【コラム】 苔玉に寄せて Vol.86 ~「苔玉」を振り返る
「苔玉」を振り返る
45余年以前から、私は園芸店、ホームセンター等の園芸売り場、造園工事業等を営まれる方々への経営コンサルに携わって、列島行脚しております。そうした中で、売れ残ってしまった植木類の小苗や小さな観葉植物等の対応に行き詰り、困りきっておられる方々の窮状を知ることになりました。さて、さて、如何に対応したらいいのやら・・・・・?
とりあえず、売れ残った植物の根部が乾燥しないように、根元を水苔等の苔類で覆い包んで店頭に陳列して頂く・・・・・という対応を促したことでした。水苔を使って、丁寧かつ美しく植物の根部を覆い巻く、そんな園芸売り場を見かけるようになりました。そうこうするうちに、黒ビニールポットに植えられた樹木苗よりも苔で根元を巻いた樹木の苗が、多くのお客様に好まれていることに気付かされたのでした。なるほど!これはいい!
「苔玉」の始まり、であったと思います。時、あたかも生活全般に拡大した高分子化学・プラスチック製品が、環境汚染の元凶と目されつつある世相でした。至極自然に、多くの園芸愛好家の皆様方に、根元を苔巻きした樹木苗が受け入れられていったのだろうと、思いを致したことでした。
あれから概ね45余年を経ました。この間に概ね1,000余種に及ぶ植物を、「苔玉」という形でデビューさせてきました。濃緑色の苔で根部を包まれた植物に触れ、何気に心・癒されておられる人々の姿を見させていただき、心から嬉しくなります。
園芸愛好されてきた大先輩たちには盆栽、盆景といった高度の園芸芸術があります。これらを入手・管理・愛培するには多くの手間暇、そして経費も掛かります。それに比べると誠に手軽に入手可能、愛培できるのが「苔玉」です。いわば「カジュアル盆栽」とでも言えましょうか。今日も、高齢の方々が終の棲家とされているとある高層マンションで、「御殿場桜」の苔玉作りにチャレンジして頂きました。出来上がった桜の苔玉に触れ、嬉しそうなお顔のご高齢の方々でした。
たかが手の平に乗るほどのまことに小さな「苔玉」にすぎません。されど、私たちを大きな自然界に誘ってくれる大きな存在の「苔玉」に感謝です。

執筆者紹介 – S.Miyauchiさん
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。