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【苔玉に寄せて】Vol.46~モス・アート 苔玉

「モス・アート 苔玉」

  紫シキブの紫色の果実が美しい季節です。また、この木の「枝替わり種」である、白シキブや桃シキブ(ピンクパール)も、園芸店の店先を賑わしています。この木は伸長著しくて苔玉として仕立て楽しむには、少々難があり一歩引いてしまいます。でも、高貴な紫色の果実の持つ魅力、苔玉に仕立て室内に取り込み楽しみたくなります。ムラサキシキブを苔玉に仕立てることにチャレンジしてみました。
 真っすぐ伸長した自然枝状のままでは風景にならない、思い切って園芸用アルミ針金を使って枝を左右に、あるいはスパイラルに曲げて、思いのままの樹形に作ってみました。更に下草として、玉リュウノヒゲを添植してみました。なかなか良い枝ぶりのムラサキシキブの苔玉盆景に仕立て上がりました。

 ケヤキ、コナラ、サルスベリ、ブナ、モミジ類、マツ等も、同様に園芸用アルミ針金を駆使して樹形を整え、苔玉として楽しんできました。自然の形ですくすくと伸びようとするこれらの樹木にしてみれば、人間の勝手で針金を掛け左右・上下にあるいはスパイラルに曲げられるなんて、樹木たちには申し訳ない思いもあります。山中のどこにでも生い茂っている樹木たちを、アートとして楽しむんです、樹木たちも晴れ舞台に立てて喜んでいることでしょう。

 

 幼い頃から60余年の間、多くの園芸植物を取り扱い育ててきました。苔玉に携わって35余年になりますが、苔玉に仕立てた植物は1200余種に及びます。当初は、多くの植物たちを苔玉に仕立て育てることで精いっぱいでした。
 私は園芸植物の専門屋であって、おこがましくもアーティスト等とは自称致しかねます。でも、苔玉もアートとして位置付け、多くの植物たちを私たち人間生活の空間にデビューさせていきたいと思っています。

 

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.45~「苔玉」作りに至った道のり

「苔玉」作りに至った道のり
 私は社会人となって初の仕事は、公園、高速道路、工場、ゴルフ場造成等の公共緑化工事に携わることでした。その折、傷んだ樹木や規格外れの小さな苗木等、廃棄処分の対象となる苗木類が多くあって、捨て去られる植物たちを愛おしく思い、小さな植木鉢などに育てたことでした。日本経済が高度成長を遂げ公共緑化が華やかだった昭和末期の頃は、大量の緑化樹木の生産に携わりました。そこでも多くの規格外れの植物たちを廃棄処分する場面に遭遇、何とか生かしてやりたい思いに駆られたことでした。
 
 平成2年にバブル状態にあった日本経済が弾け、私も大型公共緑化工事から離れる決断に迫られました。そこで、全国の園芸店、ホームセンター等の園芸小売等の経営コンサルに携わることとなりました。そこでもまた再び、ロス化し廃棄されていく植物たちを見るに忍びない思いから、これ等を何とか生かしたい思いでいっぱいでした。
 
 これら廃棄される植物たちを鉢物や盆栽風に仕立てて、再生、楽しんでおりました。その数、次第に増え続け処方に困り、初歩的な「苔玉」に変身させていった次第でした。
 
 以前の本コラム上で、苗木類の根部が乾燥しないように水苔などで保護して荷造して発送したことから改良改革して、「苔玉」という形に仕立てた旨、記載しました。
 
 捨てられ、命を絶たれる植物たちを、再生復活させ天命を全うさせたい、という思いに始まった「苔玉」への道のりでした。以来30有余年、植木類の苗に始まって、花木類、観葉用植物、ラン類、花鉢類、実物花木、山野草、地被植物、多肉植物等々と、多岐に渡る植物を新たに「苔玉」に仕立て、今日までに1200余種の植物を「苔玉」に仕立てるようになりました。
 
 大学在学中に学んだ花の栽培、緑化・造園業で学んだ樹木の仕立て方等々、「苔玉」造りに生かされています。茶庭の設計・造作で学んだ「わび・さび」の心も、他に代えがたい体験であり、「苔玉」造りに少なからず影響をもたらせてくれました。75余年の年齢を重ねた今日、四季折々、更に多くの人たちに愛でて頂ける「苔玉」作りに精進したいと考えています。
 
 
 
 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.44~苔玉空間に思いを馳せて

苔玉空間に思いを馳せて
 多くの種類の植物を苔玉に仕立て、自宅で育て楽しんでおります。
新たな植物を苔玉に仕立て上げる度に、さて、この植物は室内の何処に置いて楽しもうかと、思い悩むことしばしばです。苔玉もさることながら、鉢植え植物を手にする度にこの悩みは尽きませんでした。
 
 居間のテーブルの上に置こうか、下駄箱の上にしようか、それとも応接テーブルに飾ろうかと、あるいはパソコンデスクの一端に置いて楽しもうかなどと、半分楽しみながら、植物の性質も考慮に入れつつ、生活空間の何処に置いたものやらと悩んでおります。
 
 
 
 煎じ詰めると、植物の生育を第一と捉えての置き場所の剪定であるか、はたまた、その植物を選んできた人間の生活を主体として置き場所を決めるのか、この二点に絞られます。
 
 植物の為に主体を置くのならば、日当たりがいいのか、日陰がいいのか、風通しはどうなのか、乾燥度合いは如何かなどの、自然科学による判断を的確に捉えることに落ち着きます。
 
 植物たちを、私の生活の中にどのように位置付けていったらいいのかに思いを致せば、難問山積です。部屋の片隅に空いた空間を埋めるために植物を置くことに始まった室内園芸でした。そうではない、植物たちとともに毎日の生活空間を共有するのだ、なんて高邁な理想を掲げて植物の葉位置に思いを巡らすこともあります。
 
 
 たかが手のひらに乗る小さな苔玉に過ぎません。でも、小さな苔玉の命ある姿を見つめていると、ただ単にそこに隙間があるから置くのだ、であっては共に生きる苔とそこに育つ植物に申し訳ない思いに駆られてきます。
 
 かつて、とある大手建築設計事務所と、室内に植物を導入することの意味は何処にあるのだろうと論議を重ねたことがありました。忙しさに追いまくられてしまい、必要最小限の生活空間で生きていくことの精神上の惨めさに思い至ったことでした。隙間を埋めるだけの観葉植物では、どこか本質を外れているということに気付かされたことでした。敢えて言えば、生き方のセンスを問われているのかもしれません。
 
 小さな苔玉空間をじっと眺めて、植物たちの生い茂る爽やかな空間で毎日の生活をしたいなどと、新たな夢を描いています。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.43~涼を呼ぶ吊り「苔玉」たち

涼を呼ぶ吊り「苔玉」たち
「チリン、チリン」、夏の縁側に吊るされた風鈴の音で、風を知り、「涼しさ」を装う・・・夏の風物です。
 
風鈴と共に「涼しさ」を演出してきた「ノキシノブ」などの吊り仕立て植物(ハンギング・プランツ)もあります。「吊り仕立て苔玉」が、今様のハンギング・プランツとして人気を博しつつあります。アイビー類、オリヅルラン、ポトス、大実ヤブコウジ、テイカカヅラなどの、丸く仕立てた苔玉を吊して楽しまれる方が増えてまいりました。
 

オリヅルラン

大実ヤブコウジ

 
 
マンション等の集合住宅など、中高層建築の今様の住宅環境では、殆どの場合、縁側というよりもベランダ、テラスという形で外の世界に繋がっています。吊り仕立て苔玉、ハンギング・プランツたちは、内外を上手に連結させ、風を呼び涼をもたらしてくれる・・・景観を作ってくれます。
 
因みに、上述した以外に「吊り仕立て苔玉」に向く植物たちを列記してみます。
 
シダ類、サクララン(ホヤ)、トラデスカンチャー、ネオゲリア、ハートカズラ、ハートホヤ、ムラサキオモト、モッコウバラ、ロニセラなどがあります。また、グリーンネックレス、ビアポップ、ミカヅキネックレス等の垂れ下がるタイプの多肉植物も、吊り仕立て苔玉に適します。
 
 

サクララン

 

ハートカヅラ

ビアホップ

 
 
天井から吊るすばかりでなく、ベランダなどの手摺や壁面に上手に吊るし掛けるのもいい方法だと思います。また、室内では棚に掛けたり、天井から透明の釣り糸で吊るすのも一興です。あたかも、天空に浮かぶ「城・ラッピュタ」を想起させられます。
 
暦の上ではすでに立秋を過ぎたとはいえ、まだまだ酷暑の毎日が続きます。心ばかりの「涼」を、吊るした植物たちで呼び起こされますよう。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.42~生活空間で楽しむ苔玉

生活空間で楽しむ苔玉
 苔玉を作り初めて30余年を経過、全国至る所で多くの皆様方と苔玉を作ってまいりました。
 
 作られた苔玉は元気にしているのでしょうか。どのように、楽しんでおられるのでしょうか。
折角苦労なさって作られた苔玉です、3個~5個といろいろな植物を苔玉にして管理なさっておられることでしょう。
 
 大事に育て楽しんでおられる苔玉達です、毎日の生活環境の下で、しっかり楽しんで頂きたいと思います。
 
 3個~5個~10個のお手持ちの苔玉達の楽しみ方をご紹介します。
 
 次図は、ガラステーブルのガラス面に水苔を敷き込み、その上に苔玉数種類を配して、楽しんでいます。
 
 赤い花はアンスリュームで、その傍らの緑色の玉は苔だけを丸く仕立てた苔玉、そして右端にテーブルヤシのミニ苔玉を配しました。ガラス面の水面に浮かぶ水苔の島に、アンスリューム達植物が生い茂っているように見えませんか。
 
 
 
 2例目は、黒松と山モミジをあしらい、日本の山里をイメージしてみました。更に、黒松だけで海辺の景観を思い描いてみました。
 
 
 いくつか揃ってきた苔玉達を使って、室内庭園を楽しんでおります。その他にもいろいろな苔玉の楽しみ方がありますので、順次ご紹介していきたいと思っております。
 
 苔玉園芸が少しづつ、多くの人たちに知れ渡ってきたこの機会に、小さいながらも大きな生活空間を思い描いて頂けたらと、願っております。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。