【苔玉に寄せて】Vol.84~幹、枝を曲げ捻る樹形造り
幹、枝を曲げ捻る樹形造り
昨年末から新春にかけて多くの松の苔玉を作成しました。クロマツ、アカマツ、ゴヨウマツ等でした。植物の本性・向日性の故に、若いマツは素直に真っすぐ上に伸びた樹形で育ち、鑑賞するには面白味がありません。私たちの住む日本列島は、アジアモンスーン地帯に位置しているので海岸風が強く吹き付け、クロマツの樹形は風に押されて幹も枝も曲がってしまいます。この曲がったクロマツを故人たちは「磯慣れ松(そなれまつ)」と言って、慣れ親しんできました。風に煽られて曲がった松の生育する環境の中で生きてきた私たち日本人に、「磯慣れ松」という自然が心のどこかに映像化されてきたのかもしれません。
風に煽られ磯部に力強く張り付いて生きる松・・・・・を盆景の中に描くために、枝振りに変化を付けて面白みを演出する必要に迫られました。ために、幹や枝部分に園芸用のアルミ線を螺旋状に巻き付け、右・左に、更にスパイラル状にと、自在に枝振りを作るようになりました。
真っすぐに幹の伸びた樹形を「直幹」と言います。穏やかな地中海型気候のイタリアや南仏に育つ松は「直幹」型に育っています。直幹樹形の松は、それなりに良さもありますが、私たちは風に煽れるアジアモンスーン地帯が育ち慣れ親しんだ環境の故か、マツは主幹や枝の細い部位を曲げたり捻ったりと、自在に変化を付けたくなってしまいます。この年末年始に作成したマツ類の苔玉の殆んどに、園芸用アルミ線で曲げ・捻り等を加えて「松の苔玉」に仕立てたのでした。
クロマツ、アカマツ、ゴヨウマツ等の苔玉に限らず、過去に制作した苔玉たちにも、園芸用アルミ線等を使って主幹・枝振りに変化を付けてきました。オリーブ、コナラ等の雑木類、シマトネリコ、ツバキやサザンカ類、ナナカマド、ムラサキシキブ、モミジ類、等々の苔玉作成がそうでありました。
枝や幹を曲げたり捻ったり・・・・・植物達には甚だ迷惑千万なことは百も承知、でも私たちの生活環境に合わせて我慢してもらうしかありません。
執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。