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【苔玉に寄せて】Vol.65~野草を苔玉で楽しむ

野草を苔玉で楽しむ

 身近な足元を見渡すと、見過ごされてしまう野草がたくさんあります。春一番に目立ったのはツクシンボウでした。今は、白花が咲き乱れているドクダミソウ、紫色花のアザミ、小判に似た形の小穂をつけたコバンソウ等が目立ちます。間もなくピンクの花を咲かせるネジバナ、赤い果実を着けるヘビイチゴ、そして秋には赤い花をつけるワレモコウ等、魅力ある野草がいっぱいあります。

庭先のドクダミソウ

 野草たちの開花を見る度に、開花前にポットに植えておけばよかったのになぁ、と思う、毎度のことです。魅力的な野草たちを、若芽が吹き出す前にポットに植えておけば、小振りの草丈で楽しむことができます。魅力的な野草たちの開花の度に、来年はポットに仕立てて苔玉に仕立てようと、幾度思い描いたことか。ついつい市販の園芸花物に惑わされてしまい、また、一年を棒に振ってしまう、可憐な野草たちに申し訳なく思っております。

庭先のネジバナ

 こうした野草たちを苔玉に仕立てるのは楽しいことです。ツクシンボウの苔玉を作ったことがありますが、都内で大変な人気を博したことでした。また、ピンクのネジバナの苔玉も多くの人の目を奪いました。秋には、赤い実を着けたヘビイチゴ、ワレモコウの赤い花の苔玉が人目を引きました。

 山野で開花した植物、果実を着けた状態の植物を移植・苔玉に仕立てようとしても、ほとんどは萎れてしまい、挙句には枯れてしまいます。晩秋から春先にかけて、萌芽する以前に、根部や地下茎などを堀上・採取して小振りのポットに植え付け、小さくてもしっかりした野草の鉢物を作って、萌芽期に苔玉などに仕立てることが野草の苔玉を楽しむコツです。

 庭先、山野などに楚々と咲く花たちへの思いを、苔玉に仕立てたい、今年こそ根部や地下茎を堀上・採取して、ポットでしっかりした根を育成して、開花期には素敵な苔玉にしたいと、思い描いてはいますが?さて、行動が伴いますことやら・・・

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.64~新緑の苔玉

新緑の苔玉

 “ 眼に青葉 山ほととぎす ・・・ ”

 私の部屋に同居する苔玉たちも、青葉の初夏で賑わっています。ヤマモミジの嫋やかな黄緑の若葉、ノムラモミジの赤色の新芽、4月中旬に緑摘作業を施していたクロマツの力強い新芽立等々、その姿を見ると嬉しくなってきます。新緑の広い葉の中に、たくさんの蕾を着けたヤマアジサイやアマチャ等、間もなくの開花が、次なる楽しみをかきたててくれます。

 

 

 ここはまことに小さな苔のミニ大地、苔玉空間です。苔たちも新緑の候には眩いばかりの緑の大地を呈しています。目を凝らして机上の苔玉と対峙すると、深緑のビロード状に拡がった苔の丘に、鮮やかな新緑の植物たち、苔玉の世界に引き込まれてしまいます。
私たちと共に、新緑を愛でる動物たちも存在します。身近なところでは、ちょっと油断すると、新芽いっぱいに群れて植物の新芽を食害する「アブラムシ」、よくもこんなに増えたものよと、恐れ入ってしまいます。御多分に漏れず、私のボケ、ツルウメモドキ等の苔玉たちもアブラムシの餌食になっています。ほとんどの場合、オルトラン水和剤などの殺虫剤散布で駆除するしかありません。

その一方で、昨秋からシタンジュに産み付けられていたカマキリの卵が孵化して、ベランダいっぱいにカマキリの幼虫群落様相を呈し、彼らがアブラムシを捕食しています。

ほんの数匹のアブラムシを見つけた場合には、丁寧にピンセットで掴み採って、飼っているメダカの水槽に浮かべます。すると、メダカたちが寄り集まって喜んで食べてくれます。メダカにとっては、大変美味しい天然食材となっているようです。当然のことですが、殺虫剤のかかったアブラムシをメダカの食材として利用することはできません。

新たな生命の息吹く新緑の苔玉空間は、まことに小さな世界ながらも、良きに付け悪しきにつけ、命の循環を見せてくれます。苔、植物たち、そして昆虫たち、メダカの学校、小さく狭いなかで生命の有り様を楽しみ、また、教えられています。

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.63~苔玉の材料植物を訪ねて

苔玉の材料植物を訪ねて

新潟市の新津地区に苔玉の材料を探しに来ている、

この地区はサツキツツジを代表とする花木類の生産地です。今年は春の到来が早く、ウメ、サクラ、ハナモモ、モクレン等、一挙に開花し、今まさに春爛漫。

今年の2月に過去最大級の豪雪に押し潰された農業用ハウスが多くみられ、折れたり曲がったりした植物や、寒さで枯れてしまった植物たちの残骸も多くみられ、天変地異に見舞われた生産者の皆様のご苦労をおもわずにはいられません。

そんな状況下で、目的の苔玉材料ですが、いろいろな種類の植物を見つけることができました。アマチャ、大実ヤブコウジ、コナラ、柏葉アジサイ、ケヤキ、姫サルスベリ、スモークツリー、西洋シャクナゲ、ナナカマド、二期咲き金毛ツツジ、ハナズオウ、ヒメウツギ、ヤマアジサイ、モミジ類、ユキワリソウ、レンゲツツジ等々、多くの植物を見つけました。

新潟の新津地区のほか、福岡県久留米地方、香川県高松市、兵庫県三田市、鹿児島県鹿屋市、長崎県島原市、茨城県かすみがうら市、愛知県豊田市、埼玉県川口市、東京都八丈島等々、いい材料を見つけるには、全国の花卉・花木類の産地を歩くことが必要になります。また、肝心な苔については、山形県、新潟県、兵庫県、滋賀県等、日本海側の地方で見つけることになります。太平洋側では夏季・冬期の乾燥が影響して、あまりいい苔を見つけ辛い側面があるからです。

植物の生産地それぞれに、特徴ある気候など自然環境にあわせて、特産植物が生産・出荷されています。産地を歩き、多くの種類の植物たちの中から、苔玉に見合った植物に出会ったときの喜びは格別です。

雪害、暴風雨、乾燥などの天変地異の中で、多くの生産者の方々の努力の下で育成・栽培されている各地の特産植物たちです。生産される皆様方に脱帽・敬服です。苔玉という姿で、私たちの眼を楽しませてくれる植物たち・・・多くの災厄をかい潜って来てくれました。よく来てくれたネェ!・・・感謝です。

 

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.62~廃棄プラスチック と「苔玉」

廃棄プラスチック と「苔玉」

 今、溢れる廃棄プラスチックは、地球規模での環境破壊・ゴミ問題となっています。私たちの生活のありとあらゆる場面に、プラスチック製品が出回っています。昨年、五島列島を旅しましたが、美しいはずの海浜に、ハングル文字の印刷されたプラスチック・ゴミが大量に漂着していたことで、国際問題となっている廃棄プラスチック・ゴミに思いを致したことでした。

 ところで、さて、私たちの園芸も少なからず高分子化学の成果、プラスチック素材文明の恩恵に浴しています。花苗、野菜苗は黒丸プラスチック鉢に仕立てられて大量に販売され、果樹や花木の苗も然り、大き目の塩ビポットに仕立てられて店頭に並んでいます。更に鉢仕立ての花や観葉植物などは、プラスチック製の鉢に植え付けられて店頭に並んでいます。身近な私たちの生活空間に溢れる花、観葉植物等々、その殆どがプラスチック製容器に植え付け仕立てられています。

 米国ロサンゼルス郊外にある世界最大の植木生産会社、「モンロビア・ナーセリー」を訪ねたことがあります。ここでは殆んど全ての植木が、プラスチック製容器で仕立てられて、広大な生産圃場に並べられていました。

 軽くて割れない、そして大量輸送が可能になったプラスチック製の植木鉢の出現が、今日の飛躍的に成長した園芸マーケットを生み出すことに貢献してくれたこと、疑う余地ありません。

 結果、使われなくなり古びたプラスチック製の植木鉢、プランター等々の残骸が、学校や駅の片隅に放置されている光景を全国至る所で見受けること、まことに残念です。

 こうした中で35余年以前頃から流行ってきた「苔玉」園芸は、過剰なプラスチック園芸に対する「密かな反抗」であったのかもしれません。生理的にプラスチック製植え付け容器に嫌気がさして、「苔」に包まれた植物に癒されている面も大いにあるものと考えています。

 新型コロナウィルス禍中、多くの人々にとって身近なエンターティメント・園芸は春に向かって、今まさに盛りです。花や野菜を楽しみながら、更に、廃棄プラスチックにも思いを致さなければと考えています。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.61~苔玉植物たちとの出あいに思う

苔玉植物たちとの出あいに思う

 私が苔玉にチャレンジして40余年が経ちました。この間に取り扱った植物は品種レベルまで掘り下げると、1000余種にもなります。

 ツバキ、アジサイ、クロマツ、ツツジ類、マンリョウ等の和物と呼ばれる植物たちに始まって、ミニチュアローズ、シクラメン、各種の洋ラン類などの洋物、また主として熱帯~亜熱帯を原産地とするゴムの木、オリヅルラン、テーブルヤシなどの幼苗類等々と、多岐に渡ります。小さな苔玉面に、世界規模で広がっている多くの植物たちを植え付けてきたのでした。

 新年には花ウメの苔玉を多く作りました。梅は中国が原産地であって、日本原産の植物ではありません。2000余年以前頃に中国からもたらされたモノです。シクラメン、チュ-リップ、オリーブ等は中近東から欧州にもたらされ、明治時代以降に日本にもたらされました。

 日本原産のアジサイ類を欧州にもたらしたのはシーボルトであったこと、以前の本コラムでかいたことがあります。欧州へ行ったアジサイが品種改良された、ハイドランジャー(西洋アジサイ)として日本へ戻ってきたのです。

 多くの日本古来のツツジ類も、同時期に欧州にもたらされました。ツツジ類は主としてベルギーで品種改良が進み、その多くが米国に渡り栽培されました。米国から太平洋を渡って、日本に再入国したツツジ類がアザレア(西洋ツツジ)です。
これらの植物の伝播は、地球規模で見ると、東西の動向が主体でした。

 カトレア、デンドロビューム、コチョウラン等のいわゆる洋ランと総称される蘭類は、主として熱帯~亜熱帯が原産地で、大航海時代~中世にかけて、ポルトガル、スペイン、イギリス等の欧州海洋国が欧州にもたらしたものです。欧州列強の王侯貴族たちはガラス温室を建設し、 今日の洋ラン類繁栄の基礎を作ったといえましょう。

 明治以降、欧米各国の園芸文化に刺激されて、日本でもカトレア、デンドロビューム等々の洋ラン類の愛好家が増えていきました。当初は貴族階級の生活の中に育ち、徐々に私たち庶民の生活に浸透してきたのでした。

 1945年8月15日、第二次世界大戦に敗北した日本人の生活環境は徐々に落着きを取り戻し、住環境も整ってきました。そんな中で人気を高めてきたのが、主として熱帯~亜熱帯が原産地の観葉植物でたちでした。
これらの植物の伝播は、地球規模で見ると南北の動向が主体であったのです。

 人類史の中、地球規模で東西南北・世界に伝播した植物たちです。いま、小さな苔玉の球体面で、長い旅路の植物たちに会えること、なんと素晴らしいことでしょう。地球規模で感染拡大する新型コロナウィルス君、そろそろ大人しくおさまって下さい。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。