苔玉を室内で鑑賞するには、いろいろな方法がある。最も一般的な方法は、平たい皿状の容器にのせて鑑賞する。でも、写真に示すオリズルランのように枝葉の垂れ下がる植物を鑑賞するには平たい皿にのせたのでは、面白みがない。この場合、ハンギング(吊苔玉)に加工したり、写真のように背丈の高い台の上にのせて鑑賞する。写真は、真鍮製の骨董花瓶の上に皿を載せて、そこから枝葉を垂れ下げて鑑賞している。
次に示す写真は、生花用の水盤を利用して、3個の苔玉を楽しんでいる。水盤の底部分に水分をたっぷり含ませたハイドロカルチャー用のカルチャー・ボールを敷きこみ、その上に苔玉を配置している。この方法だと、一つの容器で数種類の植物を楽しめる。写真ではガジュマルを「主」として、シルクジャスミンを「客」、テーブルヤシを「控」の3種類の植物で、景観を作ってみた。
手元に色々な苔玉を大小様々持って、春夏秋冬、四季折々の変化を、好みに応じて楽しむことができる。春は萌芽・開花、夏は涼しげな緑、秋は果実、冬は枯淡の美と、好みの植物で楽しむことができる。生花四季折々をイメージする、ほんの身近なミニ庭園を思い描く等、自由にレイアウト、楽しむことができる。

写真では水盤底にハイドロ・ボールを敷きこんだが、オーキッド・バークを敷きこんで山林の状況を楽しんだり、また、お正月バージョンとして白川砂を敷き込み、濃緑の苔と白い砂床を楽しむのもいいものである。
夏のバージョンとして、水盤いっぱいに水を張り、水面よりほんの少し高めの輪切り木炭を3個程度水面に立て、その上に苔玉をのせる・・・広い水面に苔玉の島が描ける。水面に浮かぶ大・中・小の緑の島々・・・浅い水底にはメダカ等を泳がせ、更に涼しく、夏を楽しむことができる。
水中に立つ輪切り木炭片は、水の浄化を促し、更に毛管現象で苔玉に適度の水分を補給してくれる。夏の乾燥から、苔玉を守ってくれる、一石二鳥の夏の苔玉鑑賞の方法になる。
数年前のことだが、苔玉を使い、これ等の方法を駆使して、ほんの一坪のミニ庭園を京都市で展示したことがある。デパートの一角での庭のイヴェントに苔玉が異彩を放ってくれた。
小さな皿の上の1個の苔玉に始まって、室内やベランダ園芸等の一つの方法として、また一寸した家庭やオフィスでのイヴェント空間として、苔玉を楽しく発展させて頂ければと思い描いております。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
苔玉を通して列島あちこちで多くの方々とお会いします。
「苔を見ていると心から癒されますネェ」と、語り掛けてもらい、嬉しくなってしまうこと、しばしばです。毎日何らかの形で苔に触れている私も、日々異なる感慨を苔に抱き癒されていること、正直なところです。
園芸専門店やホームセンターの園芸売り場を覗くと、植物を育てるための容器には、陶製、ガラス製、木製、石製、プラスチック製など、多くのものが用意されています。でも、植物の根元をみずみずしく緑なす苔で覆い包んだだけの「苔玉」に惹かれ心癒されている、こうしてパソコンデスクに向かっている時間も、傍らのケヤキの苔玉にほっと安堵しております。根元をしっかりと植え付け容器に覆い包み込まれ荷崩れの心配のない鉢植えの植物に比べると、まことに簡単に根元が荷崩れしてしまいそうな頼りがいのない形状の苔玉に癒されている、何とも矛盾する心の有様です。
戦後間もない幼い4~5歳の頃、上海から引き揚げ長崎・オランダ坂の傍で育った私でした。食糧難故に庭先にイモ、野菜類の育てられていた貧乏生活の中で、溢れんばかりの華やかな花々に彩られた庭先を夢見た幼年期でした。6才になった頃に赤いチューリップの球根を1個買ってもらい、開花を楽しみに母と植え付けしたこと、忘れられません。また、僅かばかりのお小遣いを貯めて1本のバラの苗を購入し、黄色花を咲かせた喜びは忘れられない思い出です。
曲がりなりにも平和な今日、チューリップの100個や200個植え付けること、バラの10本や20本開花させることなど、意図も簡単なことだと思います。でも、パソコンの前で、細やかに小さなケヤキの苔玉に癒されています。決して、幼き頃から70余年を過ぎてしまった老人故に、チューリップやバラを諦めた訳ではありません。

私たちの生活環境に、陶製やプラスチック製の園芸容器が有り余る程に行渡っている、だから細やかなケヤキの苔玉一つに心和んでいるようです。そして庭先には、ナス、キウリ、トマト、ピーマンなどの野菜やら、ウメ、カキ、イチジク、ブドウなどの果樹を植え付けて、家族とともに収穫の喜びを噛みしめたい、苔玉に癒されながら、幼い日々を思い出しそんなことに思いを致しております。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
酷暑と台風が入れ代わり立ち代わり、まことにしのぎ辛い夏の日々です。楽しみな夏休みを如何がお過ごしでしょうか。小学四年生の頃の夏休み、セミやトンボを追いかけ、昆虫採集によく出かけたことが懐かしく思い出されます。昆虫採集の傍ら、鎮守の森で見かける自然の苔の群落に、「わぁー、奇麗だナァ!」と見惚れることが何度かありました。五年生の夏休みになりますと、そろそろ昆虫に飽きて植物に目移りし、中でも「苔」の存在に心奪われていったことを思い出します。

詳しくは苔のことはわからないままに、注意深く観察すると、「苔」にもいろいろな種類があることに興味を抱き始めたことでした。そこで、いろいろな種類の苔たちを収集して標本にしてみたい、これを夏休みの自由研究課題にしてみようと思い立ったことでした。以降、家族ともども近辺の山野・夏山・谷筋・渓流などをハイキングがてら連れていってもらい、苔収集したこと、懐かしい思い出です。

収集してきた僅かばかりの「苔」の種類を調べようにも、その方法がわからないまま、牧野富太郎先生の植物図鑑を買ってもらい、それを頼りに検索してみたことでした。虫眼鏡の下観察してみると、概ね20余種類の「苔」の収集でした。今思うに、明確に判別できた苔は、僅かにゼニゴケだけだったかもしれません。それでも、4センチメートル程度の枠を作った木箱にガラスの蓋をかけて分類整理し、科名、和名、学名、採集場所、採集日等を記載して、9月第2学期の初日に誇らしげに提出しました。そんな細やかな苔の分類標本が、夏休みの優秀作品として選ばれたこと、懐かしい思い出として残っています。因みに、私は学齢期を長崎県佐世保市に過ごしました。
そんな小学5年生が大学へ進学して園芸学を学び、思いもよらず「苔玉」を作り、全国いたるところで「苔玉」を語り続けています。小さな、小さな植物、「苔」に触れる度に、幼い頃の感動が鮮やかに蘇ってきます。あの幼い頃の感動を「苔玉」に託して、これからも「苔」に触れていきたいと思っています。

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
台風一過、日本列島は、雨の多い空中湿度の高い鬱陶しい日々を迎え、思いもよらぬ災害にまで見舞われています。こんなじめじめした季節を喜んでいるのが外ならぬ苔たちです。
私たちが生活する極、身近な場所でも、至る所に苔は生えています。その環境に対する適応能力には驚かされます。余りにも小さな植物であるために、気に留めることがないし、殆どの場合見過ごしてしまいます。人々の行きかうことの多い街中でも、散歩がてらに歩く公園や農道際でも、注意してみると意外と至る所に苔は生息しています。この機会に、身近な苔たちを観察するのは楽しいものです。手をかけて苔を育ててみると失敗することが多いのですが、勝手に生えている苔たちは強かに生き抜いており、その生命力に唖然とさせられます。
私は今集合住宅に住んでいますが、中庭の灌木寄せ植えの東側と北側の足元には2~3種類の苔が目立たないけど元気かつ、強かに生えています、部分的には苔たちの独壇場で緑の絨毯を展開しています。過日、買い物がてら都内銀座通りを歩きましたが、植え込みの北側、御影石の歩石と歩石の目地部分にも、強かに生えている苔たちに、「よく頑張っとるナァ!」って、心密かに声をかけた次第でした。
出張で全国至る所を歩き回りローカル列車の旅を楽しんでいますが、線路沿いの北側向きのコンクリートの壁面が、苔で覆い尽くされている光景を見かけること、しばしばです。苔で緑なす壁面をみると、嬉しくなってしまいます。駅ホームの壁面の苔に見惚れて、一時間後の後続列車まで人気の全くない無人駅のホームで、ボケーっと、ただ苔を見ながら、過ごしたことが幾度かありました。
学生時代には、夏山登山で鳥取県の大山を何度も歩いたことがあります。山頂付近の残雪を溶かす渓流沿いの苔の群生は見事だったこと、目に焼き付いております。また、新潟県奥只見や青森県奥入瀬の渓流沿いの苔たちも見事でした。
若かりし頃職務柄、神奈川県と静岡県を往復することがしばしばありましたが、途中、白糸の滝や樹海の苔の群生も忘れられない緑です。
極めて小さく目立つことのない、「たかが苔、されど苔たち」です。人の立ち入りを拒む大自然界から、人込みでごった返す銀座の通りまで、苔たちは強かに生息域を守っています。空中湿度の高い今、身近に生息する苔たちを、しっかり観察してみては如何でしょう。そうして頂くことで、お手元の「苔玉」たちの最も喜ぶ姿が見えてくると思います。

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
極めて背が低い植物、余程注意深く目を凝らさないと見落としてしまう「苔」。私たちの生活空間の至る所に苔は密かに生息しています。瑞々しい緑色の苔玉が多くの園芸愛好家に親しまれていること、それは苔の生命力だと思います。
多くの場合、苔玉は室内で観賞されています。苔もその体内に葉緑素を持ち光合成を行なう列記とした植物です。だから、光合成を促すためにある程度の太陽光は絶対に必要な条件です。くれぐれも日当たりに注意してやらなければなりません。苔植物は薄暗い日当たりのない場所に育つものという、固定観念で苔玉を管理しておられる方を多く見かけます。結果として苔面が黒ずんだ状態になり、どうしたらいいのだろう? と、途方に暮れておられる。これ、正に苔が枯れてしまったということです。苔玉として作った当初は美しい緑の苔面、この状態を維持し長持ちさせるには、ある程度の日光が絶対に必要だということを忘れないで下さい。
太陽光に照らせば、苔面は乾燥します。当然のことながら潅水が必要になります。水を遣って、そのまま太陽光線下にさらしたままで放置してはいけません。苔植物を栽培するに当たって最も大切なことは、決して蒸れた状態にしないことなんです。6月以降、夏の強い日射しの中で苔面に散水すると、蒸れた状態になってしまいます。強い日射しの下で水を遣って放置するのは、「蒸れた状態」を作ることになってしまいます。苔には、「蒸れ」は絶対禁物なんです。
苔玉を愛おしみ楽しんでおられるその殆どは、大の園芸愛好家です。ついつい可愛がり過ぎてしまう傾向があります。もっと元気に育てたいとの思いに駆られる心の内は、当然の成り行きでしょう。それではと、肥料を与えたくなる・・・・・とんでもない、肥料を与えてはいけません。何がしかの肥料を与えた結果、殆どの場合、苔は全滅します。じっと目を凝らしてみると、富士山頂から東京銀座の側溝まで、私たちが住む日本列島の至る所に、苔は元気に生息しています。苔たちが元気に自然生息するこれらの場所には、殆ど肥料っ気はありません。
大自然界の苔を観察・楽しむには、梅雨の時期が一番です。たっぷりと体内に水を含み、生き生きとした苔たちが、濃淡様々な緑色で、私たちにその魅力を語り掛けてくれます。緑なす大自然界の苔を楽しみながら学ぶのが、苔玉管理のコツのコツかもしれません。

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。