【コラム】苔玉に寄せて Vol.111~桜の苔玉を作りつつ

 さくらの開花前線とともに、春の到来を待ち焦がれる日本列島です。苔玉愛好の私たちにとりましても、3~4月は『桜の苔玉』作りで大忙しでした。『旭山桜』、『御殿場桜』、『富士桜』など、一才桜の品種たちでした。中でも、八重咲種の『旭山桜』が一番人気でした。

 多くの人々に知れ渡った桜の代表品種は“染井吉野”という品種です。『パッと開花して、サッと散る』潔さが、明治以降の国策に合致したことから、国花・桜の代表として公園などの公共のオープンスペースに植栽されてきました。
一斉に開花して薄桃色の樹冠をなし、花吹雪となって散りゆく様、水面に散った幾万の花弁は見事な花筏を呈す・・・・・“貴様と俺とは同期の桜”と、歌われた由縁のようです。

戦争が遠い今、森山直太朗は歌ってくれました。

ぼくらはきっと待ってる
君とまた会える日々を
桜並木のみちの上で
手を振り叫ぶよ
さくら さくら 今咲きほこる
刹那に散るゆくさだめと知って
  ~ 中 略 ~
さくら さくら いざ舞い上がれ
永遠にさんざめく光を浴びて
さらば友よ またこの場所で会おう
さくら舞い散るみちの
さくら舞い散るみちの上で・・・

また、遠い昔の伝承で・・・・・隠岐の島へ流罪となった後醍醐天皇の跡を追いかけて、児島高徳が院の庄(岡山県)で忠節を桜の幹肌に書いたという・・・・・

桜ほろ散る院の庄
遠き昔を偲ぶれば
幹を削りて高徳が
書いた至誠の歌形見
君の御心安かれと
闇に紛れてただ一人
刻む中節筆の跡
永久に輝く花の蔭

『天、勾践を空しゅうする莫れ。時に范蠡無きにしも非ず』 

そんなこんなを想い描きつつ、桜の苔玉を作ったことでした。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について45年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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