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【苔玉に寄せて】Vol.43~涼を呼ぶ吊り「苔玉」たち

涼を呼ぶ吊り「苔玉」たち
「チリン、チリン」、夏の縁側に吊るされた風鈴の音で、風を知り、「涼しさ」を装う・・・夏の風物です。
 
風鈴と共に「涼しさ」を演出してきた「ノキシノブ」などの吊り仕立て植物(ハンギング・プランツ)もあります。「吊り仕立て苔玉」が、今様のハンギング・プランツとして人気を博しつつあります。アイビー類、オリヅルラン、ポトス、大実ヤブコウジ、テイカカヅラなどの、丸く仕立てた苔玉を吊して楽しまれる方が増えてまいりました。
 

オリヅルラン

大実ヤブコウジ

 
 
マンション等の集合住宅など、中高層建築の今様の住宅環境では、殆どの場合、縁側というよりもベランダ、テラスという形で外の世界に繋がっています。吊り仕立て苔玉、ハンギング・プランツたちは、内外を上手に連結させ、風を呼び涼をもたらしてくれる・・・景観を作ってくれます。
 
因みに、上述した以外に「吊り仕立て苔玉」に向く植物たちを列記してみます。
 
シダ類、サクララン(ホヤ)、トラデスカンチャー、ネオゲリア、ハートカズラ、ハートホヤ、ムラサキオモト、モッコウバラ、ロニセラなどがあります。また、グリーンネックレス、ビアポップ、ミカヅキネックレス等の垂れ下がるタイプの多肉植物も、吊り仕立て苔玉に適します。
 
 

サクララン

 

ハートカヅラ

ビアホップ

 
 
天井から吊るすばかりでなく、ベランダなどの手摺や壁面に上手に吊るし掛けるのもいい方法だと思います。また、室内では棚に掛けたり、天井から透明の釣り糸で吊るすのも一興です。あたかも、天空に浮かぶ「城・ラッピュタ」を想起させられます。
 
暦の上ではすでに立秋を過ぎたとはいえ、まだまだ酷暑の毎日が続きます。心ばかりの「涼」を、吊るした植物たちで呼び起こされますよう。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.42~生活空間で楽しむ苔玉

生活空間で楽しむ苔玉
 苔玉を作り初めて30余年を経過、全国至る所で多くの皆様方と苔玉を作ってまいりました。
 
 作られた苔玉は元気にしているのでしょうか。どのように、楽しんでおられるのでしょうか。
折角苦労なさって作られた苔玉です、3個~5個といろいろな植物を苔玉にして管理なさっておられることでしょう。
 
 大事に育て楽しんでおられる苔玉達です、毎日の生活環境の下で、しっかり楽しんで頂きたいと思います。
 
 3個~5個~10個のお手持ちの苔玉達の楽しみ方をご紹介します。
 
 次図は、ガラステーブルのガラス面に水苔を敷き込み、その上に苔玉数種類を配して、楽しんでいます。
 
 赤い花はアンスリュームで、その傍らの緑色の玉は苔だけを丸く仕立てた苔玉、そして右端にテーブルヤシのミニ苔玉を配しました。ガラス面の水面に浮かぶ水苔の島に、アンスリューム達植物が生い茂っているように見えませんか。
 
 
 
 2例目は、黒松と山モミジをあしらい、日本の山里をイメージしてみました。更に、黒松だけで海辺の景観を思い描いてみました。
 
 
 いくつか揃ってきた苔玉達を使って、室内庭園を楽しんでおります。その他にもいろいろな苔玉の楽しみ方がありますので、順次ご紹介していきたいと思っております。
 
 苔玉園芸が少しづつ、多くの人たちに知れ渡ってきたこの機会に、小さいながらも大きな生活空間を思い描いて頂けたらと、願っております。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.41~苔玉の受皿

苔玉の受皿

 丹精込めて作った苔玉は、その受皿次第で見栄えが大きく変わること、すでに多くの方々の体験なさったこととお察しします。一般的には、笠間焼、美濃焼等の茶褐色や灰褐色の受皿にのせて楽しんでおられ場合が多いようです。緑色の苔玉と笠間焼、美濃焼等の受皿との取り合わせは、自然の風合いがあて素晴らしいセンスと、お見受けします。

 白色の磁器製の皿類を苔玉の受皿として利用されたとしたならば、少々、問題があります。白色は太陽光線の反射率が極めて高く、結果として苔玉植物の葉裏を照らし、苔玉植物は傷んでしまいます。本来、植物の葉裏は太陽光線が当たるところではないこと、再認識して下さい。

 別の視点から緑色の植物と白色の受皿の相性の悪さを考えてみます。白色の明度(明るさの度合い)は20度、緑色の明度は14度です。従ってパッと見た瞬間、私たちの眼に飛び込んでくるのは明度20度の受皿であって、緑色の苔玉ではありません。これは、「光」と私たち「動物の視力」の本質的な問題であって如何ともなし難い、本能に帰することです。

 私たちが見たい・鑑賞したいとする対象は緑色の植物であり、決して白色の受皿ではないはずです。白色の受皿が前面に出て緑色の植物たちが後背に甘んじてしまっては、本末転倒もいいところ、ということになってしまいます。

 ボタン、シャクヤク、バラ、チューリップ等の植物の花色の代表は、「赤色」です。赤色もまた明度は14度です。緑色の茎葉と赤色の開花した植物を楽しむのに、知らず知らずのうちに白色の器に邪魔されないようにご注意下さい。鉢植やプランター栽培の植物を楽しむに当たっても、同じことが言えましょう。白色の植木鉢、プランター、鉢置棚などは避けるべきです。欧米各国等、園芸先進各国を歩かれた方々には、白色の植木鉢等、殆ど見かけないこと、周知の如くです。

 職務柄、国内各所を歩き回ることの多い私ですが、まだまだ白色のプランター等、植え付け容器の散在している姿を街中に多く見かけ、心秘かに残念に思っております。地方の駅舎、学校等の片隅に、白色プランターの残骸が放置されていることも多く見かけ、切ない思いに駆られます。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.40〜「苔玉」和物と洋物

「苔玉」和物と洋物

 ウメ、サクラ、ナツツバキ、アジサイ等、専ら花を楽しむ落葉性花木の苔玉は、すでに多くの人に馴染みの樹種だと思います。
花ではなく葉、樹形、枝ぶり、紅葉などを楽しむモミジ、コナラ、ケヤキ、ブナ等の落葉樹の苔玉も人気が高いものです。これらは主として日本列島に原生する植物で、一般に「和物」と呼称されます。

 よく見かける外来種の落葉樹「苔玉」として、アメリカハナミズキ、ハナノキ、アメリカフウ等を目にしますが、これ等を「洋物」と呼んだりもしますが、今日の園芸愛好の世界は和洋混然一体になっています。
 5~6月に開花を楽しむ花木「アジサイ」は、日本列島原生の植物ですが、今、園芸売店で眼にする艶やかな赤色やピンクのアジサイは、その殆どが欧米各国で品種改良されたモノで占められています。コスモポリタンな園芸時代、「和物、洋物」の判別が意味をなさないようです。

 こうした時代にあっても、苔玉に仕立てる「アジサイ」は、青色系の比較的地味な色彩の、ヤマアジサイ、ガクアジサイ、アマチャノキ等が好まれる傾向にあります。盆栽風~盆景風・和物アジサイとして、「苔玉アジサイ」が、多くの園芸愛好家の認めるところなのかもしれません。しかし、比較的艶やかな花色の洋種アジサイ(ハイドランジャーと呼ばれます)の苔玉も、多くの人たちに好まれているのが現況です。
 
 常緑樹花木「ツバキ」についても、同様の状況にあります。ツバキの学名が「Cameria Japonica」といわれる、ツバキは日本原産の樹木です。アジサイと同様、欧米各国、豪州等で品種改良が進み、数百種類のツバキ品種が現存します。それでも好んで苔玉に仕立てられるのは、「ヤブツバキ」「侘助」等、一重咲花の比較的地味な品種への傾向が主流となっています。

 2月14日、バレンタインデーの贈り物に好まれる赤色の「バラ」、苔玉でもこの傾向は否めません。赤色花「ミニチュア・ローズ」の苔玉が好んで贈られます。赤色バラの花言葉が「貴方を熱烈に愛します!」に、依るのでしょう。愛の表現に「和洋」変わりないですね。

 米国の首都ワシントンのポトマック河畔で、日本の国花サクラ並木が楽しまれ、方や、東京都内では、アメリカハナミズキが街路樹の中で最も多く植えられている今日です。苔玉の世界でも、和洋混然一体となったコスモポリタンな苔玉園芸を楽しんでいきたいと思います。

ツバキの苔玉 (和物)

ミニバラの苔玉 (洋物)

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.39〜桜の苔玉(その二)

桜の苔玉(その二)

 2月中旬から3月に掛けて、つくば市、仙台市、浦和市、新潟市などでサクラを使った苔玉教室を開催してきました。いずこの会場でも大変な盛り上がりでした。使ったサクラは、一重咲き山桜の系統「富士見桜」でした。日本に住む私たちにとって、桜花は他に代えがたい花なんですネェ。

 咲き誇った染井吉野桜は花筏となって水面を流れて行く・・

一昨年の三月末、他界した大学時代の同期の友を桜花爛漫の京都で見送りました。散り去った友、いずれは残った自分等も、散ることになる、二条城界隈に咲き・散る桜に、切ない思いに駆られたことでした。

 “ 散る桜 残る桜も 散る桜 ”

 染井吉野桜など一重咲きの桜花の後を追い開花するのは八重咲種の桜です。稲作農家では、古来、八重咲種の桜の季節が「田植え」の時期の目安とされてきました。八重咲種にも多くの品種があります。大阪造幣局で有名な「桜の通り抜け」は、カンザン、フゲンゾウ、ショウゲツ、ヨウキヒなどの品種約130種、350余本の八重桜で多くの人々に愛されてきました。新宿御苑の桜も八重桜がその殆どを占めています。吉野桜など一重咲きの「山桜」の系統に対して、八重咲の桜を「里桜」と総称するのが一般的です。

 八重咲種の桜花は、染井吉野等の一重咲き種に比べると、豪華絢爛な開花となります。欧米各国の公園等公共の施設に見られる桜は、八重咲種を多く見かけます。短命な一重咲き桜花を「花見」する私たち日本人と少々趣向が違うようです。

 申し遅れました、「苔玉の桜」も八重桜の季節です。よく使われる品種に「旭山桜」「関山」「楊貴妃」などがあります。好みの豪華絢爛な八重桜を、苔玉に仕立ててみるのも一興だと思います。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。