【苔玉に寄せて】Vol.25〜マツの苔玉 その後

マツの苔玉 その後

マツの代表格は通称「雄松」と呼ばれるクロマツですが、「雌松」と呼ばれるアカマツ、形の端正に纏まったゴヨウマツ等があります。新春を寿ぐマツの苔玉や盆栽・盆景には「クロマツ」が使われることが多いようです。

正月はとっくに終わりました。

当の苔玉仕立てのクロマツをそのまま部屋の片隅に放置していませんか。戸外では寒いだろうと室内に置きっ放しにしたために、早々に新芽が動き伸び始め、その雄々しい姿を喜んでいたのも束の間、いつの間にか長く軟らかく徒長したクロマツになってしまい、節間が間延びして、当初の樹形とは似ても似つかぬ哀れな形の崩れた樹形となり、がっかりしていませんか。

本来、マツは寒さに強い植物です。寒風にさらし、剛健かつ凶刃に育てなければなりません。
室内で軟弱な温室育ちにしてしまっては、ダメにしてしまいます。

寒風にさらし強面に育てた上で、たくましい新芽が出る時期4月下旬~5月上旬には、間延びして育った強い枝は切除し、周囲のか弱い枝の方の頂芽を痛めつけて伸ばす「マツの緑摘み」作業を施して、樹形を整えていかなければなりません。

新年、マツの苔玉を寿ぎましたら、苔玉本体の凍結を避けながら、寒風吹きすさぶ戸外に出して頂いて構いません。
かわいい子には厳しい冬を乗り切る力をつけてやってこそ、本来のマツに対する愛情に他なりません。

苔玉部分の乾燥、とりわけ、夏場のマツ全体の根部の乾燥による痛みも心配されます。その場合は、一端苔玉をバラしてしまい、鉢植にする方がベターかもしれません。そして固形油粕等を施肥しておき、立派な新芽の萌芽を促し、次の年末に再度苔玉仕立てにしてお楽しみ頂いてもいいのではないでしょうか。

四季の変化に富む日本列島で、園芸植物を維持管理するに当たっては、寒さ暑さや乾燥・湿度等、上手に乗り切る工夫が必要になり、場所それぞれ人それぞれに、変わっていて当然です。

 

マツと限らず、古木になるにつれて根部が肥大し、地表面に現れてきます。この姿を「根上がりの松」といって、その古木風情を楽しむといいでしょう。緑の苔の丘に、盛り上がった黒褐色のマツの根部、この風情こそがマツの盆景の魅力にほかなりません。

苔玉仕立てのマツの根元の苔部分が広くて、少々もの寂しいと感じられる方もいらっしゃるでしょう。その場合は、広く感じる緑の苔部分に割箸等で穴をこじ開けて、その穴にラン科植物「トキソウ」の球根等を添えて、楽しまれたらいいと思います。あるいは、上手くいくようでしたら「ツクシンボ」などを植えて、お楽しみになるのも一興です。

今年の冬は寒い! 山々は雪に埋まり、山採りコケの採取は大変です。でも、深く積もった雪の下で緑のコケは元気に春を待っています。

春が楽しみです。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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