【コラム】苔玉に寄せて Vol.95~ウメの苔玉

ウメの苔玉

 古来、日本の年末・新年を寿ぎ彩ってきた植物たちの代表は、松・竹・梅ということになります。寒さ厳しい中で固い蕾を過ごし、紅白の開花で新春を華やいでくれる『梅の花』、厳冬を乗り切った強さの中に、凛とした美しさを思い起こさせてくれます。今、開かんとする紅白の『梅の蕾』付き苔玉は、『新年の苔玉』人気のトップの座にあります。新年の園芸店では、赤い実で彩られたヤブコウジ、マンリョウ、ナンテン等の下木類の中で、凛としたウメの蕾は格別です。白梅、紅梅、赤・白咲き分けする『思いのまま』等、多くの品種群が新春を伝えてくれます。

樹冠いっぱいに紅白開花した苔玉の梅は、早春を思わせてくれます。花散ると、ウメの苔玉も一足早い新緑で満たされ、春の到来を確実に定着させてくれます。

 更に異なった品種のウメがあれば、5~6月にはウメの果実を楽しむこともできます。ウメの苔玉に5~6個の『梅の実』が付いたら、これは新たな『苔玉景観』を見る喜びになります。梅の実の付いた・景観を期待するには、必ず異品種のウメの存在が必要です。一本のウメの苔玉だけでは、けっして結実することはありません。

 「庭先に植えた一本のウメの木だけど、毎年実が付くんだ」という声を聴くことがあります・・・それは、庭先のウメの木が、隣近辺の異品種のウメの木に咲く花と自由恋愛しているからに他なりません。ウメという植物は『自家不和合性』という性質があって、決して同一植物体・同一品種間では雄蕊と雌蕊が結合しない、すなわち同一親族間では決して生殖することがないということです。

 もし、梅の実を期待されるのであれば、紅梅と白梅の『梅の苔玉』等、異なるウメの品種をお持ちになって下さい。そうすれば隣近辺の梅の花と自由恋愛すことなく、自家製の『梅の実』が期待できる・・・苔玉栽培・鑑賞をお楽しみ頂けるでしょう。血筋の近い婚姻は強い子孫を残さない・・・『内婚弱性』ということをウメは知っているのですね。ご当地に古くからある茨城県水戸市の偕楽園には数十種類の品種のウメが植えられており、観梅で楽しみ、多くの『梅の実』を収穫されています。

 来春も紅梅、白梅の苔玉を楽しみ、初夏には10粒程度の梅の実を苔玉樹上に付けようと、思い描いて・・・・・

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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