【コラム】苔玉に寄せて Vol.98~サクラの苔玉

サクラの苔玉

 日本列島の南の方から駆け上がってくる「桜前線」、待に待った春の到来です。春は、卒業、新入学、新社会人となる等々、私たちの営みの新たな出発の季節です。桜吹雪を背景に学び舎での「卒業式」、親しい友との別れ・・・そして、・・・期待と多少の不安の中で「入学」・・・・・
 桜吹雪が彩りを添える中で、歳を重ねての学校卒業は、期待・不安・焦燥の思いがいっぱい・・・・・一人前の社会人の出発です。

 桜花爛漫の季節を舞台に、悲喜交々、人それぞれに思いが深いことと、察します・・・その故か・・・「桜」の苔玉は大変な人気があります。3月7日、つくば市界隈で「桜の苔玉教室」を開催しましたが、定員いっぱいの状況になってしまいました。

 桜と言えば殆んどの場合、「染井吉野」という品種を想起されると思いますが、染井吉野は大木に育ち過ぎて苔玉仕立てには不向きです。

苔玉に仕立てるサクラは小振りでも開花する「一歳ザクラ」の品種を使います。一歳ザクラにも幾種類かの品種が登録されています。本日は「御殿場桜」という一歳ザクラ品種を使いました。まだ固い蕾の状態でしたが、開花する桜に期待いっぱいで、苔玉制作に勤しんでおられました。

 因みに、明治後年の時代から、主に関東地区に植え付けられたサクラは、「染井吉野」でした。染井吉野は葉を着ける以前に開花、・・・パッと開花してパッと散る・・・その様が・・・
「咲いた花なら散るのは覚悟・・・♪・・・」
予科練の歌に歌われるように、軍備強化の国策にピッタリだったので、多く「染井吉野桜」が植え付けられたということです。

 「染井吉野桜」一品種に限定して、多くの地区に植え付けたが故に、染井吉野桜に特有のウィルス病が蔓延する状況を招いてしまいました。染井吉野桜の名所は50余年を経過すると、じり貧で樹勢が衰えていき、桜花・花見の名所は50余年で他所に変転する・・・・・誠に不幸な結果を招いています・・・・・残念な桜・花見の現況です。

 日本の国花「桜」を長期間に渡って守り、大木に育て続けたい・・・植え付けるサクラの品種を見直し、「桜の大木」を育て子々孫々にまで繋げたい、という期待・運動が広く芽生えていることを知って頂きたいです。
 小さなサクラの苔玉を作りながら、桜への思いを致したことでした。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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