【苔玉に寄せて】Vol.62~廃棄プラスチック と「苔玉」

廃棄プラスチック と「苔玉」

 今、溢れる廃棄プラスチックは、地球規模での環境破壊・ゴミ問題となっています。私たちの生活のありとあらゆる場面に、プラスチック製品が出回っています。昨年、五島列島を旅しましたが、美しいはずの海浜に、ハングル文字の印刷されたプラスチック・ゴミが大量に漂着していたことで、国際問題となっている廃棄プラスチック・ゴミに思いを致したことでした。

 ところで、さて、私たちの園芸も少なからず高分子化学の成果、プラスチック素材文明の恩恵に浴しています。花苗、野菜苗は黒丸プラスチック鉢に仕立てられて大量に販売され、果樹や花木の苗も然り、大き目の塩ビポットに仕立てられて店頭に並んでいます。更に鉢仕立ての花や観葉植物などは、プラスチック製の鉢に植え付けられて店頭に並んでいます。身近な私たちの生活空間に溢れる花、観葉植物等々、その殆どがプラスチック製容器に植え付け仕立てられています。

 米国ロサンゼルス郊外にある世界最大の植木生産会社、「モンロビア・ナーセリー」を訪ねたことがあります。ここでは殆んど全ての植木が、プラスチック製容器で仕立てられて、広大な生産圃場に並べられていました。

 軽くて割れない、そして大量輸送が可能になったプラスチック製の植木鉢の出現が、今日の飛躍的に成長した園芸マーケットを生み出すことに貢献してくれたこと、疑う余地ありません。

 結果、使われなくなり古びたプラスチック製の植木鉢、プランター等々の残骸が、学校や駅の片隅に放置されている光景を全国至る所で見受けること、まことに残念です。

 こうした中で35余年以前頃から流行ってきた「苔玉」園芸は、過剰なプラスチック園芸に対する「密かな反抗」であったのかもしれません。生理的にプラスチック製植え付け容器に嫌気がさして、「苔」に包まれた植物に癒されている面も大いにあるものと考えています。

 新型コロナウィルス禍中、多くの人々にとって身近なエンターティメント・園芸は春に向かって、今まさに盛りです。花や野菜を楽しみながら、更に、廃棄プラスチックにも思いを致さなければと考えています。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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