Posts in Category: 苔玉に寄せて

【苔玉に寄せて】Vol.48~植物との対話

植物との対話

 苔玉を作り始めて35余年、この間に苔玉に仕立てた植物の種類は1200種類にもなりました。

 一株の草や木と対峙して、「さて、この植物、どのように仕立てたものか」と、悩みながら楽しみながら植物たちと対話し続けてきました。日を重ねるにつれ、拘りは深くなり、悩み・楽しみは増すばかりです。

苔玉ラボ

 「この植物は、果たして苔玉にして映えるのだろうか?」に始まって、「成長速度は苔玉に適しているのか?」、「耐寒性、耐陰性はどうなのか?」、「常緑性か、落葉樹なのか?」、「開花期はいつになるのか、そして花色はどんな色なのか?」、「下草を付けるとしたら何がいいのか?」、よって「苔玉として鑑賞する最適の季節はいつになるのか?」そして、肝心な「苔はどんな種類の苔を選択すべきか?」等々の自然条件。
 更に「枝振りはどうしたものか、木表・木裏の見定めに見誤りはないか?」、「枝振りを整えるために、園芸用アルミ線を掛けてもいいのだろうか?」、「新年は松・竹・梅あるいはマンリョウ、ヤブコウジなどの実物植物といった季節感」、等の人為的な条件の確認。

 結果として「多くの人たちにガーデニングの一環として苔玉を楽しんで頂きたい」、更には「モス・アートの域にまで高め、多くの人たちに愛でて頂きたい」。
 そんなこんなの悩み・楽しみを抱きつつ、植物を見つめ対話を重ねて苔玉植物を選択しています。間もなく節分です、魔除けのヒイラギの苔玉です。そして愛の告白のバレンタインデーには深紅のミニチュアローズ、雛祭りには花桃の苔玉を準備します。

 

 私が園芸に興味を抱いたのが若干5歳の頃、敗戦後間もない昭和23~24年、長崎市でのことでした。大学時代には花卉園芸学を専攻し、今日に至っております。それでも、僅かに70余年のガーデニングライフに過ぎません。令和2年の新年に当たり、これからも更に多くの植物たちと相見え、対話を重ねていきたいと思っております。

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.47~苔玉からモス・アートの高みへ/発想は素人、実行は玄人

苔玉からモス・アートの高みへ
発想は素人、実行は玄人

  ここ10有余年、苔玉園芸の人気が高まってまいりました。私も多くの店舗や公共施設での苔玉教室やら苔玉ワークショップを、全国各地で開催することが多くなりました。多くの方々が苔玉を通して園芸に興味をもって頂き、嬉しいことです。

  そうした中で、素人と思しき人たちから無理と思われるいろいろな要望が出てきます。「水を遣らなくても枯れない苔玉はないのだろうか」、「指先に乗る程の小さな苔玉を作りたい」、「季節外れの花を咲かせたい」等々と、無理難題を多々提起されます。

  「そんな無茶な!」とぼやきつつも、神様であるお客様の言い分に耳を傾け、解決してきました。素人さんたちの言う無理を、一つ一つ実行・具現化していくのが玄人と呼ばれる由縁なのかもしれません。プロフェッショナルであるという仮面を被って、素人たちの言い分を馬鹿げたことと耳を貸さないのは、玄人の勝手気ままに過ぎないのかもしれません。素人さんたちの仰る無理難題にこそ園芸生活の更なる発展の要素が多く含まれているのかもしれません。

  「発想素人、実行玄人」なんですネェ。多くの人たちの要望に耳を傾け、人々の生活空間にモス・アートとしての苔玉園芸を、更なる高みに位置付けて行きたいと願っております。

  私は大学で園芸学科に在籍し、花卉園芸学教室に学び、少なからず園芸のプロフェッショナルの端くれの一人だと、自負しておりました(大して勉学に勤しんだ訳ではありません)。大学卒業後、園芸に関わる職務に就いて53余年を経過しました。でも、そんなことよりも大事なことは、消費生活者の仰ることに耳を傾け、更なる進化を目指さなければならないと考える此の頃です。

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.46~モス・アート 苔玉

「モス・アート 苔玉」

  紫シキブの紫色の果実が美しい季節です。また、この木の「枝替わり種」である、白シキブや桃シキブ(ピンクパール)も、園芸店の店先を賑わしています。この木は伸長著しくて苔玉として仕立て楽しむには、少々難があり一歩引いてしまいます。でも、高貴な紫色の果実の持つ魅力、苔玉に仕立て室内に取り込み楽しみたくなります。ムラサキシキブを苔玉に仕立てることにチャレンジしてみました。
 真っすぐ伸長した自然枝状のままでは風景にならない、思い切って園芸用アルミ針金を使って枝を左右に、あるいはスパイラルに曲げて、思いのままの樹形に作ってみました。更に下草として、玉リュウノヒゲを添植してみました。なかなか良い枝ぶりのムラサキシキブの苔玉盆景に仕立て上がりました。

 ケヤキ、コナラ、サルスベリ、ブナ、モミジ類、マツ等も、同様に園芸用アルミ針金を駆使して樹形を整え、苔玉として楽しんできました。自然の形ですくすくと伸びようとするこれらの樹木にしてみれば、人間の勝手で針金を掛け左右・上下にあるいはスパイラルに曲げられるなんて、樹木たちには申し訳ない思いもあります。山中のどこにでも生い茂っている樹木たちを、アートとして楽しむんです、樹木たちも晴れ舞台に立てて喜んでいることでしょう。

 

 幼い頃から60余年の間、多くの園芸植物を取り扱い育ててきました。苔玉に携わって35余年になりますが、苔玉に仕立てた植物は1200余種に及びます。当初は、多くの植物たちを苔玉に仕立て育てることで精いっぱいでした。
 私は園芸植物の専門屋であって、おこがましくもアーティスト等とは自称致しかねます。でも、苔玉もアートとして位置付け、多くの植物たちを私たち人間生活の空間にデビューさせていきたいと思っています。

 

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.45~「苔玉」作りに至った道のり

「苔玉」作りに至った道のり
 私は社会人となって初の仕事は、公園、高速道路、工場、ゴルフ場造成等の公共緑化工事に携わることでした。その折、傷んだ樹木や規格外れの小さな苗木等、廃棄処分の対象となる苗木類が多くあって、捨て去られる植物たちを愛おしく思い、小さな植木鉢などに育てたことでした。日本経済が高度成長を遂げ公共緑化が華やかだった昭和末期の頃は、大量の緑化樹木の生産に携わりました。そこでも多くの規格外れの植物たちを廃棄処分する場面に遭遇、何とか生かしてやりたい思いに駆られたことでした。
 
 平成2年にバブル状態にあった日本経済が弾け、私も大型公共緑化工事から離れる決断に迫られました。そこで、全国の園芸店、ホームセンター等の園芸小売等の経営コンサルに携わることとなりました。そこでもまた再び、ロス化し廃棄されていく植物たちを見るに忍びない思いから、これ等を何とか生かしたい思いでいっぱいでした。
 
 これら廃棄される植物たちを鉢物や盆栽風に仕立てて、再生、楽しんでおりました。その数、次第に増え続け処方に困り、初歩的な「苔玉」に変身させていった次第でした。
 
 以前の本コラム上で、苗木類の根部が乾燥しないように水苔などで保護して荷造して発送したことから改良改革して、「苔玉」という形に仕立てた旨、記載しました。
 
 捨てられ、命を絶たれる植物たちを、再生復活させ天命を全うさせたい、という思いに始まった「苔玉」への道のりでした。以来30有余年、植木類の苗に始まって、花木類、観葉用植物、ラン類、花鉢類、実物花木、山野草、地被植物、多肉植物等々と、多岐に渡る植物を新たに「苔玉」に仕立て、今日までに1200余種の植物を「苔玉」に仕立てるようになりました。
 
 大学在学中に学んだ花の栽培、緑化・造園業で学んだ樹木の仕立て方等々、「苔玉」造りに生かされています。茶庭の設計・造作で学んだ「わび・さび」の心も、他に代えがたい体験であり、「苔玉」造りに少なからず影響をもたらせてくれました。75余年の年齢を重ねた今日、四季折々、更に多くの人たちに愛でて頂ける「苔玉」作りに精進したいと考えています。
 
 
 
 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.44~苔玉空間に思いを馳せて

苔玉空間に思いを馳せて
 多くの種類の植物を苔玉に仕立て、自宅で育て楽しんでおります。
新たな植物を苔玉に仕立て上げる度に、さて、この植物は室内の何処に置いて楽しもうかと、思い悩むことしばしばです。苔玉もさることながら、鉢植え植物を手にする度にこの悩みは尽きませんでした。
 
 居間のテーブルの上に置こうか、下駄箱の上にしようか、それとも応接テーブルに飾ろうかと、あるいはパソコンデスクの一端に置いて楽しもうかなどと、半分楽しみながら、植物の性質も考慮に入れつつ、生活空間の何処に置いたものやらと悩んでおります。
 
 
 
 煎じ詰めると、植物の生育を第一と捉えての置き場所の剪定であるか、はたまた、その植物を選んできた人間の生活を主体として置き場所を決めるのか、この二点に絞られます。
 
 植物の為に主体を置くのならば、日当たりがいいのか、日陰がいいのか、風通しはどうなのか、乾燥度合いは如何かなどの、自然科学による判断を的確に捉えることに落ち着きます。
 
 植物たちを、私の生活の中にどのように位置付けていったらいいのかに思いを致せば、難問山積です。部屋の片隅に空いた空間を埋めるために植物を置くことに始まった室内園芸でした。そうではない、植物たちとともに毎日の生活空間を共有するのだ、なんて高邁な理想を掲げて植物の葉位置に思いを巡らすこともあります。
 
 
 たかが手のひらに乗る小さな苔玉に過ぎません。でも、小さな苔玉の命ある姿を見つめていると、ただ単にそこに隙間があるから置くのだ、であっては共に生きる苔とそこに育つ植物に申し訳ない思いに駆られてきます。
 
 かつて、とある大手建築設計事務所と、室内に植物を導入することの意味は何処にあるのだろうと論議を重ねたことがありました。忙しさに追いまくられてしまい、必要最小限の生活空間で生きていくことの精神上の惨めさに思い至ったことでした。隙間を埋めるだけの観葉植物では、どこか本質を外れているということに気付かされたことでした。敢えて言えば、生き方のセンスを問われているのかもしれません。
 
 小さな苔玉空間をじっと眺めて、植物たちの生い茂る爽やかな空間で毎日の生活をしたいなどと、新たな夢を描いています。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。