コラム【苔玉に寄せて】Vol.11〜「苔玉」に癒される「園芸」

「苔玉」に癒される「園芸」

やぶこうじ

 

戦後間もない頃の鉢モノ園芸は陶器製の植木鉢が主流でした。

石油産業隆盛の時代になり、園芸業界も植物の植え付け容器は、プラ鉢やプラ製プランターなどの石油製品に取って代わられてしまいました。その結果、家庭の庭先やベランダの片隅などに、プラ鉢やプランターの残骸を見かけることが多くなりました。
また学校や駅の片隅などにも、季節外れのプランターの残骸を多く見かけます。
モノ余りの時代の園芸・ガーデニングの惨めな結末とでも言えましょうか。

軽くて割れないプラ製やビニール製の植木鉢やプランターが、しかも安価であったことが、園芸の量的な拡大・発展に大きく貢献してくれたことは、決して否定するものではありません。余りにも大量に出回り過ぎた結果として、庭先や街角の一角に使い古されたプラ鉢、プランターが残骸として放置されているんです。心の片隅でほんの少しばかりの罪悪感を抱きながら・・・。

    

いま、多くの若い人たちの生活感として、できるだけモノを持たない生活空間で生きていこうという「断捨離」生活を目指す人や、ミニマリスト等といった人たちが着実に増えつつあります。行き過ぎたモノ余りの経済・生活から生まれた、当然の帰結なのかもしれません。

私たちの「園芸・ガーデニング」でも然り、だと思います。
プラスチックやビニール製の植物の植え付け容器の残骸を、生活空間に放置するなど、「園芸・ガーデニング」以前の問題だという、認識を持つべきでしょう。

そんな中で、忽然と現れたのが「苔玉園芸」でした。時、あたかも経済の停滞期、安定成長期でした。数量的にまだまだ、プラ鉢園芸には遠く及びませんが、根元を自然素材の「苔」に包まれた植物に多くの人たちが癒されているように思います。ビロード状の緑の命、「苔」を眺めて頂き、モノ余りの時代の「園芸」を見つめ直して頂ければ・・・・・と、思います。

苔は人様に見捨てられ不要となれば、惨めに残骸など残すことなく、黙って土に帰っていきます。

    
 
執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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