【苔玉に寄せて】Vol.21〜苔玉の根っこと蝉の声!
苔玉の根っこと蝉の声!
9月はとっくに過ぎて、すでに10月に入ったというのに、ツクツクホウシが賑やかに鳴いています。
こんなにも気温は下がってしまったのに、恋人に巡り合えなかった雄ツクツクホウシなのかナァ?・・・・・この声を聴くと、「夏休み終わったよ…、宿題は済んだか?」という声に聞こえた小中学生の頃を思い出してしまいます。気候変動の故の現象なんでしょうか。早く恋人蝉を探して、卵を産んで次世代を残さないと・・苔玉植物の根元を見ながら、他人事とはいえ焦ってしまいます。
20余年前、私が住むつくば市内で「ワシワシ」と煩く鳴くクマゼミの声を聴くことがしばしばありました。本来、クマゼミは九州に生息する蝉です。今から52年前私が岡山大学に在学した頃には、岡山でも聞いたことがありませんでした。箱根を越えたつくば市で、クマゼミの「ワシワシ」声が幾度となく聞こえたことにはビックリしたことでした。でも、ここ15年余、つくば市でクマゼミの「ワシワシ」声を耳にすることはありません。いったいこれはどうしたことなんでしょう。
答えは単純でした。経済の高度成長に伴う環境緑化が大々的に行われ、九州からクスノキ等の大木が持ち込まれ、それらの根鉢に生活していたクマゼミの蛹が孵化したものでした。経済の低成長期~安定成長期に入った今、クスなど大木の移送が殆どなくなってしまいました。セミ類は産卵されて7年余、地中で成長します。「ワシワシ」声のクマゼミは関東地区の冬季の低温に耐えられなかったのでしょう。
つくば市で暑い真夏をにぎわすのは「ミーン、ミーン」鳴く、ミンミンゼミです。苔玉の根元をしょりしながら、ツクツクホウシの最後の声を聴きながら、私たちの生活の変化に思いを致してしまいました。
最近、中国経由で南米から日本各地の港町に騒ぎを起こしました「ヒアリ」の害がありました。また、昨年には都心部の明治神宮界隈で「天狗熱」病を運んできた、ヒトスジシマカが問題になったこと、記憶に新しいことです。
私たちの毎日の生活空間草地にはマダニが生息しており、つい先日もマダニ害で、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)で、男性が死亡というニュースがありました。古の人たちは、野山を散策するにあたって、「ツツガムシ」によるツツガムシ病を恐れました。
苔玉を作り眺めながら、ツクツクホウシの声を聴き、私たちの生活空間に思いを致してしまいました。今は、コオロギ、スズムシと、秋の虫の音がいっぱいです。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。