コラム【 苔玉に寄せて 】Vol.4
多様な「苔玉」たち
「こけだま」というと「苔玉」の漢字が定着しているようです。でも、「苔球」あるいは「苔珠」といった漢字を当てる場合もあります。
20余年前の「こけだま」は、苔に包まれた植物の根部が”球形”のものがほとんどでした。その故「苔球」の漢字が誂えられたのでしょう。
根部が”球形”の「こけだま」は座りが悪く安定感がありません。そのため透明の釣糸(テグス)などで店頭に吊るすなどして販売されていました。
昨近の「こけだま」は、室内で風情ある皿に載せられたり、玄関先や床の間で観賞されるようになってきました。そして苔の根部を”お椀を伏せた形”に仕上げて安定させた状態が多く見られるようになり、徐々に「苔球」の漢字がそぐわなくなって「苔玉」の漢字へと変化し、定着してきたようです。
また一部の「こけだま」愛好家たちでは、「苔珠」という漢字を当てて観賞されているようです。
「珠」の漢字を当てる、なんとも雅な感覚ではないでしょうか。「和」の感覚の園芸です。
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「苔玉」を身辺に置いて楽しみ観賞する姿は、老若男女を問いません。
”和”の感覚の植物を「苔玉」で楽しまれる年配の愛好家、ミニチュアローズやカランコエなどのカジュアル・フラワー類を「苔玉」で楽しむ若い人たち、「苔玉」愛好家は多岐に渡ってきました。また、都心部の小物店・園芸専門店、郊外のショッピングモールにも「苔玉」が多く見受けられるようになりました。
床の間にモミジ、クロマツ、ケヤキなどの「苔玉」を置いて一服の茶を嗜むのも良し、パソコンなどに向き合うことの多いオフィスで、テーブルヤシ、ガジュマル、アジアンタムなどの小さな「苔玉」で心癒される瞬間を持つのも良し・・・、自由な形で「苔玉」が楽しまれることを願います。
緑成す苔の大地に佇む植物の姿は愛らしくも、生命の力強さを伝えてくれます。
小さな小さな「苔玉」が、園芸愛好の裾野をジワリジワリと拡げているようです。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。