【コラム】苔玉に寄せて Vol.91~ヤマモミジの苔玉
ヤマモミジの苔玉
過去40余年、多くの種類の樹木たちを苔玉に仕立ててきましたが、中でも『ヤマモミジ』は非常に人気があります。ヤマモミジ( 学名 Acer palmatum var. matsumurae )は日本の固有種で、北海道と本州の青森県から鳥取県にかけての日本海側に分布します。主に太平洋側に分布・自生するイロハカエデ( 学名 Acer palmatum )の変種になります。
赤く芽吹く新芽の美しさ、初夏以降の手のひら状に5つから7つに深く裂ける緑葉が生い茂り、秋には赤~橙色に紅葉する、冬期間は葉を振ってしまい枯淡の美を呈する、四季の変容にたまらない魅力を演じてくれます。

殆んどのヤマモミジは実生繁殖されていますので、葉色や葉型に様々な変化がみられ、この変化に楽しみを見出すのも楽しいことです。また、春の芽吹きに備えて2月初旬頃から水揚げが始まり、枝の末端まで水が行き渡り、枝がしなやかになります。自由に枝を曲げたりすることで、好みに応じた枝振りを演出ることができます。具体的には園芸用のアルミ線を使って枝振りを整えることになります。

好みの枝振りに変形加工したヤマモミジを苔玉に仕立てると、言わば『カジュアル盆栽』とでも言いましょうか、そんな苔玉ができあがります。
ヤマモミジは落葉樹ですから冬期間は少々寂しい風情です。その寂しさを補うために各種の下草を根元に配植したらいいでしょう。私は『玉リュウノヒゲ』を下草として利用します。玉リュウノヒゲが丈夫であること、細やかな玉リュウノヒゲの葉をバックに添植することで、苔玉全体に遠近感を創出し景観を作ってくれること、等の理由に依ります。

一見、か弱そうで小さな下草・植物たちではありますが、色々な下草たちを添植することで、更なる園芸の世好み界に誘われていくのではないかと思います。NHK 朝ドラで植物を語っておられる牧野富太郎先生も、そう言って下さるように思います。

執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。