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【苔玉に寄せて】Vol.68~コロナ禍、苔玉たちを見直す

コロナ禍、苔玉たちを見直す

 なかなか収束の兆しのみえないコロナ禍、私たちの生活は前向きに捉え辛い日々が続いています。「苔玉教室」などの人の集まる活動も抑制の止むなし、全国で展開している苔玉作りも少しばかり停滞しております。

 時間的ゆとりのあるなかで、自室に育てる「苔玉」たちをじっくり眺めることが多くなった園芸愛好家の一人、私です。苔玉上部の植物が大きく育ち過ぎたもの、肥料切れして葉面が黄色変化しつつある苔玉、管理が行き届かない片隅で日光不足などの原因で苔が茶色に枯変色したもの、苔部分に雑草が元気に伸びたもの、ものによっては片隅で水切れしてカラカラになってしまったもの、等々改めて「苔玉」たちを見直している今日此の頃です。

 つい7月末までは次々と赤色花を咲かせて楽しんでいた「アンスリューム」でしたが、やたらと背丈が伸びた苔玉になっていました。さて何としたものか? 思い切って「アンスリューム」の苔玉をばらし、7株に小分けしました。7株に分けたそれぞれの株を4号(12㎝)ポット1鉢、3号(9㎝)ポット1鉢、2号(6㎝)ポット5鉢に株分け植え付けしました。これら7鉢のアンスリュームをいずれ、7個の苔玉に仕立て直すつもりです。

 肥料切れした苔玉たちには、施肥が必要です。でも苔部分に肥料が掛かると折角の苔が枯れてしまいます。私は、ハイポネックス等の液肥を3000倍程度に希釈し、筆を使って葉面に塗布・施肥しています。いわゆる「肥料の葉面散布」です。3日もすると肥効が表れ、緑の濃さを増した植物に変化します。

 吊苔玉に仕立てたベンケイソウ科の多肉植物「ビアホップ」が猛暑下で15㎝程度に伸び垂れ下がっていました。余りに伸び過ぎて取り扱いに不便を感じておりましたので、垂れ下がった茎葉部分を切り取り、2号(6㎝)ポットに挿し木しました。いずれ多肉植物「ビアホップ」の2代目が育って来るはずです。

 同様の状態にあるのがキク科の多肉植物「ミカヅキネックレス」の吊苔玉です。アイビー類、オリヅルラン、ポトス、ヘンリーヅタ等の吊苔玉たちも同様です。

 コロナウィルスは次々と変異を重ねて、私たちの毎日の生活にまだまだ影響を及ぼし続ける気配です。コロナ蔓延防止ということで在宅生活の多くなる中、苔玉を始め過去楽しんでこられた園芸植物を見直す機会です、再度植物たちに親しまれたらと思います。コロナ明けして、また、多くの愛好の皆様方と園芸を語り合える日を楽しみにしております。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.67~庭先の小さな木の苗を苔玉に!

庭先の小さな木の苗を苔玉に!

 暑中・コロナ禍のダブルパンチを食らった日々、でも、庭先では植物たちが元気に伸長を続けています。そんな中で、10㎝程度に成長したヤマモミジ、コナラ、ケヤキ、ツバキなどの自然実生の小さな苗が、元気に育っています。これらの小苗は、将来の苔玉の材料として有望です。

 暑い中で小苗を移植するのは「不適期」を承知の上で、これらの小苗たちのポット(鉢)への移植をお勧めします。最も植物たちの目立つ今だからこそ、ヤル気も起ります。落葉してしまうと、ヤマモミジ、ケヤキがあったことを忘れてしまい、雑草として処分してしまうのが帰結です。

 直射日光を避けて、水管理をしっかりやって頂ければ、十分な地温が保証される夏です、一週間程度で新根の発生・成長をみることができます。近い将来の「苔玉」材料の誕生です。

 小苗たちを苔玉に仕立てるためには、小さなポット(鉢)に移植して、多くの根の発生を促す必要があります。移植するポットは直径6㎝(2号鉢)程度が最適で、大きくても7.5㎝(2.5号鉢)~9㎝(3号鉢)迄の小さなポットを準備して下さい。大きなポットに小苗を植え付けると、根部はひたすら外へ向かって伸長し、ポットの内壁部にのみ根群が成長発達してしまいます。結果として、大きな土塊の割には根群の極めて少ない、苔玉に仕立て辛い・・・苗木となってしまいます。

 植物は土壌に根を伸ばして成長し、根を張った箇所から移動することはできません。出来るだけ四方八方、外へ向けて根を伸ばし、あらゆるリスクを分散させようとする本能が働きます。ポットの内壁いっぱいに根を伸ばそうとするのは、当然の本能です。苔玉を作るには、根群は出来るだけコンパクトな状態に収まった植物であって欲しい、小さなポット(鉢)植えにする由縁です。

 更に茎葉と同様に、根群も比較的南側へ向かって発達します。時折、東西南北、向きを変えると、四方に均等に茎葉を伸ばします。

 3週間も経過すると丈夫な根群が育ちますので、極薄い液肥を与えると、立派な苔玉材料となります。ただし、気温の低下する10月中~下旬には肥料が切れるようにして下さい。

 庭先に息づく小さな植物たちを「苔玉」に仕立て上げることで、他では得られない植物たちへの思いが沸いてまいります。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.66~広い地球上の植物たちとの出会い!

広い地球上の植たちとの出会い!

 ベランダには今、緑いっぱいの「ナナカマド」の苔玉をバックに、「ブーゲンビリア」の苔玉が白色花、今を盛りと満開中です。「ナナカマド」は北海道・旭川市の美しい街路樹に代表される比較的寒冷地に育つ植物です。他方「ブーゲンビリア」は、沖縄やトカラ列島など亜熱帯地方で、生垣などに植え付けられ元気に育つ植物です。寒冷地・北海道から亜熱帯の沖縄までの植物たちを同時に観賞できる、なんとも嬉しくなります。

 沖縄を越して更に南・赤道の向こう側、ニュージーランドを原産とする「ソフォラ」も緑濃く、「メルヘンの木」の愛称の世界を彩っています。その傍らには、秋田県白神山地を深い緑で覆う「ブナ」の苔玉も元気です。

メルヘンの木の苔玉

 梅雨期の6月から7月上旬に掛けて、緑濃い苔玉の台地は、北から赤道の向こう側・南を原産地とする植物まで、広く・奥深い世界を演出しています。古来、北の園芸愛好家たちは南の植物に憧れ、また、その逆もありました。狭い苔玉の台地に、広い地球上の植物たちを目の当たりにして楽しむことができる、初夏の園芸を満喫しています。

 更に、歴史上・地球規模での大航海時代には、東西の動きに新たな植物への期待がいっぱいでした。日本原産の「アジサイ」がシーボルトによって欧州にもたらされ、欧州で品種改良され「ハイドランジャー(西洋アジサイ)」として、里帰りしました。我が国古来の「ツツジ」たちは、主にベルギーで品種改良され「アザレア」と銘打って、園芸店頭に並んでいます。

 植物たちを「苔玉」に仕立てて楽しむようになって、40余年になります。この間、概ね1000余種の植物たちを「苔玉」の台地に仕立ててきました。緑豊かな初夏・梅雨期に苔玉たちを管理して、改めて東西・南北に原産する多種の植物たちに出会えたことに、感謝・・・です。これからも更に新たな植物たちと出会いたいと、心密かに目論んでいるこの頃です。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.65~野草を苔玉で楽しむ

野草を苔玉で楽しむ

 身近な足元を見渡すと、見過ごされてしまう野草がたくさんあります。春一番に目立ったのはツクシンボウでした。今は、白花が咲き乱れているドクダミソウ、紫色花のアザミ、小判に似た形の小穂をつけたコバンソウ等が目立ちます。間もなくピンクの花を咲かせるネジバナ、赤い果実を着けるヘビイチゴ、そして秋には赤い花をつけるワレモコウ等、魅力ある野草がいっぱいあります。

庭先のドクダミソウ

 野草たちの開花を見る度に、開花前にポットに植えておけばよかったのになぁ、と思う、毎度のことです。魅力的な野草たちを、若芽が吹き出す前にポットに植えておけば、小振りの草丈で楽しむことができます。魅力的な野草たちの開花の度に、来年はポットに仕立てて苔玉に仕立てようと、幾度思い描いたことか。ついつい市販の園芸花物に惑わされてしまい、また、一年を棒に振ってしまう、可憐な野草たちに申し訳なく思っております。

庭先のネジバナ

 こうした野草たちを苔玉に仕立てるのは楽しいことです。ツクシンボウの苔玉を作ったことがありますが、都内で大変な人気を博したことでした。また、ピンクのネジバナの苔玉も多くの人の目を奪いました。秋には、赤い実を着けたヘビイチゴ、ワレモコウの赤い花の苔玉が人目を引きました。

 山野で開花した植物、果実を着けた状態の植物を移植・苔玉に仕立てようとしても、ほとんどは萎れてしまい、挙句には枯れてしまいます。晩秋から春先にかけて、萌芽する以前に、根部や地下茎などを堀上・採取して小振りのポットに植え付け、小さくてもしっかりした野草の鉢物を作って、萌芽期に苔玉などに仕立てることが野草の苔玉を楽しむコツです。

 庭先、山野などに楚々と咲く花たちへの思いを、苔玉に仕立てたい、今年こそ根部や地下茎を堀上・採取して、ポットでしっかりした根を育成して、開花期には素敵な苔玉にしたいと、思い描いてはいますが?さて、行動が伴いますことやら・・・

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.64~新緑の苔玉

新緑の苔玉

 “ 眼に青葉 山ほととぎす ・・・ ”

 私の部屋に同居する苔玉たちも、青葉の初夏で賑わっています。ヤマモミジの嫋やかな黄緑の若葉、ノムラモミジの赤色の新芽、4月中旬に緑摘作業を施していたクロマツの力強い新芽立等々、その姿を見ると嬉しくなってきます。新緑の広い葉の中に、たくさんの蕾を着けたヤマアジサイやアマチャ等、間もなくの開花が、次なる楽しみをかきたててくれます。

 

 

 ここはまことに小さな苔のミニ大地、苔玉空間です。苔たちも新緑の候には眩いばかりの緑の大地を呈しています。目を凝らして机上の苔玉と対峙すると、深緑のビロード状に拡がった苔の丘に、鮮やかな新緑の植物たち、苔玉の世界に引き込まれてしまいます。
私たちと共に、新緑を愛でる動物たちも存在します。身近なところでは、ちょっと油断すると、新芽いっぱいに群れて植物の新芽を食害する「アブラムシ」、よくもこんなに増えたものよと、恐れ入ってしまいます。御多分に漏れず、私のボケ、ツルウメモドキ等の苔玉たちもアブラムシの餌食になっています。ほとんどの場合、オルトラン水和剤などの殺虫剤散布で駆除するしかありません。

その一方で、昨秋からシタンジュに産み付けられていたカマキリの卵が孵化して、ベランダいっぱいにカマキリの幼虫群落様相を呈し、彼らがアブラムシを捕食しています。

ほんの数匹のアブラムシを見つけた場合には、丁寧にピンセットで掴み採って、飼っているメダカの水槽に浮かべます。すると、メダカたちが寄り集まって喜んで食べてくれます。メダカにとっては、大変美味しい天然食材となっているようです。当然のことですが、殺虫剤のかかったアブラムシをメダカの食材として利用することはできません。

新たな生命の息吹く新緑の苔玉空間は、まことに小さな世界ながらも、良きに付け悪しきにつけ、命の循環を見せてくれます。苔、植物たち、そして昆虫たち、メダカの学校、小さく狭いなかで生命の有り様を楽しみ、また、教えられています。

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。