【苔玉に寄せて】Vol.40〜「苔玉」和物と洋物
「苔玉」和物と洋物
ウメ、サクラ、ナツツバキ、アジサイ等、専ら花を楽しむ落葉性花木の苔玉は、すでに多くの人に馴染みの樹種だと思います。
花ではなく葉、樹形、枝ぶり、紅葉などを楽しむモミジ、コナラ、ケヤキ、ブナ等の落葉樹の苔玉も人気が高いものです。これらは主として日本列島に原生する植物で、一般に「和物」と呼称されます。
よく見かける外来種の落葉樹「苔玉」として、アメリカハナミズキ、ハナノキ、アメリカフウ等を目にしますが、これ等を「洋物」と呼んだりもしますが、今日の園芸愛好の世界は和洋混然一体になっています。
5~6月に開花を楽しむ花木「アジサイ」は、日本列島原生の植物ですが、今、園芸売店で眼にする艶やかな赤色やピンクのアジサイは、その殆どが欧米各国で品種改良されたモノで占められています。コスモポリタンな園芸時代、「和物、洋物」の判別が意味をなさないようです。
こうした時代にあっても、苔玉に仕立てる「アジサイ」は、青色系の比較的地味な色彩の、ヤマアジサイ、ガクアジサイ、アマチャノキ等が好まれる傾向にあります。盆栽風~盆景風・和物アジサイとして、「苔玉アジサイ」が、多くの園芸愛好家の認めるところなのかもしれません。しかし、比較的艶やかな花色の洋種アジサイ(ハイドランジャーと呼ばれます)の苔玉も、多くの人たちに好まれているのが現況です。
常緑樹花木「ツバキ」についても、同様の状況にあります。ツバキの学名が「Cameria Japonica」といわれる、ツバキは日本原産の樹木です。アジサイと同様、欧米各国、豪州等で品種改良が進み、数百種類のツバキ品種が現存します。それでも好んで苔玉に仕立てられるのは、「ヤブツバキ」「侘助」等、一重咲花の比較的地味な品種への傾向が主流となっています。
2月14日、バレンタインデーの贈り物に好まれる赤色の「バラ」、苔玉でもこの傾向は否めません。赤色花「ミニチュア・ローズ」の苔玉が好んで贈られます。赤色バラの花言葉が「貴方を熱烈に愛します!」に、依るのでしょう。愛の表現に「和洋」変わりないですね。
米国の首都ワシントンのポトマック河畔で、日本の国花サクラ並木が楽しまれ、方や、東京都内では、アメリカハナミズキが街路樹の中で最も多く植えられている今日です。苔玉の世界でも、和洋混然一体となったコスモポリタンな苔玉園芸を楽しんでいきたいと思います。

ツバキの苔玉 (和物)

ミニバラの苔玉 (洋物)
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。