジして頂きました。出来上がった桜の苔玉に触れ、嬉しそうなお顔のご高齢の方々でした。

たかが手の平に乗るほどのまことに小さな「苔玉」にすぎません。されど、私たちを大きな自然界に誘ってくれる大きな存在の「苔玉」に感謝です。

春の訪れ・ 梅の花が咲いた苔玉

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。