Posts in Category: 苔玉に寄せて

コラム【 苔玉に寄せて 】Vol.5

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夏の苔玉

机上に置いたヤマモミジの苔玉が、瑞々しい緑の季節を演出しています。

ベランダではケヤキ、シマトネリコ、ネムノキ、ブナ、ヤツデ等の苔玉が今を盛りと緑いっぱいです。黒松、赤松、五葉松、アスナロなどの針葉樹の苔玉も、新芽が充実して夏の装いです。フウチソウ、シュンラン、ヤブラン、コクリュウ、玉リュウノヒゲ、ドクダミソウ、トクサ、ヘビイチゴ等の草たちの苔玉は風に揺らいで涼しげです。それ以上に、木や草たちの根元を包む苔たちが、多湿な6月を、一番、喜んでいます。

緑豊かな大自然の一端を苔玉で楽しむ絶好の季節、6月になりました。

緑の中に、青・紫・白・ピンク色に七変化するヤマアジサイの花、黄や白色のヤマブキ、大きな白色のオオデマリ、小さな白色小花のウノハナ、白花のシャラノキ等の花も今まさに盛り、苔玉に楚々と開花して私たちの眼を楽しませてくれます。草の花も負けずに開花中、三寸アヤメ、トキソウ、ドクダミソウの白い花、可愛いピンクのネジバナ、豊かな自然の成り行きに心癒されております。

もちろん、6月の苔玉仕立ての果実もこれからが旬、ウメの実、赤い小さな果実のジューンベリー、黒紫色した早生のブルーベリー、緑色のキブシの実、小さな木に似合わない大きな実のボケ、赤色のユスラウメ等を苔玉に見ることができます。

更に、アジアンタム、ガジュマル、ジャカランダ、シルクジャスミン、パキラ、ハツユキカズラ、ホンコンカポック等の観葉植物たちも今まさに盛り、苔玉で楽しむ絶好の季節です。赤花のアンスリューム、白花のスパティフィラムも苔玉の最適の材料になっています。

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ちょっと変わった鑑賞の方法として、苔玉を吊り玉の形で楽しむのも一興です。

普通に見られるオリヅルラン、ワイヤープランツ、ヘンリーヅタ、トラデスカンチャー、ハートカズラ、ヘデラ類、プレクトランサス、ホヤ等が、そのいい例です。天井や壁面に吊るされ、風にそよぐ蔓性の植物たちは、涼しさを演出する名脇役を演じてくれます。

葉、花、果実そして根っこまでも、多様な植物たちの営みを、夏を装う苔玉で楽しみ、心癒されています。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

コラム【 苔玉に寄せて 】Vol.4

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多様な「苔玉」たち

「こけだま」というと「苔玉」の漢字が定着しているようです。でも、「苔球」あるいは「苔珠」といった漢字を当てる場合もあります。

20余年前の「こけだま」は、苔に包まれた植物の根部が”球形”のものがほとんどでした。その故「苔球」の漢字が誂えられたのでしょう。
根部が”球形”の「こけだま」は座りが悪く安定感がありません。そのため透明の釣糸(テグス)などで店頭に吊るすなどして販売されていました。

昨近の「こけだま」は、室内で風情ある皿に載せられたり、玄関先や床の間で観賞されるようになってきました。そして苔の根部を”お椀を伏せた形”に仕上げて安定させた状態が多く見られるようになり、徐々に「苔球」の漢字がそぐわなくなって「苔玉」の漢字へと変化し、定着してきたようです。

 また一部の「こけだま」愛好家たちでは、「苔珠」という漢字を当てて観賞されているようです。
「珠」の漢字を当てる、なんとも雅な感覚ではないでしょうか。「和」の感覚の園芸です。

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「苔玉」を身辺に置いて楽しみ観賞する姿は、老若男女を問いません。

”和”の感覚の植物を「苔玉」で楽しまれる年配の愛好家、ミニチュアローズやカランコエなどのカジュアル・フラワー類を「苔玉」で楽しむ若い人たち、「苔玉」愛好家は多岐に渡ってきました。また、都心部の小物店・園芸専門店、郊外のショッピングモールにも「苔玉」が多く見受けられるようになりました。

床の間にモミジ、クロマツ、ケヤキなどの「苔玉」を置いて一服の茶を嗜むのも良し、パソコンなどに向き合うことの多いオフィスで、テーブルヤシ、ガジュマル、アジアンタムなどの小さな「苔玉」で心癒される瞬間を持つのも良し・・・、自由な形で「苔玉」が楽しまれることを願います。
緑成す苔の大地に佇む植物の姿は愛らしくも、生命の力強さを伝えてくれます。

小さな小さな「苔玉」が、園芸愛好の裾野をジワリジワリと拡げているようです。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

コラム【 苔玉に寄せて 】Vol.3

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四季折々「苔玉」の楽しみ

桜花爛漫、春真っ最中、お花見なさったことでしょう。
サクラの苔玉は、一足先に開花しました。苔玉に仕立てるサクラは、小さな樹形に花いっぱい着けたいですネェ。それには一般の花見で愛でる「染井吉野」種では、殆ど期待できません。苔玉仕立てに向くサクラは「豆桜」種が最適です。「豆桜」は、富士山~箱根界隈に自生するサクラで、小さな木でも樹冠いっぱいに小さめの花を開花させます。花いっぱい・豪華絢爛な桜花を苔玉仕立てでお楽しみ下さい。

花が終わったら、青葉新芽の萌芽を楽しむことができます。「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」と、初夏の風情をサクラの青葉に託するのです。風に揺らぐ青葉の苔玉は、爽やかな涼感をもたらしてくれることでしょう。

6月中旬は「さくらんぼの実る頃」、青葉の中に赤いルビー色の果実は嬉しいものです。さくらんぼを実らせるには、開花時期に一工夫が要ります。苔玉に仕立てたサクラと異なる品種のサクラが、苔玉の近辺に開花していて、その異なる品種のサクラの花粉を受粉しなければ果実「さくらんぼ」は着きません。サクラには「自家不和合性」という性質があって、めしべ(雌蕊)は同じ木の花粉(雄蕊)を殆ど受けいれないんです。兄弟・親族とは結婚しないという、自然の法則をサクラは厳守するんですネェ。苔玉仕立てのサクラに赤いさくらんぼを着けるには、別品種のサクラの開花が必要だ、ということです。ウメについても、同じことが言えます。梅の花を愛で、6月に苔玉仕立て梅の木に果実を付けることができたら、素敵な実物盆景苔玉となります。

秋も深まってきますとサクラの葉は、紅葉します。黄色く、さらに赤く紅葉が、深い緑の苔玉の丘に、秋の訪れを演出します。紅葉は落ち葉となり、桜の枝幹を残すだけの冬の景観を呈します。緑の苔の丘に、寒々とした枝幹だけの桜、寂し気な「枯淡の美」。でも、枝先をよく観察すると、赤っぽい硬い新芽が内包され次の春を待っている・・・・・

春夏秋冬変わりゆく苔玉の表情は、生命の神秘を私たちに語りかけてくれます。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
※4月は第2土曜日の掲載となりました。何卒ご了承ください。

コラム【 苔玉に寄せて 】Vol.2

西方寺-苔寺

苔玉の魅力

苔庭で著名な京都の西芳寺(苔寺)へ行かれた方は多いことでしょう。
私は今から54年前(大学1年生でした)、若き日の3月に雪降る苔寺を訪ねました。
雪の白と苔の緑の織り成すコントラスト、「静けさ」に癒され感動したこと、鮮明に覚えています。
その後、富士の原生林「樹海」、青森県の奥入瀬、奥只見の谷筋など、素晴らしい自然の苔に触れてきました。

いつの日か若い日のあの感動を多くの人々にお伝えしたい・・・・・
「苔玉」園芸を立ち上げた原点です。

今、若い人たちのワンルームやアパートのお洒落なルームインテリアオブジェとして着実に「苔玉」が定着してきました。
さらに、若い人たちの嗜好が洋風の観葉植物から わび・さび の「和の観葉植物」へと変化しつつあるようにも感じております。

苔で覆われた丸い土の上に、山野草や木の苗をシンプルに植えただけの、たった一個だけの小さな「苔玉」空間に、無限に拡がる思い・癒し、どんな宇宙を拡げているのでしょう。
苔玉に仕立てられた植物は多種多様です。ウメ、ケヤキ、モミジ、ミズナラ、クロマツ、アカマツ、シュンラン、コクリュウなどの和の植物、ミニチュアローズ、デンドロビューム、ガーデンシクラメンなどの洋風の花・・・・・

人それぞれに素晴らしい思いを描いて頂き、心癒して頂きたいと思っております。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

コラム【 苔玉に寄せて 】Vol.1

緑の苔玉-メルヘンの木

25余年前から徐々に園芸愛好家たちに流行ってきました「苔玉」。
最近やっと多くの人達に認知され、オシャレ園芸の一角を占めてきました。

「苔玉」は、植木類の運搬にあたって、根を乾かさない様にコケ類で荷造りした”根巻き”方に由来します。 荷造り運搬方法を体裁よくまとめて徐々に進化し、今日の姿の苔玉があります。

自然界の中で植物たちはその特徴、美しい姿を見せてくれます。
植物たちとは今ひとつ馴染みの良くないプラスチック製の植木鉢やプランター類が横行する中、 根元を苔に包まれた植物を眼にすると、ほっと心癒されますよね。

過去25年間余りに私が苔玉に仕立てたり取り扱った植物は概ね1200余種になります。
四季を通して次々と新しい苔玉が生まれます。 和風の木の苗、洋風の木の苗、赤・黄・紫・白・ピンクと各色の花や果実、 新芽や新緑、紅葉や冬枯れの枯淡の美…、四季様々な姿を楽しむことができます。

これからも更に多くの植物を苔玉として楽しんでいこうと考えています。

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。