【苔玉に寄せて】Vol.20〜地球環境に優しい「苔玉」園芸

地球環境に優しい「苔玉」園芸

 平成の世は30余年で終わろうとしています。昭和の世と比べて平成は、物質的にも満たされ心豊かになり、ちょっと気障っぽく言えば「哲学的」になったようにも思います。

 私が園芸学を学び、社会人となって園芸の世界に飛び込んだのは52年も前、1967年(昭和42年)でした。東京五輪、大阪万博を経て、経済の高度成長期へと突入していった時代でした。御多分に漏れず、私たちの園芸の世界もひたすら量的拡大を続けました。洋風のリビングルームにはゴムノキ、ホンコンカポック、ベンジャミンなどの観葉植物大型プラ鉢仕立て(尺鉢)が、どんと居座っていきましたし、年末・年始にはプラ製鉢に仕立てられた、シンビジュームやシクラメン等の花鉢が、贈答品などとして大量に流通しました。今に比べると、「質より量」の園芸だったと思います。ケース・バイ・ケースで、今でも大型観葉植物や洋ラン・シンビジューム等のプラ鉢に仕立てられたモノを、全否定してしまう積りはありませんが、「量より質」の室内園芸に舵を切っている今、しっかり考えなければならない時が来ているように思います。

 平成の御代は、日本にとって、成熟した国の姿を考える時期だったのかな、とも考えています。本当の幸せとは、本当の貢献とは、本当の価値とは等と、まだまだカオスの中で模索中なのかもしれませんが。

 そんな時代の中にあって、私たちの園芸の世界では、小さな姿をした「苔玉」が産声を上げ、徐々に多くの園芸愛好家たちに知れ渡ってきました。お洒落園芸の一角を占め、多くの感動を呼び起こしているように思います。それでも広い世間の中にあって、「苔玉」はまだまだ僅かに0.3%程度の極めて狭い世界に過ぎません。

 

 生活空間のあらゆる場面に生き渡ったプラスチック等の高分子化学製品、私たちの園芸環境もプラ鉢やプランターが遍く行き渡っています。これらのプラ製品を使い、「花と緑をいっぱいに」してきた姿勢が、人知れずプラスチックなどの微粒子を地球環境にばら撒き、私たちの生活空間を少しずつ汚染している、なんと矛盾したことなんでしょう。

 「いつか、生活空間を花と緑でいっぱいにしたい」が、多くの人たちの合言葉になっています。だけど、あらゆる生命活動に絶対条件である清廉な自然環境が、果たして維持されているのだろうか、今一度考えなおす時が来ていると思います。「苔」は枯れて自然に帰ることはあっても、環境汚染物質として残留することはありません。洋の東西を問わず、あらゆる植物を苔玉にして楽しむ中で、「花と緑でいっぱい」の真に美しい清廉な園芸環境を考えていかなければと、昭和・平成の来し方を振り返っております。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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