【苔玉に寄せて】Vol.41~苔玉の受皿

苔玉の受皿

 丹精込めて作った苔玉は、その受皿次第で見栄えが大きく変わること、すでに多くの方々の体験なさったこととお察しします。一般的には、笠間焼、美濃焼等の茶褐色や灰褐色の受皿にのせて楽しんでおられ場合が多いようです。緑色の苔玉と笠間焼、美濃焼等の受皿との取り合わせは、自然の風合いがあて素晴らしいセンスと、お見受けします。

 白色の磁器製の皿類を苔玉の受皿として利用されたとしたならば、少々、問題があります。白色は太陽光線の反射率が極めて高く、結果として苔玉植物の葉裏を照らし、苔玉植物は傷んでしまいます。本来、植物の葉裏は太陽光線が当たるところではないこと、再認識して下さい。

 別の視点から緑色の植物と白色の受皿の相性の悪さを考えてみます。白色の明度(明るさの度合い)は20度、緑色の明度は14度です。従ってパッと見た瞬間、私たちの眼に飛び込んでくるのは明度20度の受皿であって、緑色の苔玉ではありません。これは、「光」と私たち「動物の視力」の本質的な問題であって如何ともなし難い、本能に帰することです。

 私たちが見たい・鑑賞したいとする対象は緑色の植物であり、決して白色の受皿ではないはずです。白色の受皿が前面に出て緑色の植物たちが後背に甘んじてしまっては、本末転倒もいいところ、ということになってしまいます。

 ボタン、シャクヤク、バラ、チューリップ等の植物の花色の代表は、「赤色」です。赤色もまた明度は14度です。緑色の茎葉と赤色の開花した植物を楽しむのに、知らず知らずのうちに白色の器に邪魔されないようにご注意下さい。鉢植やプランター栽培の植物を楽しむに当たっても、同じことが言えましょう。白色の植木鉢、プランター、鉢置棚などは避けるべきです。欧米各国等、園芸先進各国を歩かれた方々には、白色の植木鉢等、殆ど見かけないこと、周知の如くです。

 職務柄、国内各所を歩き回ることの多い私ですが、まだまだ白色のプランター等、植え付け容器の散在している姿を街中に多く見かけ、心秘かに残念に思っております。地方の駅舎、学校等の片隅に、白色プランターの残骸が放置されていることも多く見かけ、切ない思いに駆られます。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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