【苔玉に寄せて】Vol.74~株の「更新」、若返り

株の「更新」、若返り
 3月半ばとなり、私の狭い室内に同居する100余個の苔玉たちは、それぞれに葉芽・花芽を覗かせてきました。苔玉たちに潅水する程度のことしか出来ない中で、1カ月半前に骨折した右手首に不自由を託ちながら過ごしています。
 
根の張りつめた、奔放に伸長しきった、アイビー、オリヅルラン、ポトス等をみていると、分株・植え替えしなければと思いつつも、不自由な骨折右腕故に、「もう少し待って!」と言うしかありません。私が五体満足時には、「よく伸長して元気そうでなにより」、程度にしか認識しなかったことでした。手先不自由な生活の中で、一つ一つの植物たちをじっくり見つめることで、新たな思いに馳っております。
 
 
 すくすくと息吹く植物たちは、私たちに他では得られない「癒し」を齎してくれます。根詰まり、植物体の老化等の劣悪な栽培環境下では、植物達の健常な生命プロセスを楽しむこと、期待出来ません。苔玉、鉢植え等の植物栽培に当たっては、根詰まり、植物体の老化等は避けなければ、「健常」な園芸植物の鑑賞は楽しめません。「根詰まり」状態を避けるには、分株、植え替え作業は必要、避ける事はできません。
 
また、植物の老化を防ぐには、「挿し木」「分株」などによって、植物体の「更新・若返り」作業が必要不可欠です。例えば多くの皆様ご存知の、赤や白色花のゼラニュームは、2~3年に一度「挿し木」して新株に更新し、古株は徐々に土に反していくことで、若さを保ち、毎年赤いいい花を観賞することが出来ます。我が国で栽培鑑賞されてきた重陽の節句の花、「菊」は、毎年挿し木によって新株を植え付け、株の「更新」を図ることで、古い時代より今日まで連綿と楽しみ続けられていることと、同様の取り扱いということです。
 
私たちの苔玉植物たちにも、世代の交代を図る、「更新」という発想を忘れないように・・・・・そして、植物たちの若い元気な萌芽を促し、いつまでも元気な苔玉たちの成長プロセスに「癒され」て行きたいと思います。
 
「怪我の功名」いや「禍を転じて・・・・・・」、そんな骨折の此の頃です。
 
 
 
 

室内で花を咲かせたミニバラの苔玉

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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