【苔玉に寄せて】Vol.19〜記念にもらった「コチョウラン」を苔玉に

記念にもらった「コチョウラン」を苔玉に

娘夫婦宅を訪ねたところ、すでに花の見頃は終わった3茎立ち「コチョウラン」の鉢植えが一鉢、置いてありました。
聞けば、勤め先のお祝いに贈答されたものだった由・・・ピンクの花が2輪だけ、必死に最後の生命力を振り絞って、惨めな花姿で咲き残っていました。立派な陶製の鉢にミズゴケで植えられ、煌びやかな包装紙に包まれリボン掛けされた姿が、一層の哀れを誘います。「今一度、ピンクの花を咲かせたい」衝動に駆られ、預かり管理することとしました。

 

我が園芸工房に持ち帰り、まず、花茎の先端部分を3芽残して切除しました。
その後、3株寄せ植えの株全体を陶製鉢から抜き取り、丁寧に3株に分割しました。
3株に分割したそれぞれの株を、更に丁寧に「山ゴケ」で包み・・・コチョウランの苔玉が3個、出来上がりました。

まず、根部の活性化を促すために極めて薄い濃度の植物活力剤を与え、以降、過湿にならないように水管理しました。
2週間に1度の間隔で極薄めの液肥を与えました。根部を包んだコケに肥料は禁物です、根部表層の苔玉の苔に肥料成分が接触することのないように、小さなスポイドを使って、コチョウランだけに肥料がいきわたるように配慮し、慎重に液肥を与えました。

結果、3か月後に写真に見るように、3個の立派なピンクのコチョウランの苔玉として蘇りました。更に、2番花の終了する頃に、3番花を咲かせる花茎が株の根元から元気に発芽し、再々度の開花を楽しんでいます。

コチョウラン等のラン科の植物は、山間部の大木の幹などに着生し、比較的乾燥傾向の中で育つ植物です。必要水分は、ラン科植物の特徴的な根部、「気根」によって空中湿気を吸収生育します。大き目の植木鉢の中で、たっぷり水を含んだミズゴケ植えという環境では、過湿で根腐れし、枯死してしまいます。苔玉という環境は、コチョウラン等のラン科の植物には、極めて心地よい環境である、ということなんです。

園芸愛好家は並べて植物に愛情深い、為に、大き目の鉢いっぱいのミズゴケが乾燥してくると、ともすれば過剰に潅水してしまう、折角のコチョウランが台無しになってしまいます。「苔玉」という姿で、苔表面に霧吹き程度の潅水で水管理・・・多くの洋ラン類の望むところです。

折角頂いた美しいコチョウランの花です。艶やかで人工的な包装紙やリボンを外し、植物が蘇る生育環境に置いて、長くお楽しみ下さい。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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