【コラム】苔玉に寄せて Vol.94~クロマツの苔玉

クロマツの苔玉

 まだ11月初旬、街中ショッピング街はすでに忙しない年末の装いが始まっています。園芸の店先では赤い実で彩られたヤブコウジ、マンリョウ、ナンテン等と共にクロマツ、ゴヨウマツなど年末・年始の植物たちも徐々に並び始めました。年始を寿ぐ植物の大様は、やっぱり松類でしょうか。クロマツ等の苔玉作りの季節が来たナァ・・・園芸愛好家も御多分に漏れずという此の頃、早速クロマツの苔玉作りにチャレンジしました。

 クリスマスを彩る赤葉のポインセチアや色とりどり・艶やかなシクラメン等に比べると、地味な存在に思われる松類ではありますが、新年はやっぱり「松竹梅」が私たちの生活・習慣に根付いた植物です。中でも松はその筆頭格です、見逃すことは歴代の慣習に反します。

 クロマツは樹木の王様格・見るからに威厳に満ち溢れており、苔玉制作に当たっては、それなりの忖度に及ばざるを得ません。小さな苔玉とは言え、クロマツ大王の威厳を保って、その風格を表現しなければ等々、思いを致しながら、しかし気取ることなくクロマツの苔玉にしたい・・・あえて言うならば「カジュアル盆栽」的に位置付けたい・・・そんな思いを致しながら、チャレンジしました。

 クロマツだけを単体で苔玉に仕立てては、ちょっと寂しいし・・・、下草に玉リュウノヒゲを添植、更に添景物として松ポックリを配してみました。添景とした松ボックリから発芽したクロマツと見るか、はたまたクロマツから落下した松ボックリという景観と読み解いてみるか、いずれにしても「松と松ボックリ」のストーリーを思い描いてもらいたい・・・と、願いをこめました。

 余談ですが、添えた松ボックリが、果たして黒松の松ボックリであるのか、ひょっとしたら赤松の松ボックリなのか?・・・、少々気になるところです。(笑)

 クロマツの苔玉を作りながら、平穏なる年末であれよ、そして良き新年であれよかし、と祈りつつ・・・。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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