Posts in Category: 苔玉に寄せて

【苔玉に寄せて】Vol.75~春だ!苔玉だ!

春だ!苔玉だ!

 桜花爛漫、心楽しい季節です。私の部屋ではエピデンドラムやデンドロビューム等の洋ラン類の苔玉たちや、ブーゲンビレアの花々が春を演出しています。小さな苔球体の中で冬籠り・必死で生き抜いてきた苔玉植物たちです、待望の春の訪れに、芽吹きし、開花と、大忙しの様子です。

 春の陽射しを浴び新たな生命力に満ちた植物たちに刺激されて、私も心浮き立って「新しい苔玉を作ろう」の意欲に駆られます。春一番、骨折治療中に初チャレンジした苔玉作りは、年末年始に作りそびれていた余剰クロマツを苔玉に仕立てることに始まりました。比較的暖かい場所で管理してきたクロマツ苗は、すでに新芽が膨らみ始め、「みどり摘み」作業の必要に迫られるほどに伸長していました。更に、コロナ騒ぎ・私の骨折傷害等の故に閉講していた苔玉教室も30余名の方々のご参加の下、再開にぎつけることができました。サクラ(雲竜富士桜)の苔玉作りにチャレンジして頂き、一足早い花見を楽しんで頂いたことでした。

 右腕骨折傷害の完全回復を期してリハビリテーションを兼ねて、少しずつ更なる苔玉作りに精進して行こうと考えている此の頃です。骨折治療する中で、こと、苔玉作り・苔玉管理等々についても教えられ、考えさせられること多々ありました。右腕不自由の中、一つ一つの苔玉植物を見つめざるを得ず、更なる思いやり・手入れが必要なことを気付かされました。普段は見過ごしてしまっていた小さな枯葉・枯れ枝を丹念に剪除することに始まって、養水分施用管理まで。今まさに植物たちの萌芽・開花の「春」です、更なる愛情込めた苔玉で、多くの人たちに植物の楽しみを知って頂きたいと思い描いております。

 
 
 
 

エピデンドラムの苔玉

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.74~株の「更新」、若返り

株の「更新」、若返り
 3月半ばとなり、私の狭い室内に同居する100余個の苔玉たちは、それぞれに葉芽・花芽を覗かせてきました。苔玉たちに潅水する程度のことしか出来ない中で、1カ月半前に骨折した右手首に不自由を託ちながら過ごしています。
 
根の張りつめた、奔放に伸長しきった、アイビー、オリヅルラン、ポトス等をみていると、分株・植え替えしなければと思いつつも、不自由な骨折右腕故に、「もう少し待って!」と言うしかありません。私が五体満足時には、「よく伸長して元気そうでなにより」、程度にしか認識しなかったことでした。手先不自由な生活の中で、一つ一つの植物たちをじっくり見つめることで、新たな思いに馳っております。
 
 
 すくすくと息吹く植物たちは、私たちに他では得られない「癒し」を齎してくれます。根詰まり、植物体の老化等の劣悪な栽培環境下では、植物達の健常な生命プロセスを楽しむこと、期待出来ません。苔玉、鉢植え等の植物栽培に当たっては、根詰まり、植物体の老化等は避けなければ、「健常」な園芸植物の鑑賞は楽しめません。「根詰まり」状態を避けるには、分株、植え替え作業は必要、避ける事はできません。
 
また、植物の老化を防ぐには、「挿し木」「分株」などによって、植物体の「更新・若返り」作業が必要不可欠です。例えば多くの皆様ご存知の、赤や白色花のゼラニュームは、2~3年に一度「挿し木」して新株に更新し、古株は徐々に土に反していくことで、若さを保ち、毎年赤いいい花を観賞することが出来ます。我が国で栽培鑑賞されてきた重陽の節句の花、「菊」は、毎年挿し木によって新株を植え付け、株の「更新」を図ることで、古い時代より今日まで連綿と楽しみ続けられていることと、同様の取り扱いということです。
 
私たちの苔玉植物たちにも、世代の交代を図る、「更新」という発想を忘れないように・・・・・そして、植物たちの若い元気な萌芽を促し、いつまでも元気な苔玉たちの成長プロセスに「癒され」て行きたいと思います。
 
「怪我の功名」いや「禍を転じて・・・・・・」、そんな骨折の此の頃です。
 
 
 
 

室内で花を咲かせたミニバラの苔玉

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.73~大怪我して、苔玉たちと共に過ごす

大怪我して、苔玉たちと共に過ごす
 10日前に右腕手首を複雑骨折、3余時間に及ぶ手術治療後、七針皮膚縫合の治療を受けました。過去、数万個も苔玉を作ってきた手先・指先は激痛、動きはままならない状況に喘いでいます。
 
私の部屋に同居する苔玉たちには、管理が行き届ききれない状況で申し訳ない。何とか動く左腕を使って、水管理するだけで精一杯、誠に情けない。でも、一つ一つの苔玉にじっくりと接する中で、今までは見えなかったこと・気付かなかった事々に思いを致しています。
 
苔玉植物たちも太陽光線が大好きです。四方八方出来るだけ満遍なく日当たりよくしてやらないと、一方向にのみ枝葉が伸びてしまい樹形が偏ってしまう。至極当然、分かりきったことだったはずなのに、植物たちに対する細かい配慮に欠け、一つヶ所に置きっ放ししていました。前向き・後ろ向き、右向き・左向きと、日当たりに向けて苔玉たちを移動したりして
、恥ずかしながら園芸家を反省しております。
 
 
 サクラソウ科のリシマキアという植物は極小さな葉を枝先いっぱいに着けて楽しむ植物、ですから、若芽のうちに先端の細い鋏などで枝先の若芽を摘み取って分枝を促すと樹形が良くなる、健全な私の体調ではそんな細かい作業に思いを致すことなどなく、唯々伸ばしっ放しでした。早速、枝葉の先端を丁寧に不器用に左指先で摘まんだ次第です。
 

リシマキア

 
 キーボードに向かって、何とか左指先で精一杯ここまで打ち込むことが出来ました。痛くて今日はここらで精一杯です。「怪我の功名」とでもいいましょうか。激痛走る右腕を三角巾で労わり痛みに耐えながら・・・・・少なからずサボっていた植物達への細かい配慮を思い起こして反省しきりです。植物たちと過ごしながら、「苔玉」の将来の有り様に精一杯思いを致して行かねばと考えております。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.72~年末・年始の苔玉

年末・年始の苔玉
 
 年末・クリスマスから新年にかけて300余個の苔玉を作りました。
シクラメン、ミニチュアローズに始まって、松竹梅としてクロマツ、ミリオンバンブー、ウメの苔玉、更に新年の縁起物として、マンリョウ、センリョウ、ヒャクリョウ、ジュウリョウ、イチリョウの苔玉等々を作りました。
 
 
 赤、白、紫、ピンクのシクラメンの苔玉は、寒い年の瀬・クリスマスの生活空間を暖かく彩ってくれます。花の少ないこの時期に赤、白、ピンク、黄、オレンジ等のミニチュアローズの苔玉は、年末の贈り物等に、若い人たちに人気があります。
 
 クロマツ、ミリオンバンブー(万年竹)、ウメの苔玉は、年始を寿ぐ「松竹梅」として、喜ばれています。松竹梅に彩りを添えるため、赤実のヤブコウジ(十両)や黄花の福寿草を下草として添植したりもしました。
 
 万両、千両、百両、十両、一両は金運をもたらして欲しいという願いを込めています。これらの植物はそれぞれに・・・
マンリョウ(サクラソウ科)、センリョウ(センリョウ科)、ヒャクリョウ(サクラソウ科)、ジュウリョウ(サクラソウ科)、イチリョウ(アカネ科)の植物です。
また、ヒャクリョウは正式の和名「カラタチバナ」、ジュウリョウは「ヤブコオジ」、イチリョウは「アリドオシ」となります。
 

十両(ヤブコオジ)の苔玉

 
 

一両(アリドオシ)の苔玉

 
アリドオシは鋭い棘があることから、「蟻」を突き通すということから、「蟻通し」と名付けられました。「蟻通し」を「有通し」と当て字すると、「万両、千両、百両、十両、有通し」、すなわちお金が「有通し」で、お金に不自由しないという次第です。
 
 この時期、「ミカン」に代表される柑橘類は黄色の果実をたわわに実らせます。小指の先程の小さな黄金の果実を着ける柑橘類に「キンズ(金豆)」と命名して、楽しみます。
 
 
豊かな四季を生きてきた私たちの先人たちは、折々の植物たちを生活の中に上手に取り入れてきました。新年を迎え、四季折々の植物達を苔玉に仕立てて、今年も多くの人たちの眼に触れて頂きたいと思い描いております。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

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【苔玉に寄せて】Vol.71~苔玉を作って35余年

苔玉を作って35余年
 過去35余年の間、苔玉作りを続けてきました。この間、概ね1000余種の植物を苔玉に仕立ててきました。素晴らしいと自己満悦したり、また失敗したことも多々ありました。
 
 一株の植物をじっと見つめ、さて、如何様に仕立てたものかと思いあぐねること、しばしばです。
 
 まずその植物の木表・木裏を見定めることに始まります。次いでその植物単体の苔玉に仕立てるか、あるいは下草をあしらったり、2種類以上の植物の寄せ植え苔玉にするか等、決めていきます。更に植物以外の添景物を添えることで自然の風景を演出したり、年中行事時節柄などに合わせての添景物を配置したりして四季折々の苔玉景観を作ったり等々しています。
 

ジャスミンの吊り苔玉

 
 皿上に置いて楽しむ通常のタイプの「置玉」にするか、蔓性植物であれば「吊玉」にするか、「吊玉」であれば2段・3段仕立ての大小の「連玉」にするかなど、決めます。また、フウラン等の和ラン類の場合、茶筒状の円柱苔玉に仕立ててフウランの特性を楽しむように仕立てます。「苔柱」と命名しております。また「ミニ玉」と称して、5~7㎝程度の極々小さな「置玉」や「吊玉」も、多くの方々に喜ばれています。
 

イチリョウの苔玉(アリドオシの苔玉)

 
 更にそれぞれの植物は微妙に植え替えの季節が異なります。植え替え時節に微妙に対応しながら、また、年中行事という人的条件にも答えていかなければなりません。今まさに年末・年始に向かってクリスマスの植物、年始の植物「松・竹・梅」と温故知新学ぶこと多い時節です。
 いずれの場合でも、苔玉に仕立てる植物の性質、生育環境等を十分に知らなければ、以降の順調な生育は期待できません。苔玉本体の「苔」についても当然のことですが、もともっと調査、試験の必要があると考えております。
 
 今日もまた、白花の美しい常緑性のクレマチス「アンスンエンシス」を見つめながら「置玉」にしたものか、「吊玉」にしたものか、また園芸用アルミ線を使って枝振りを曲げ矯正・整枝したものかと考えあぐねている真っ最中です。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。