【苔玉に寄せて】Vol.45~「苔玉」作りに至った道のり
「苔玉」作りに至った道のり
私は社会人となって初の仕事は、公園、高速道路、工場、ゴルフ場造成等の公共緑化工事に携わることでした。その折、傷んだ樹木や規格外れの小さな苗木等、廃棄処分の対象となる苗木類が多くあって、捨て去られる植物たちを愛おしく思い、小さな植木鉢などに育てたことでした。日本経済が高度成長を遂げ公共緑化が華やかだった昭和末期の頃は、大量の緑化樹木の生産に携わりました。そこでも多くの規格外れの植物たちを廃棄処分する場面に遭遇、何とか生かしてやりたい思いに駆られたことでした。
平成2年にバブル状態にあった日本経済が弾け、私も大型公共緑化工事から離れる決断に迫られました。そこで、全国の園芸店、ホームセンター等の園芸小売等の経営コンサルに携わることとなりました。そこでもまた再び、ロス化し廃棄されていく植物たちを見るに忍びない思いから、これ等を何とか生かしたい思いでいっぱいでした。
これら廃棄される植物たちを鉢物や盆栽風に仕立てて、再生、楽しんでおりました。その数、次第に増え続け処方に困り、初歩的な「苔玉」に変身させていった次第でした。
以前の本コラム上で、苗木類の根部が乾燥しないように水苔などで保護して荷造して発送したことから改良改革して、「苔玉」という形に仕立てた旨、記載しました。
捨てられ、命を絶たれる植物たちを、再生復活させ天命を全うさせたい、という思いに始まった「苔玉」への道のりでした。以来30有余年、植木類の苗に始まって、花木類、観葉用植物、ラン類、花鉢類、実物花木、山野草、地被植物、多肉植物等々と、多岐に渡る植物を新たに「苔玉」に仕立て、今日までに1200余種の植物を「苔玉」に仕立てるようになりました。
大学在学中に学んだ花の栽培、緑化・造園業で学んだ樹木の仕立て方等々、「苔玉」造りに生かされています。茶庭の設計・造作で学んだ「わび・さび」の心も、他に代えがたい体験であり、「苔玉」造りに少なからず影響をもたらせてくれました。75余年の年齢を重ねた今日、四季折々、更に多くの人たちに愛でて頂ける「苔玉」作りに精進したいと考えています。


執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。