【苔玉に寄せて】Vol.16〜「苔玉台地」に育つ植物たち

「苔玉台地」に育つ植物たち

苔玉を作っていると、よくこんな質問を受けます。「こんな小さな苔根鉢で植物が大きく育ってきたら、一体どう対処したらいいのでしょう?」と。ほとんどの場合、「育てられる貴方の好みの大きさに剪定なさって下さい。」と、お答えしています。本来なら大地に思う存分根を張って必死に生きている植物を、鑑賞のためという私たちの都合で、小さな根鉢に抑え込んでしまっているのです、仕方のないことですネェ。盆栽や鉢植えの植物も、また切花も同じだと思います。

大地に根を張って大きく育った大木ではあっても、大風でなぎ倒されたり、落雷で焼け落ちたり、地震・津波で押し流されたりなどして、いつかは、寿命を迎えます。机上にある、まことに小さな苔玉の台地に根を張っているモミジやケヤキを見ながら、大自然への畏敬の念を抱きつつも、私の身勝手でこんな小さな世界に植物を押し込み止めていいのだろうかと、思いを致したりもしています。

私が居住するつくば市は表向き街路が立派に整備され、イチョウ、ユリノキ、トウカエデ、アメリカフウ等がすくすくと成長しています。でも、狭すぎる植栽枡から根部がはみ出して、コンクリート製の縁石を押し倒したり、歩道部分の舗装面を持ち上げたりと、道路管理される方々も植物の成長威力に手を拱いておられるようです。とりわけ、つくば市内の国道408号線を飾るアメリカフウの並木の生長威力には驚いています。

きっちりと8㍍間隔で植えてなければ承知しない、台風で一本の大木街路樹が倒れようものなら、鎌倉・鶴ヶ丘八幡宮のイチョウでもあるまいに、血税・大金を支払ってその木を起こして立て直そうとする。ところが、ガーデニング先進国、ブリティッシュの感覚はちょっと違う、倒れた大木の傍らにアトランダムに小苗が植えてあり、倒れた大木は伐採し、次世代の小苗を育てる、という発想なんです。とりわけ、この発想・思想・考えを、かつて英領であったイラン・テヘランの街路樹を見たときに、痛切に感じたことでした。

そんな場合大木は伐採して、傍に植えた小苗を育てればいい、何もきっちりと等間隔でなくても、樹高がバラバラで、アトランダムに植え込まれていても構わない、気取らず、もっと、柔らかな頭でいたい、と思います。この発想・感覚は古くから日本にもありました。宮崎県の高千穂峡を訪ねると、吊り橋を多く見かけました。吊り橋はスギ、ヒノキなどの大木に支えられていました。そして、その大木のすぐ傍に必ず中・小の苗が植えてありました。先人は、知恵の塊なんですネェ。

欧米先進国を追いかけて、ひたすら経済成長路線を突っ走ってきた明治以降の私たちでした。先人の生きてきた知恵を、植物を通して、まことにスローライフな「苔玉園芸」を通して考えなければと、思っております。豊かな時代になった今、改めて多くを考えさせてくれる「苔玉」たちです。

小さな苔玉から、大きな話になり過ぎました、失礼致しました。

つくば市 国道408号線の並木

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

本コラムはおかげさまで連載1周年をむかえることができました。ご覧いただいてます皆様に深く感謝申し上げます。

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