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【苔玉に寄せて】Vol.61~苔玉植物たちとの出あいに思う

苔玉植物たちとの出あいに思う

 私が苔玉にチャレンジして40余年が経ちました。この間に取り扱った植物は品種レベルまで掘り下げると、1000余種にもなります。

 ツバキ、アジサイ、クロマツ、ツツジ類、マンリョウ等の和物と呼ばれる植物たちに始まって、ミニチュアローズ、シクラメン、各種の洋ラン類などの洋物、また主として熱帯~亜熱帯を原産地とするゴムの木、オリヅルラン、テーブルヤシなどの幼苗類等々と、多岐に渡ります。小さな苔玉面に、世界規模で広がっている多くの植物たちを植え付けてきたのでした。

 新年には花ウメの苔玉を多く作りました。梅は中国が原産地であって、日本原産の植物ではありません。2000余年以前頃に中国からもたらされたモノです。シクラメン、チュ-リップ、オリーブ等は中近東から欧州にもたらされ、明治時代以降に日本にもたらされました。

 日本原産のアジサイ類を欧州にもたらしたのはシーボルトであったこと、以前の本コラムでかいたことがあります。欧州へ行ったアジサイが品種改良された、ハイドランジャー(西洋アジサイ)として日本へ戻ってきたのです。

 多くの日本古来のツツジ類も、同時期に欧州にもたらされました。ツツジ類は主としてベルギーで品種改良が進み、その多くが米国に渡り栽培されました。米国から太平洋を渡って、日本に再入国したツツジ類がアザレア(西洋ツツジ)です。
これらの植物の伝播は、地球規模で見ると、東西の動向が主体でした。

 カトレア、デンドロビューム、コチョウラン等のいわゆる洋ランと総称される蘭類は、主として熱帯~亜熱帯が原産地で、大航海時代~中世にかけて、ポルトガル、スペイン、イギリス等の欧州海洋国が欧州にもたらしたものです。欧州列強の王侯貴族たちはガラス温室を建設し、 今日の洋ラン類繁栄の基礎を作ったといえましょう。

 明治以降、欧米各国の園芸文化に刺激されて、日本でもカトレア、デンドロビューム等々の洋ラン類の愛好家が増えていきました。当初は貴族階級の生活の中に育ち、徐々に私たち庶民の生活に浸透してきたのでした。

 1945年8月15日、第二次世界大戦に敗北した日本人の生活環境は徐々に落着きを取り戻し、住環境も整ってきました。そんな中で人気を高めてきたのが、主として熱帯~亜熱帯が原産地の観葉植物でたちでした。
これらの植物の伝播は、地球規模で見ると南北の動向が主体であったのです。

 人類史の中、地球規模で東西南北・世界に伝播した植物たちです。いま、小さな苔玉の球体面で、長い旅路の植物たちに会えること、なんと素晴らしいことでしょう。地球規模で感染拡大する新型コロナウィルス君、そろそろ大人しくおさまって下さい。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.60~四季・年中行事を彩る苔玉植物たち

四季・年中行事を彩る苔玉植物たち

 昨年末から新年にかけて、私の部屋に「松・竹・梅」が勢ぞろいしました。「おめでたい」ことです、御節でも鰻重でもありません。クロマツ、ミリオンバンブー、ウメの苔玉の勢ぞろいです。松・竹・梅の苔玉に囲まれて、コロナ禍中、ささやかな迎春でした。

松(黒松)

 2月の節分会には、煮干し魚を添えたミニヒイラギの苔玉が玄関口を飾ることとなり、3月3日にはハナモモの苔玉が室内に彩りを添えることとなります。正月、節分、ひな祭りと、古来より続く年中行事に合わせて、私たちの生活の中に多くの植物が関わっています。

 この間、寒さ厳しい季節の中で咲誇るツバキやサザンカの開花を愛で、春を待つ心にロウバイ、トサミズキ、レンゲツツジ等、落葉花木の萌芽、開花が春を待つ心に期待を高めてくれます。

 3~4月に掛かっては、各種のサクラの苔玉を楽しみ、4~5月にはヤエザクラの苔玉、また、5月初旬には端午の節句ということで、三寸アヤメの苔玉が楽しめます。初夏5~6月にはヤマアジサイやアマチャ等の苔玉が「母の日」の贈り物として人気上昇します。正月以来、すでに半年を経過しました。この間にバレンタインデーには、愛の証として深紅のミニチュアローズの苔玉がもてはやされます。

姫サルスベリ(百日紅)

 初夏を彩る新緑、赤葉のモミジ類の苔玉の季節、ケヤキやコナラ等々の落葉樹木の苔玉、7月には矮性のサルスベリが開花、それにも増して多種に及ぶ観葉植物たちの登場です。アイビー、アジアンタム、アンスリューム、オリヅルラン、ガジュマル、テーブルヤシ、パキラ等々、暑さ厳しい中に涼しさを演出してくれます。

 秋には落葉樹木たちの紅葉を苔玉で楽しむ、そして赤、白、ピンク、紫色のミニシクラメンの季節を迎え、更に年の瀬には赤実が美しいヤブコウジ、カラタチバナ、マンリョウ、ナンテンの苔玉が次年度の到来を告げてくれます。知らず知らずのうちに、飽くことなき植物たちのもたらしてくれる季節の変化、私たちの年中行事に彩りをもたらしていることに感謝です。

マンリョウ(万両)

 

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.59~コロナ禍中に「苔玉」園芸を思う

コロナ禍中に「苔玉」園芸を思う

 新型コロナウィルスが猛威を振るう中で、巣籠り生活を余儀なくされる、誠に鬱陶しい毎日です。そうした中で、園芸を楽しんでおられる方が多くおられます。その一環としての苔玉も、更に多くの園芸愛好家の方々に普及しつつあるようです。毎月募集実行されています「つくば市ふれあいプラザ」の苔玉教室も盛会で、以前にもまして参加希望される方が増え応募なさる方が多く、募集人数をオーバーしているようです。参加ご希望の方が多くいらっしゃるにも拘らず、茨城県にもコロナ陽性者が増加、12月度の苔玉教室は、中止の止むなきに至ってしまいました。誠に残念に思っております。

 この、苔玉愛好者増加の傾向は、単なる「流行」ではないように思います。コロナ故に家庭内に巣籠りされる中で、園芸を見つめ直しておられる、そうした「時流」を感じております。そんな時流下、「苔玉」の在り方はどうあるべきなのか、しっかりとした園芸(生活)基調に基づいた「苔玉」を考えなければならないと、考えています。

 比較的ケバケバした派手目の園芸から少しずつ問い直されつつあったコロナ以前の園芸が、コロナ禍で静かに、しかし少しばかり早目に進行しているように感じております。表面だけにとらわれ勝ちだった園芸から、園芸の深み、真剣さを問い直す時が来ている、そんな気がしてなりません。

 このウィルス禍がなかったとしたならば、派手々々の園芸にのみ感動しただけで、園芸のもたらす「真剣さ」を深く受け止められなかっただろうと思うのです。

 巣籠り生活の年末を迎える今、苔の大地に力強く根を張った「黒松」の苔玉を見て、その根底にある深いものに、改めて思いを致しています。小さな「黒松の苔玉」とじっくりと対峙する中で、この感染症が収束できた暁には、もっと多くの人たちが苔玉否「生活の中の園芸」を楽しんで頂きたいと、心から願っています。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.58~晩秋の苔玉

晩秋の苔玉

 11月に入って朝夕の冷え込みが厳しくなってきました。「寒い冬季間、苔玉はどんな場所に置いて管理すればいのでしょう?」という質問が増えてきます。

 大方の植物は苔も含めて、低温期間中は目立った成長・変化をしなくなります。為に、ついつい苔玉の管理を忘れてしまう、更にひどい場合には苔玉の存在すら意識の外側に行ってしまい、水の一滴も与えず、枯死してしまっている事例を多々見受けることしばしばです。とりわけ関東地方の冬季間は、西北方向から吹きすさぶ空っ風で異常乾燥状態が続きます。屋外で苔玉を管理する場合は、空風吹きすさぶ西北側で管理することは避けなければなりません。水と縁を切ってしまっては、苔も本体植物も冬を乗り切る以前に、枯死してしまいます。

 厳寒期・真冬でも木陰に生育する山苔は、緑豊かに元気に過ごしています。木陰ゆえに、空中湿度が十分に保たれているからなんです。苔庭で有名な京都の鹿苑寺(苔寺)を学生時代の厳寒期に尋ねた折、白い積雪の中に濃緑の苔が精いっぱい輝いていた光景、忘れられません。

 苔玉という小さな空間で、植物も苔も精いっぱい生きていることを忘れないで下さい。密やかに春の到来を小さな苔玉世界で待ちわびているんです。

 観葉植物として鑑賞される植物たちは、その殆どが熱帯~亜熱帯地方を原産地とします。彼らには日本の冬を耐え忍ぶ能力はありません。徹底した温度・湿度管理のできる温室があればいいのですが、わずかの植物だけのために温室はままならず、私たちの生活する部屋で管理することとなります。エアコンやストーブなどの暖房設備の整った私たちの生活環境は、どうしても乾燥気味になり、植物たちの求める湿度を維持すること、ままなりません。苔玉など植物たちは、暖房熱風等の直接当たらない場所を選んで湿度に気配りしてあげてください。
 私たちが毛布・布団にくるまって温かく熟睡している深夜~日の出前の時間帯は、植物たちにとって最も危険な寒冷時間帯になります。タンスの上など 1℃ でも高い場所で、植物達たちに暖を取ってあげることです。

 昼間は、レースのカーテン越し程度の光線下に苔玉植物たちを置いて、温度と湿度を保つことです。

 生命力に満ち満ちた春先の芽吹きまで、苔玉たちが元気に過ごしてくれますことを祈ります。それ以上にコロナ・インフルエンザ渦のこの冬を室内園芸を楽しみながら、私たちも頑張りましょう。

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.57~アフターコロナの園芸「苔玉」

アフターコロナの園芸「苔玉」

 

 過去40余年、1000余種に及ぶ植物たちを「苔玉」として楽しんできました。今新型コロナ禍中にあって、更に多くの植物たちと直接触れるチャンスを得、さて、次のアフターコロナ、ウィズコロナの私たちの園芸をどう考えたらいいのだろうと、アレコレ想いを巡らしております。

 ここ1~2年の内には、早晩バイバイコロナ、またウィズコロナの時を迎えることでしょう。
その時の多くの人たちの心は一体、何処へ向かって行くのだろう? と、考えあぐね迷い続けております。歴史に学ぶのもありかなと考えたりもしております。

 江戸時代の徳川4代将軍の頃(文化・文政年間)、日本の園芸は栄華を極めていました。秋を彩る「菊」が、奥州、江戸、伊勢、美濃、肥後などで品種改良され全国で菊花展が開催され、また春から初夏に掛けて江戸から山形や伊勢、肥後と「花菖蒲」が珍重されてきた歴史があります。アサガオもまた、文化・文政年間に大きく花開いたのでした。

 明治・大正期に入って欧米等々から多くの種類の園芸植物がもたらされました。往時を忘れ、何時しか「鹿鳴館的な園芸」に毒されていった嫌い、無きにしも非ず、だったと考えられます。令和の今日に至ってもなお、その一端は見て取れます。

 

桜の代表花とされがちな「染井吉野桜」は、150余年程度の歴史の中で、見事に「咲いてパット散る」潔さが戦前・戦中のナショナリズムをまとわせるのに一役を担ったと言われています。染井吉野桜は、主に関東地区に多く植樹されました。

 

 人それぞれに歴史あり、その足元に気付かないまでも「植物」との関りが存在しているようです。人の心は移ろい易いもの、でも、少なくとも「平和で安寧」な私たちの生活であり続けたい、そう願わずにはおられません。

 

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。