【苔玉に寄せて】Vol.37〜水と光と苔
水と光と苔
「苔は日陰の植物で、太陽光は不要だ」という認識が、一般的にあるようです。だから、「苔玉は太陽光のあたらない日陰で育てるもの」と、誤まった認識をお持ちの方たちに出会うこと、しばしばです。
苔の生育にも、太陽光線は絶対に欠かせません。苔は体内にクロロフィル(葉緑素)を含有しているからこそ、緑色を呈しています。クロロフィル(Chlorophyll)は、光合成の明反応で光エネルギーを吸収する役割をもつ化学物質なんです。苔も一般の植物と同様に、光エネルギーを使って水と空気中の二酸化炭素から炭水化物(糖類:例えばショ糖やデンプン)を合成して、苔本体を作り維持しているのです。更に苔が生きていくためには、水分も絶対必要になることは、周知の事実です。
「水」に関しては、「空中湿度が程々の状態であること」が求められます。水中にドップリと浸けたままでは、苔は生きることが出来ません、腐ってしまいます。
苔玉を取り扱っていますと、「水」に関してはよく理解され過ぎていて、過剰な水遣り傾向にあります。「光」に関しては理解不足で、日陰で育てて苔を駄目にしてしまう傾向がみられます。
よく見かける2~3の失敗事例をご紹介します。室内に長期間置きっ放しにされた苔玉の苔部分が、黒く変色してしまったモノを見かけること、しばしばです。これは、太陽光不足の故に葉緑素がダメージを受け、更に、過剰水分の故に苔が腐ってしまった状態です。
エアコンの効いた室内の苔玉で、苔部分は辛うじて薄緑色を維持しているが、苔部分はカサカサに乾燥しているモノ。これはエアコン効果で空中湿度が低下、苔は枯れる寸前にあります。この場合は、適度な水分補給で元に戻すことが出来るでしょう。
「水は毎日補給しているのに、苔玉が元気でない」と、耳にすることがあります。よくよく聞いてみると苔部分に霧吹きだけやっているとのこと。これは、丸い苔玉の芯部分に水が行渡っていないということです。バケツなどのたっぷりの水に苔部分を浸して、苔の芯部分まで十分に水を供給しなければなりません。
水を十分に供給するためにと、苔玉の受け皿に常時水を張って、苔玉が乾燥しないようにする、これも駄目です。苔が腐ってしまいます。
苔玉が順調に生育するようにと、水遣りとともに「水肥」を施用する、これも絶対禁止です。苔は自然界では、殆ど肥料気のないところに生育しています。肥料をやると苔は全滅してしまいます。それでも、苔玉上部の植物に施肥したい。私は、ごく薄い液肥を苔面に触れないように、苔玉底部から注射器で少しずつ注入する方法をとっています。肥料とは違う各種の「植物活力剤」を極薄め施用することは、やぶさかではありません。苔の生育にもいい結果をもたらしてくれます。
ことほど左様に、「水」と「光」が程よく供給されて、初めて苔は生命を維持し、順調に生育し続けます。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。