【苔玉に寄せて】Vol.13〜苔玉園芸の立ち位置
苔玉園芸の立ち位置
苔玉が生まれて概ね30余年、更に苔玉が多くの人たちに認知されるようになって10余年を経過します。ここ3~4年、ようやく園芸愛好家の間に少しずつ室内園芸植物として、完全に定着しつつある苔玉です。
昭和時代・経済の高度成長期に一時代を賑わした観葉植物の大鉢仕立て品は、一般家庭ではほとんど見かけなくなりました。観葉植物類で、今園芸売り場を賑わしているのは、僅かに2.5号~3.5号の小鉢に仕立てられたミニ観葉と称される物ばかりです。
昭和後期から平成初期の頃にブリジット・バルドー、マリリンモンローなどの園芸品種名に代表される洋ラン、デンドロビュームが大量に出回った時代もありました。これ等、大量のデンドロビューム等の洋ラン類が市場に出回ったのは、メリクロン培養(生長点組織培養)による苗生産技術の進歩によってもたらされ、時あたかも経済の高度成長期も相まって洋ラン隆盛の時代がもたらされました。年末・年始の贈答品として、シンビジュームやデンドロビューム等の洋ラン類がもてはやされたこと、多くの方が体験なさったことでしょう。経済の高度成長期であったが故の、明治以降から戦後の、欧米並みの生活への憧憬動向であったのではないか、と思うのです。
私たちの住む日本列島は、乾燥気候の欧米各国と異なって、極めて高温多湿の傾向にあること、ご承知のとおりです。気候・湿度が異なれば、おのずと生活環境に生育する植物の種類が異なります。植物を育て、花を楽しまれる多くの愛好家の方々が、高温多湿の日本での園芸の在り方に、思いを致されつつあるのではないかナァ、と考えます。その表れが「苔玉」が徐々に認知されてきたのかナァ、と。
温室内いっぱいに咲き乱れる洋ラン類等の華やかさはありませんが、着実に園芸界にその地歩を築きつつある「苔玉」ではないのかナァ、と思い巡らしております。更に、来日される海外からの客人たちにも、「苔玉園芸植物」の人気は着実に高まっておりますこと、ご報告申し上げます。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
本コラムはおかげさまで連載1周年をむかえることができました。ご覧いただいてます皆様に深く感謝申し上げます。