Posts in Category: 苔玉に寄せて

【苔玉に寄せて】Vol.58~晩秋の苔玉

晩秋の苔玉

 11月に入って朝夕の冷え込みが厳しくなってきました。「寒い冬季間、苔玉はどんな場所に置いて管理すればいのでしょう?」という質問が増えてきます。

 大方の植物は苔も含めて、低温期間中は目立った成長・変化をしなくなります。為に、ついつい苔玉の管理を忘れてしまう、更にひどい場合には苔玉の存在すら意識の外側に行ってしまい、水の一滴も与えず、枯死してしまっている事例を多々見受けることしばしばです。とりわけ関東地方の冬季間は、西北方向から吹きすさぶ空っ風で異常乾燥状態が続きます。屋外で苔玉を管理する場合は、空風吹きすさぶ西北側で管理することは避けなければなりません。水と縁を切ってしまっては、苔も本体植物も冬を乗り切る以前に、枯死してしまいます。

 厳寒期・真冬でも木陰に生育する山苔は、緑豊かに元気に過ごしています。木陰ゆえに、空中湿度が十分に保たれているからなんです。苔庭で有名な京都の鹿苑寺(苔寺)を学生時代の厳寒期に尋ねた折、白い積雪の中に濃緑の苔が精いっぱい輝いていた光景、忘れられません。

 苔玉という小さな空間で、植物も苔も精いっぱい生きていることを忘れないで下さい。密やかに春の到来を小さな苔玉世界で待ちわびているんです。

 観葉植物として鑑賞される植物たちは、その殆どが熱帯~亜熱帯地方を原産地とします。彼らには日本の冬を耐え忍ぶ能力はありません。徹底した温度・湿度管理のできる温室があればいいのですが、わずかの植物だけのために温室はままならず、私たちの生活する部屋で管理することとなります。エアコンやストーブなどの暖房設備の整った私たちの生活環境は、どうしても乾燥気味になり、植物たちの求める湿度を維持すること、ままなりません。苔玉など植物たちは、暖房熱風等の直接当たらない場所を選んで湿度に気配りしてあげてください。
 私たちが毛布・布団にくるまって温かく熟睡している深夜~日の出前の時間帯は、植物たちにとって最も危険な寒冷時間帯になります。タンスの上など 1℃ でも高い場所で、植物達たちに暖を取ってあげることです。

 昼間は、レースのカーテン越し程度の光線下に苔玉植物たちを置いて、温度と湿度を保つことです。

 生命力に満ち満ちた春先の芽吹きまで、苔玉たちが元気に過ごしてくれますことを祈ります。それ以上にコロナ・インフルエンザ渦のこの冬を室内園芸を楽しみながら、私たちも頑張りましょう。

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.57~アフターコロナの園芸「苔玉」

アフターコロナの園芸「苔玉」

 

 過去40余年、1000余種に及ぶ植物たちを「苔玉」として楽しんできました。今新型コロナ禍中にあって、更に多くの植物たちと直接触れるチャンスを得、さて、次のアフターコロナ、ウィズコロナの私たちの園芸をどう考えたらいいのだろうと、アレコレ想いを巡らしております。

 ここ1~2年の内には、早晩バイバイコロナ、またウィズコロナの時を迎えることでしょう。
その時の多くの人たちの心は一体、何処へ向かって行くのだろう? と、考えあぐね迷い続けております。歴史に学ぶのもありかなと考えたりもしております。

 江戸時代の徳川4代将軍の頃(文化・文政年間)、日本の園芸は栄華を極めていました。秋を彩る「菊」が、奥州、江戸、伊勢、美濃、肥後などで品種改良され全国で菊花展が開催され、また春から初夏に掛けて江戸から山形や伊勢、肥後と「花菖蒲」が珍重されてきた歴史があります。アサガオもまた、文化・文政年間に大きく花開いたのでした。

 明治・大正期に入って欧米等々から多くの種類の園芸植物がもたらされました。往時を忘れ、何時しか「鹿鳴館的な園芸」に毒されていった嫌い、無きにしも非ず、だったと考えられます。令和の今日に至ってもなお、その一端は見て取れます。

 

桜の代表花とされがちな「染井吉野桜」は、150余年程度の歴史の中で、見事に「咲いてパット散る」潔さが戦前・戦中のナショナリズムをまとわせるのに一役を担ったと言われています。染井吉野桜は、主に関東地区に多く植樹されました。

 

 人それぞれに歴史あり、その足元に気付かないまでも「植物」との関りが存在しているようです。人の心は移ろい易いもの、でも、少なくとも「平和で安寧」な私たちの生活であり続けたい、そう願わずにはおられません。

 

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.56~苔玉植物の分類

苔玉植物の分類

 苔玉教室の中で、よくある質問に、「この植物は何科に属する植物ですか?」と問われることが多くあります。「エッ、桜がバラ科に属するんですか!」って、驚かれたり、また「なるほどネェ」と納得してもらったりと様々です。いずれにしても、より深く、詳しく植物を知りたい、興味を抱いて頂くこと嬉しく、質問にお答えしています。

桜の苔玉

バラの苔玉

 「科名」とは、植物分類学上の一つの段階であって、「科名」から植物を探すことが出来ますし、同じ科の植物一覧などから植物の育て方、基本情報などを知ることも出来ます。「科名」に興味を持っていただくことは、植物探求の第一歩かもしれません。

 

 

 私が植物分類学を学んだのは、大学時代に佐藤清明先生(昭和天皇が岡山下向なさった折の植物のご案内を務めた植物学者で、牧野富太郎先生とも別懇の中)の講義を受けてからのことでした。55余年も以前の昔々のことです。岡山大学の後背にある広大な大学演習林を歩きながら、野に生育する植物を指し示しながら、誠に気さくに、だけど懇切丁寧に植物の多くをお話頂き、深く感銘したこと、忘れられません。

 苔玉植物たちと触れるなかで、その植物の「科名」検索に始まって、更に奥深い植物たちとの触れ合いを多くの人たちに体験して頂きたいと願っております。新型コロナウィルス渦中、ともすれば巣ごもり型の生活を余儀なくされる毎日です。苔玉植物の一つ一つに触れて頂き、より深く植物探索して頂くことで、新たな楽しい時間を過ごして頂けるものと信じております。狭い園芸工房・私の部屋には、多くの種類の植物たちが緑をいっぱいにひろげています。いろいろな植物たちと触れ合いながら、今は亡き佐藤清明先生にもっと多くのことを学んでおきたかったと悔い反省し、コロナ禍巣ごもりしています。

 

植物学者 佐藤清明 先生
 ~ リーフレットより引用

 

 因みに、岡山県内に佐藤清明記念館が設立・開園しているはずです。
コロナウィルス制圧できた折には、是非、佐藤先生記念館を訪ねたいと、思いを致しているところです。

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.55~生活自粛から自衛の生活へ〜「静」と「動」を楽しむ

生活自粛から自衛の生活へ
「静」と「動」を楽しむ

 新型コロナウィルスが蔓延し、自粛生活を始めて8カ月余を経過するなかで、苔玉園芸も少しばかり揺れ動きました。店舗のオープン自粛に始まり、恐る恐るの再開店、開けてみたら「三密を避け」生活を自衛するにふさわしいエンターテイメントの一環として、趣味園芸が密かな脚光を浴び、苔玉も然り、ビフォアー・コロナにまで戻ってきたようです。

 ヤマアジサイやシコンノボタン等の花木類、モミジ類やコナラ等の和モノの苔玉仕立ての植物が着実に人気を高めています。また、酷暑期に入って、小型の観葉植物類や赤い花が夏を彩るアンスリューム、涼しげな白花のスパティフィラムの苔玉仕立て植物が室内に彩りをもたらしているようです。夏の軒先を飾るシノブ類の吊苔玉は、今も昔も変わらぬ風物です。豊かになってきた生活環境の中で、時間を持て余し、大型クルーズ船での旅もままならない、否むしろ毛嫌いされてしまったアフターコロナ、身近な生活環境を楽しんでみようということなのかもしれません。

アンスリウムの苔玉

トキワシノブのつり苔玉

 

 種を蒔き、苗を育て、花を楽しみ、果実を収穫するといった植物成長の流れは、大人にとっては楽しみではありますが、このゆるりとした流れは、幼いお子様たちには少々退屈な時間の流れのようです。「静」を求める大人と異なり、お子様たちは「動」をもとめる傾向が強い、お子様たちにとって静な植物たちよりも、動・すなわち「動物」こそが生活の中のエンターテイメントとなります。

 「植物」の一環である苔玉の傍に「メダカ」をガラス容器に入れて並べてみました。早速、お子達のお眼にかなったようです、彼らが眼を着けてきました。お子達は狭い水の中を泳ぎ回る「メダカ」にくぎ付け、大人たちは緑の「苔玉」を楽しんでおられる、両方を上手に組み合わせることで室内に涼しげな超ミニ水・庭園が生まれる、そんなことを想起されているように思われました。

 

 

 「苔玉」と「メダカ」たちの、具体的な室内での楽しみ方をご紹介しましょう。一寸と広めの生花用の水盤に水を張り、水面の高さの木炭を水面に立て、その上に「苔玉」を置く・すると広い水面に苔玉のアイランドができます。水盤の大きさ次第で、大・中・小のアイランドを2~3個作ると、それで涼しげで超ミニな水景観が生まれます。水面に「メダカ」を泳がせれば、お子様たちも大喜び、てな具合です。

 苔玉には木炭を通して適度な水分が補給され、また、水盤内の水は、立て込んだ木炭故に常に浄化され、「メダカ」くんも「苔玉」も元気、お子様たちも大人の皆さんも楽しんで頂ける超ミニ水空間をお楽しみ下さい。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.54~新たな植物たちを「苔玉」に! チャレンジ!

新たな植物たちを「苔玉」に! チャレンジ!

 私が苔に興味を抱き始めて60余年、更に苔玉という形にして楽しみ始めて間もなく40余年を経過します。この間に苔玉に仕立ててみた植物の種類は、およそ1000余種になりました。60㎝~1m程度に育った花木類や果樹苗の苔玉に始まって、徐々に15~20㎝程度の小苗を苔玉に仕立て、また、多肉植物や観葉植物類を苔玉に仕立てたり、季節の花物にチャレンジしたりと、紆余曲折、今日に至っています。それでもなお飽き足らず、新たな植物を見かけると、苔玉化してデビューさせたいという意欲に駆られます。

 当の植物たちにしてみれば、大地に広く大きく伸ばしたい根っこを小さな苔団子に押し込まれて、いい迷惑なことでしょう。でも、小さな苔団子にくるまれてなお、小振りながらも立派なクロマツ、モミジ類、ケヤキ等の樹幹・樹形を呈してくれるのですから、満更ではないのだろうと・・・・・、しかも店頭に陳列されて多くの園芸愛好家に見てもらい、購入して頂くんです。

 庭先で、わずか3~4㎝程度に伸びたヤマモミジの自然実生苗を見つけました。子葉と本葉2枚程度のまことに小さな小さな幼苗、そっと掘り起こし、苔団子にそっと植え付けてみました。小さいながらも、ちゃんとモミジを主張しています。よし、2~3年育てて一人前のヤマモミジの苔玉に育て、園芸界にデビューさせてあげよう。

 庭先にそのまま放置しておいたとしたら、雑草の一部として刈り取られてしまった命、「ヤマモミジの小苗君、よかったネェ」と、語り掛けたところでした。きっと、小さな苔団子に押し込められても、「ヤマモミジの苔玉」として、華やかにデビューすることでしょう。

 身近に育つ「ヤマモミジの幼苗」に癒されつつ、更に新たな植物たちを苔団子に押し込んで、苔玉デビューさせていこうと、梅雨空の下、思いを巡らしています

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。