【苔玉に寄せて】Vol.22〜玄人の当然は素人の驚き
玄人の当然は素人の驚き
どうして、こんなにわかり切ったことを質問されるのだろうか?と、園芸(苔玉など)をお話しするなかで思うことがしばしばあります。私は一介の園芸のプロ、疑問を抱き質問される方は全くの初心者だから仕方がないのかもしれません。
そうした幾つかの事例をお話ししましょう。
①.「この植物は、花が咲きますか?」
よく受ける質問です。花が咲くということは、植物にとっては子孫を増やすための生殖作用に他なりません。花が咲き、実をつけてこそ、植物の次世代を残す生殖作用です。どんな植物でも必ず「花を咲かせます」。さらに突っ込んで考えてみると、「観賞価値がある花がさくのかな?」という、ご質問だったのかもしれませんネェ!
②.必ず「実を着けますか?」
花がけば雌蕊に花粉(雄蕊)が受粉して、実を着けるのが自然の摂理です。でも私たち人間の都合で、八重咲の花などに品種改良されたものには、実を着けることは殆どありません。雌蕊や雄蕊が、花弁などに品種改良されて「八重咲」になされたことに依ります。大輪八重咲のバラ、八重咲大輪のキク、八重咲のカーネーション、八重咲のツバキ等がいい例です。
③.では、八重咲の美しい花はどんな方法で子孫繁栄させるのでしょう。
挿し木、接ぎ木等の方法に依って子孫を残し、増やします。これらの方法を「栄養繁殖」といいます。これに対して種子を採って繁殖させる方法を「実生繁殖」といいます。
④.「この素敵なバラの花!・・・・・挿木で増やそうかな!」
安易に仰る。それはダメですョ!、今、園芸店に出回っているバラ苗の全ては、接ぎ木された苗です。因みに鑑賞の対象とする植物を、私たち人間の都合で、自然の色、形、香りなど以上に品種改良してしまったモノは、殆どの場合、病虫害への抵抗力などが自然のモノに比べるとひ弱な体質に変化してしまっています。野バラなど、丈夫な野生種を台木として接ぎ木して、病虫害などにも十分耐える「バラの苗木」を作っているのです。モモ、クリ、カキ、ナシ、ブドウ、リンゴなどの果樹の苗も同様の方法で生産されています。
正に「玄人の当然は素人の皆様の驚き!」を、園芸のあらゆる場面で体現し、もっと丁寧な対応をしなければナァ!と、反省すること、枚挙に暇がありません。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。