【苔玉に寄せて】Vol.82~「苔」舞台の「老黒松」と「松ボックリ」

「苔」舞台の「老黒松」と「松ボックリ」

 歩行者専用の緑道が整備された筑波研究学園は、散歩するにはうってつけのラインでいっぱいです。紅葉で彩られた秋の歩行者専用道路を散策する、魅力がいっぱいです。
自然の景観に見とれて、この佇まいを苔玉の世界にいれていきたいものだなぁ・・・と思い描いております。

 紅葉する木々の合間に濃い緑の黒松や赤松の林が程よく散在します。松の樹林下には松ボックリが転がり落ちています、ついつい手に取ってみたくなること、しばしばです。松の木の直下に松ボックリ・・・なかなかの景観であり、ストーリーだなぁと思うことしばしばです。

 そうだ、この景観、季節感、ストーリーを苔玉作品に描いてみよう・・・と、早速にクロマツの苔玉に、添景物として松ボックリを配してみました。クロマツの老いた厳つい風情の幹肌に、マツの赤ん坊である松ボックリが張り付いている・・・なかなかの景を醸し出しました・・・老木と若い子孫が同一空間に生きている姿は、なかなかの様となり、ストーリーとなりました。

 私が若き日々、大学時代の頃、園芸・造園学を学ぶ中で折に触れて、「自然に学べ」と、教え諭されたものでありました。ゴツゴツとしたクロマツの老木の幹肌・傍らに無造作に転がる松ボックリ、この相者が若き日々の学びを想起させてくれました。松の老幹肌・松の赤子「松ボックリ」を見ていると、永遠に繋がる命の偉大さを改めて思い知らされた気がしないでもありません。黒松の強面な老幹肌と松ボックリは、一個の苔玉景観を通して、命の世代交代を、言わず語らずのままに私に教えてくれました・・・たかが路辺に放り出された松ボックリ、されど未来の松の大木であったのです。

 緑なす「苔」の大地で、老幹肌「クロマツ」と「松ボックリ」が演出する舞台・・・たかが小さな「苔玉」、されど思いは無限に拡がる「苔玉」空間舞台です。小さな苔玉園芸空間に、私たちの思いの一端でも表すことが出来たらいいなぁ・・・等々、深み行く秋の中で思いを馳せています。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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