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【コラム】苔玉に寄せて Vol.102~苔玉の現況、 近い将来炎天下に成長・変化する『苔玉』に思う

 炎熱地獄に汗まみれの悩ましい日々が続く私たち、でも、植物たちは元気・スクスクと伸び育っています。御多分に漏れず、水分が潤沢であれば『苔玉』たちも、誰憚ることなくグングン伸長します。

 炎暑のなか、水遣りを怠りなく『苔玉』たちを見守ってやるしかありません。水を切らすと枯れてしまう、水が豊かであれば目に見えて大きく育ってしまう苔玉・・・苔玉の植物は、適度の大きさ・小さく纏まっていて欲しい・・・と願うのに、遠慮することなくアンバランスに大きく育ってしまう・・・育てる立場の悩みは尽きません。苔玉とにらめっこしながら、剪定したり、水遣り手加減したり、その悩みこそ育てる喜びと言えるかもしれません。

 私たちの毎日の生活空間を、植物たちと同居・楽しむということは、植物たちの日々の成長・変化するプロセスを肌で感じることに醍醐味があります。植物たちを苔玉に仕立てて、私たちの生活サイクルに迎合させた姿、形、大きさであり続けさせることには一定の限界があります。私たちと植物たちのそれぞれの立場・言い分を調整し、一緒に同じ生活空間で生きていくことが、植物を楽しむということに他なりません。

 『苔玉』に仕立てた植物が大きく育ってきたら、鉢植え仕立てに戻すとか、庭先に地植えして更なる成長を促してやる、等の対応が園芸植物を楽しむという本来のガーデニング・ライフということでしょう。植物の種類によっては、無理に小さく仕立ててカジュアルな『盆栽』風にして楽しむのもいいでしょう。

スパティフィラムの苔玉

 『苔玉』に仕立てた植物を、小さく愛らしい姿・形のまま永遠に維持・管理するのは難しい。植物は『日々、成長・変化する生命体』であるということに照らして、鉢植えや地植えに切り替えて楽しむ、程の園芸ライフを思います。『苔玉』を楽しみ続けたい・・・・・新たな小苗を苔玉に仕立てて、次世代植物を、苔玉に仕立ててお楽しみ頂ければ、と思います。


高温多湿の炎暑下にすくすく育つ苔玉・・・・・苔の玉に押し込められ、それでもなおスクスク伸長する植物たちの思いでした。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.101~苔玉の現況、 近い将来

苔玉の現況、 近い将来

苔玉を作って45余年の年月が過ぎ去りました。 この間、多くの人たちと苔玉を作り苔玉を語り合って来ました。 何とか、 園芸マーケットの一角に 「苔玉園芸」は認められているのではないかと思います。 さて、それでは今後 「苔玉」 君はどのような傾向をたどっていくのでしょう?・・・・・多分に気になるところです。

「苔玉」 も園芸マーケットの一商品です。 下表に示す曲線・ライフサイクルをたどっていくこと、 相違ありません。 では今、 苔玉の商品としてのライフサイクルはどのサイクルをたどっているのでしょう?・・・・・「浸透期」 の初期段階にありそうだ・・・私の直感するところです。

手作り一品モノであり、かつまた園芸農産品 (下代価格商品) である苔玉は、上代価格商品(工場出荷・大量生産商品)とは異なり、まことにゆっくりと流れるライフサイクルをたどっていくことでしょう。

マーケットの大部分は 「苔玉」 の存在すら知る由もない・・・・・のが現状です。 原材料の山苔は、その殆んどが山採品 (自然モノ)で出荷量が極めて少なく、入手に困難を伴うのが現状です。また、クロマツ、モミジ、ヤマアジサイ等々の生産者も減少傾向にあります。これら苔玉の原材料の入手困難も、 苔玉の浸透・拡大発展の足枷となりつつあります。

でも、苔玉に興味を抱いて下さる園芸愛好家は徐々に増えてきました。 困難を一つ一つ克服しつつ、 苔玉愛好家の皆さまのご期待に応えていきたいと思っております。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.100~親子、苔玉園芸教室

親子、苔玉園芸教室

 5月5日『こどもの日』に向けて、『親子苔玉教室』、『多肉植物教室』を実施しました。お父さん、お母さんとお子さんたちで予想以上の参加者数で賑わいました。小学低学年から大人まで、多岐年代に渡る参加・・・・・苔玉や多肉植物に目を輝かせ園芸作業に無心に取り組んでいる親子共同作業の姿、微笑ましく嬉しくなりました。

 苔玉は、『ナギ』の苔玉作りにチャレンジしてもらいました。根部を丸く纏め上げてヤマゴケを貼って仕上げる・・・・・四苦八苦、努力していくお子達・・・・・何とか丸い苔玉が出来上がり、満足気な様子、よく頑張りましたネエ!

 多肉植物の寄せ植えは、丸く植穴を掘った薩摩軽石に、『エケベリア属』や『セダム属』の植物を4~5種類を植え付けて、砂漠で緑や赤い宝石を見つけた・・・・・かの如き想いを想定した作品作りでした。多肉植物たちを組み合わせていくお子達の一心不乱の姿・・・・・素晴らしいチャレンジの程を見せてもらいました。

 私は小学2年生時に多肉植物に興味を抱き、高校3年時までの間、概ね700余種を収集・栽培した体験があります。幼い頃の多くの多肉植物、サボテン類が眼に浮かびます。大学進学で長崎の実家を離れましたので、幼い頃の私の収集・栽培品は自然消滅しました。園芸の世界に身を委ねて80余歳になる今、多肉植物たちに・・・'有難う′です。

 慣れない手付きで、多肉植物や苔玉にチャレンジする幼いお子達の姿に触れ、「頑張れ!」 … エールを送ります。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.99~苔玉、その後

苔玉、その後

 多くの種類の植物たちを『苔玉』に仕立てて45余年が経過しました。全国に老若男女・小学低学年のお子達から80歳代の高齢の方々まで苔玉仲間が拡がり、苔園芸を語り合い楽しませてもらっています。

 初に苔玉作りにチャレンジするに当たって、「苔玉って、この姿で何年もつのだろう・・・?」って問われること、しばしばありました。苔玉に仕立てる植物の種類、苔玉園芸の捉え方、あるいは管理方法にも依りますが・・・1~2週間で枯らしてしまう人、1ヶ月、3ヶ月と楽しまれる方、1年以上ももたせる人と様々でした。苔玉管理に徹底して3年・・・5年・・・10年の長きに渡って1個の苔玉を維持管理なさる方もおられます。

シクラメンの苔玉

 概してミニシクラメン等の草花類を苔玉に仕立てたモノは蕾から開花期程度までの短期間の苔玉寿命となり、シダ類、ヘビイチゴ等の多年生の山野草類やミニ観葉植物類の苔玉は数年間、苔玉姿を維持されるようです。

シダの苔玉

クロマツ、モミジ類等の樹木類の苔玉はかなり長期間に渡って苔玉姿を楽しませてくれます。いわば、『カジュアル盆栽』の域をなしているとでも言えましょうか。

マツの苔玉

ラン類、アイビー類、オリヅルラン、タニワタリ等、自然界では他の植物体に着生・寄生する植物達は、吊るタイプの苔玉として楽しまれています。適度な水管理次第で、かなり長期間に渡って『吊り玉』として楽しまれています。

アイビーの苔玉

様々なタイプの苔玉たちも、何れ苔玉内は発達した『根』で、いっぱいに満たされてしまいます。植物たちを、健全な姿で楽しむためには、苔玉部分の表面を新しい苔で巻き足し覆って植物本体の根部を保護する必要があります。あるいは、苔玉部分を崩して鉢植えに仕立て直す、などの転換が必要になります。

苔玉の植物たちも成長し、日々変化しています。限られた生活環境下で精一杯生きている植物達を、成長にあわせて育て続けたいと願っております。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【コラム】苔玉に寄せて Vol.98~サクラの苔玉

サクラの苔玉

 日本列島の南の方から駆け上がってくる「桜前線」、待に待った春の到来です。春は、卒業、新入学、新社会人となる等々、私たちの営みの新たな出発の季節です。桜吹雪を背景に学び舎での「卒業式」、親しい友との別れ・・・そして、・・・期待と多少の不安の中で「入学」・・・・・
 桜吹雪が彩りを添える中で、歳を重ねての学校卒業は、期待・不安・焦燥の思いがいっぱい・・・・・一人前の社会人の出発です。

 桜花爛漫の季節を舞台に、悲喜交々、人それぞれに思いが深いことと、察します・・・その故か・・・「桜」の苔玉は大変な人気があります。3月7日、つくば市界隈で「桜の苔玉教室」を開催しましたが、定員いっぱいの状況になってしまいました。

 桜と言えば殆んどの場合、「染井吉野」という品種を想起されると思いますが、染井吉野は大木に育ち過ぎて苔玉仕立てには不向きです。

苔玉に仕立てるサクラは小振りでも開花する「一歳ザクラ」の品種を使います。一歳ザクラにも幾種類かの品種が登録されています。本日は「御殿場桜」という一歳ザクラ品種を使いました。まだ固い蕾の状態でしたが、開花する桜に期待いっぱいで、苔玉制作に勤しんでおられました。

 因みに、明治後年の時代から、主に関東地区に植え付けられたサクラは、「染井吉野」でした。染井吉野は葉を着ける以前に開花、・・・パッと開花してパッと散る・・・その様が・・・
「咲いた花なら散るのは覚悟・・・♪・・・」
予科練の歌に歌われるように、軍備強化の国策にピッタリだったので、多く「染井吉野桜」が植え付けられたということです。

 「染井吉野桜」一品種に限定して、多くの地区に植え付けたが故に、染井吉野桜に特有のウィルス病が蔓延する状況を招いてしまいました。染井吉野桜の名所は50余年を経過すると、じり貧で樹勢が衰えていき、桜花・花見の名所は50余年で他所に変転する・・・・・誠に不幸な結果を招いています・・・・・残念な桜・花見の現況です。

 日本の国花「桜」を長期間に渡って守り、大木に育て続けたい・・・植え付けるサクラの品種を見直し、「桜の大木」を育て子々孫々にまで繋げたい、という期待・運動が広く芽生えていることを知って頂きたいです。
 小さなサクラの苔玉を作りながら、桜への思いを致したことでした。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。