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【苔玉に寄せて】Vol.73~大怪我して、苔玉たちと共に過ごす

大怪我して、苔玉たちと共に過ごす
 10日前に右腕手首を複雑骨折、3余時間に及ぶ手術治療後、七針皮膚縫合の治療を受けました。過去、数万個も苔玉を作ってきた手先・指先は激痛、動きはままならない状況に喘いでいます。
 
私の部屋に同居する苔玉たちには、管理が行き届ききれない状況で申し訳ない。何とか動く左腕を使って、水管理するだけで精一杯、誠に情けない。でも、一つ一つの苔玉にじっくりと接する中で、今までは見えなかったこと・気付かなかった事々に思いを致しています。
 
苔玉植物たちも太陽光線が大好きです。四方八方出来るだけ満遍なく日当たりよくしてやらないと、一方向にのみ枝葉が伸びてしまい樹形が偏ってしまう。至極当然、分かりきったことだったはずなのに、植物たちに対する細かい配慮に欠け、一つヶ所に置きっ放ししていました。前向き・後ろ向き、右向き・左向きと、日当たりに向けて苔玉たちを移動したりして
、恥ずかしながら園芸家を反省しております。
 
 
 サクラソウ科のリシマキアという植物は極小さな葉を枝先いっぱいに着けて楽しむ植物、ですから、若芽のうちに先端の細い鋏などで枝先の若芽を摘み取って分枝を促すと樹形が良くなる、健全な私の体調ではそんな細かい作業に思いを致すことなどなく、唯々伸ばしっ放しでした。早速、枝葉の先端を丁寧に不器用に左指先で摘まんだ次第です。
 

リシマキア

 
 キーボードに向かって、何とか左指先で精一杯ここまで打ち込むことが出来ました。痛くて今日はここらで精一杯です。「怪我の功名」とでもいいましょうか。激痛走る右腕を三角巾で労わり痛みに耐えながら・・・・・少なからずサボっていた植物達への細かい配慮を思い起こして反省しきりです。植物たちと過ごしながら、「苔玉」の将来の有り様に精一杯思いを致して行かねばと考えております。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.72~年末・年始の苔玉

年末・年始の苔玉
 
 年末・クリスマスから新年にかけて300余個の苔玉を作りました。
シクラメン、ミニチュアローズに始まって、松竹梅としてクロマツ、ミリオンバンブー、ウメの苔玉、更に新年の縁起物として、マンリョウ、センリョウ、ヒャクリョウ、ジュウリョウ、イチリョウの苔玉等々を作りました。
 
 
 赤、白、紫、ピンクのシクラメンの苔玉は、寒い年の瀬・クリスマスの生活空間を暖かく彩ってくれます。花の少ないこの時期に赤、白、ピンク、黄、オレンジ等のミニチュアローズの苔玉は、年末の贈り物等に、若い人たちに人気があります。
 
 クロマツ、ミリオンバンブー(万年竹)、ウメの苔玉は、年始を寿ぐ「松竹梅」として、喜ばれています。松竹梅に彩りを添えるため、赤実のヤブコウジ(十両)や黄花の福寿草を下草として添植したりもしました。
 
 万両、千両、百両、十両、一両は金運をもたらして欲しいという願いを込めています。これらの植物はそれぞれに・・・
マンリョウ(サクラソウ科)、センリョウ(センリョウ科)、ヒャクリョウ(サクラソウ科)、ジュウリョウ(サクラソウ科)、イチリョウ(アカネ科)の植物です。
また、ヒャクリョウは正式の和名「カラタチバナ」、ジュウリョウは「ヤブコオジ」、イチリョウは「アリドオシ」となります。
 

十両(ヤブコオジ)の苔玉

 
 

一両(アリドオシ)の苔玉

 
アリドオシは鋭い棘があることから、「蟻」を突き通すということから、「蟻通し」と名付けられました。「蟻通し」を「有通し」と当て字すると、「万両、千両、百両、十両、有通し」、すなわちお金が「有通し」で、お金に不自由しないという次第です。
 
 この時期、「ミカン」に代表される柑橘類は黄色の果実をたわわに実らせます。小指の先程の小さな黄金の果実を着ける柑橘類に「キンズ(金豆)」と命名して、楽しみます。
 
 
豊かな四季を生きてきた私たちの先人たちは、折々の植物たちを生活の中に上手に取り入れてきました。新年を迎え、四季折々の植物達を苔玉に仕立てて、今年も多くの人たちの眼に触れて頂きたいと思い描いております。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.71~苔玉を作って35余年

苔玉を作って35余年
 過去35余年の間、苔玉作りを続けてきました。この間、概ね1000余種の植物を苔玉に仕立ててきました。素晴らしいと自己満悦したり、また失敗したことも多々ありました。
 
 一株の植物をじっと見つめ、さて、如何様に仕立てたものかと思いあぐねること、しばしばです。
 
 まずその植物の木表・木裏を見定めることに始まります。次いでその植物単体の苔玉に仕立てるか、あるいは下草をあしらったり、2種類以上の植物の寄せ植え苔玉にするか等、決めていきます。更に植物以外の添景物を添えることで自然の風景を演出したり、年中行事時節柄などに合わせての添景物を配置したりして四季折々の苔玉景観を作ったり等々しています。
 

ジャスミンの吊り苔玉

 
 皿上に置いて楽しむ通常のタイプの「置玉」にするか、蔓性植物であれば「吊玉」にするか、「吊玉」であれば2段・3段仕立ての大小の「連玉」にするかなど、決めます。また、フウラン等の和ラン類の場合、茶筒状の円柱苔玉に仕立ててフウランの特性を楽しむように仕立てます。「苔柱」と命名しております。また「ミニ玉」と称して、5~7㎝程度の極々小さな「置玉」や「吊玉」も、多くの方々に喜ばれています。
 

イチリョウの苔玉(アリドオシの苔玉)

 
 更にそれぞれの植物は微妙に植え替えの季節が異なります。植え替え時節に微妙に対応しながら、また、年中行事という人的条件にも答えていかなければなりません。今まさに年末・年始に向かってクリスマスの植物、年始の植物「松・竹・梅」と温故知新学ぶこと多い時節です。
 いずれの場合でも、苔玉に仕立てる植物の性質、生育環境等を十分に知らなければ、以降の順調な生育は期待できません。苔玉本体の「苔」についても当然のことですが、もともっと調査、試験の必要があると考えております。
 
 今日もまた、白花の美しい常緑性のクレマチス「アンスンエンシス」を見つめながら「置玉」にしたものか、「吊玉」にしたものか、また園芸用アルミ線を使って枝振りを曲げ矯正・整枝したものかと考えあぐねている真っ最中です。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.70~コロナ明け?! 植物と一緒に健康で!

コロナ明け?! 植物と一緒に健康で!

 晩秋の園芸シーズンです。長かったコロナ戦下で必死の思いで命ながら得てきた苔玉植物たち、日照不足で軟弱にモヤシ伸びしてしまったモノ、水切れして枯死寸前のモノ、完全に枯れてしまったモノ等々、無残な状態にあります。忘れられていた園芸植物達にも少しばかり目を向け、何らかの手入れ・管理を施してやらねばと、反省・行動しております。

 施肥すると苔が枯死してしまうという理由で全く施肥しなかったこと、更に小さな「苔球地上」で生きている植物達です、肥料切れ傾向に陥るのは当然です。肥料を与える等して、何とか健康な植物体に戻してやりたいと思うのは、園芸を愛する人たちに等しくあるはずです。
肥料切れして息絶え絶えの観葉植物類、樹木類の苔玉については、葉面から直接を吸収させる「葉面散布」を行います。散布とは言え噴霧器などで吹き掛けては、苔面にも肥料が掛かってしまい苔を痛め、遂には苔を枯らしてしまいます。ツバキ、サザンカやキンズ等、比較的葉数の少ないものでしたら2000~3000倍程に希釈したハイポネックス等の液肥を、葉面に筆で塗布しています。また、葉数多く、葉面積の広い植物苔玉の場合は、苔玉を天地逆さに持って、2000~3000倍程の希釈ハイポネックス等の液肥に苔部分が液肥に触れないように注意しながら枝葉部分のみを浸し、浸した液肥が完全に滴り落ちるまで苔玉を逆さ吊りして水溶液肥をきったのち本来の姿に戻す、という方法をとっています。

 晩秋から年末にかけて開花を楽しむシクラメン、各種ラン類等の苔玉は、多くの人たちに楽しまれています。これらの花物では「花」を水溶液肥に直接浸しては、花を傷めてしまいます。この場合は、以前にもお話しました。苔玉の底根部分に注射器やスポイト等でほんの少しずつ、「苔」に希釈ハイポネックス等の液肥が触れないように注入する、という方法をとって下さい。

 コロナウィルスとの戦いは、一段落したようです。でも、海外では更なる流行の様子、アフタ・コロナとは言い難く油断できません。待ち遠しかったコロナ明けウィズ・コロナ下、私たちの園芸も新たな賑わいを呈しつつあります。植物たちと一緒に、晩秋、年末、新年そして来春へと、健康な日々でありたいと願います

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.69~ウィズ・コロナ下の「苔玉」園芸

ウィズ・コロナ下の「苔玉」園芸

 コロナ第5波がようやく収まったようです。長かった我慢の時は解禁され、苔玉教室も徐々に開講傾向にあり、ほっとしています。この間、植物管理もままならず傷んでしまった「苔玉」も多々あることでしょう。室内に置きっ放しで、苔部分が茶褐色~黒変してしまったものや、枯死してしまった苔玉等々、園芸植物たちも見直しに迫られている場面が想像されます。

 余り痛みが目立たない苔玉でしたら、枯葉等を切除・製枝して古い苔を剝がしとり新しい苔に貼り替え、新たな成長・出発を図ってみるのも一つの方法です。苔玉植物が傷んでしまっているようでしたら、苔玉部分をばらして鉢植えに戻すなどして植物の回復を図るべきです。植物達には逞しい生命力・復元力があって、手をかければ元気に回復・復元していきます。回復していく姿・過程を肌で感じて頂くのも園芸植物栽培、鑑賞の醍醐味だと思います。

苔が黒ずんでしまった苔玉

 日を追って元気に回復・復元していく植物達と肌を通して接するなかで、植物管理の本質を知らされ、以降の苔玉栽培・管理の有り様を知り、植物栽培・管理の楽しみが一段と増してくるはずです。私は長崎で7歳から祖母に教わり植物栽培に触れ、70有余年を過ぎましたが、萌芽の喜び、植物枯死の忌々しさを重ねて今日があります。

苔を巻き直して元気になった苔玉

 もちろん、完全に枯死してしまった植物に回復・復元を図ろうとする等、無理な話です。根っこから抜き取って捨てる、思い切りが必要です。枯れた園芸植物を身辺に置くなど、園芸を愛好する以前でしかありません。

 まだまだ、コロナ禍は完全に去ったとはいえないようです。在宅生活時間の長い中で、苔玉植物たちへの思いも変化させていくことかなぁ等々、思いを巡らせております。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。