【苔玉に寄せて】Vol.36〜私の同居人、「苔玉」たち
私の同居人、「苔玉」たち
毎年のことだが、晩秋になると私の部屋には続々と同居人が増えてくる。亜熱帯から熱帯を故郷とする「苔玉」仕立ての植物たちだ。アンスリューム、ガジュマル、カランコエ、タニワタリ、パキラ、ヤシ類等の苔玉たち、また天井からはオリヅルラン、ネオレゲリア、コウモリラン、サクララン、ポトス、ヘデラ、等の吊仕立ての苔玉たちが、部屋を占拠し始めるのだ。
寒風吹きすさぶ外界とは別天地、ガラス戸越しの陽だまりの中で心地よさそうに新年を過ごす植物たち、部屋主の私も心温まり嬉しくなってくる。
苔玉仕立ての植物たち以上に我が物顔で部屋を塞いでいるのは、鉢仕立ての亜熱帯から熱帯生まれの植物たちだ。最も場所を塞いでいるのは、尺鉢に入った高さ1.5メートルにもなる「月下美人」である。真夏から初秋の夕方から深夜に掛けて、大輪白色の花を20余輪咲かせて楽しませてくれた月下の美人だ。
寒い今は多肉の葉っぱだけが、部屋のかなりの面積を占拠している。
挿し木で増え子孫繁栄したサンスベリアは、天上間近の棚上に平然と並んでいる。また、机上には、水蘚に包んだウォーター・カルチャーのヒヤシンス、クロッカスが花芽を萌芽している。
彼らと同居すると、その面倒をみなければならない。自力歩行の出来ない植物たちだ、日昼は日当たりのよい窓辺に置き、夜間には室内の暖かい場所に移動したり、水を遣ったり風を透してやったりだ。冬季には殆ど施肥の必要はないが、それでも何某かの植物活力剤は必要だ。
「苔玉」仕立ての植物の場合、苔部分にも最低限の陽射しが必要だ。陽射しのないまま放置・育てると、緑色の苔は茶褐色化して枯れてしまう。天井間近のサンスベリアには、水遣りは絶対禁物だ。植物たちと同居することは、何と気苦労し、手が掛かることだろう。
私の生活空間のなかで、同居する植物たちは一生懸命に生きようとしている。彼らを単に鑑賞するだけの置物と捉えるか、あるいは、この同一空間に共生する生命体とみなすのか、室内に植物が溢れる冬毎に考えてしまう。単に部屋の飾りとして、隙間空間に「植物」たちを置くだけという発想では、植物たちに申し訳ないし、余りにも切ない。
室内で植物たちと「共生」していると言うと、ちょっと大げさに聞こえるかもしません。でも、精いっぱい生命を維持している植物たちです。せめて、「同一生活空間で彼らとともに生きているんだ」という認識を持たなければと、寒い冬毎に、狭い部屋で考えています。70余年の長き年月を、植物たちと過ごしてきました。新年に当たり、あらためて「苔玉君、有難う。これからも宜しくお願いします。」です。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。