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【苔玉に寄せて】Vol.18〜苔玉を鑑賞する「受皿」

苔玉を鑑賞する「受皿」

 苔玉は一般に平たい皿状の容器にのせて楽しみます。時折、苔玉部分をすっぽり包んでしまうような深い容器にのせて展示されている苔玉を見受けることがありますが、これでは折角の苔の緑を楽しむことができません。平たい皿にのせて「緑の苔」面に癒されたいと思います。

 食器として一般に出回っている皿は、白磁製がほとんどを占めています。平たい皿にのせたとしても、白磁製の皿では植物たちにとって、いい迷惑です。受皿の白色が太陽光線を反射し、大事な植物の「葉裏」を照らして植物を痛めてしまいます。

 私たちが鑑賞したいのは「緑の苔と植物、そして赤色に代表される花や果実」であって、白色の受皿容器ではありません。でも、白色の受け皿は、緑色や赤色の植物たち以上に目立ってしまうのは必然です。白色は明度(明るさの度合い)が20度、緑や赤は明度が14度、である・・・こと、だから「白色」が目立ってしまう、白磁製の皿を苔玉の受皿としたくない理由、お分かり頂けましょう。

 

 プラスチック製の植木鉢やプランター、鉢受け皿、鉢棚など、意に反して、白色に仕立てられた製品が多量に溢れています。園芸先進国である欧米各国や豪州などを歩いてみると、白色に仕上げた植木鉢など例外を除いて、殆どみかけることはありません。ブラウン、ダークグリーン、ブラック等の比較的明度の低い色合いに仕立てられています。

 折角、鑑賞植物の根元を苔で包み苔玉として仕立てたのです、出来れば白磁製の受皿は避けて頂きたい・・・

 私たちの身近な生活の中に息づいている優しい感触の美濃焼や笠間焼、益子焼などの陶器製の皿に苔玉をのせて鑑賞して下さい。その優しさ、思いやりに、苔玉植物たちは大喜びするでしょう。

 以前にも当コラムに書きましたが、職務柄、私は全国を旅することが多くあります。地方の駅の片隅に、使い古された白色のプランターが無残に放置されている光景をよく見かけます。白色ゆえにやたら目立ってしまう、悲しい思いにかられます。たかが「苔玉の受皿」から、またまた、飛躍してしまいました、失礼しました。

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.17〜「和」も「洋」もいい、苔玉植物

「和」も「洋」もいい、苔玉植物

北海道を除いて列島は梅雨に入りました。庭先のアジサイが今を盛りと、青、紫、ピンクの花を咲かせています。比較的地味な開花のヤマアジサイ、ガクアジサイの苔玉が、今大人気です。一方、湿っぽい空気の中で時折見せる紫外線の強い太陽光線を受け、鮮やかに咲き誇る朱赤色のゼラニウムの開花にも心癒されます。

園芸鑑賞植物は、大まかに「和物」「洋物」と、二大別されることがしばしばです。
ヤマアジサイ、クロマツ、ゴヨウマツ、モミジ等の比較的地味な植物の一群が「和物」として取り扱われ、ハイドランジャーと呼ばれる大輪で目立つ西洋アジサイ、バラ、チューリップ等の開花を鑑賞する比較的派手な植物たちを「洋物」として取り扱うようです。

派手、地味だけの判別だけで単純に分けられるものではないこと、十分承知してますが・・・。

では、さて当の「苔玉」仕立てに向く植物は「和物」、それとも「洋物」? 

いやいや、一概にどちらとも言えません。鑑賞する人それぞれの好み、ケースバイケースだといえましょう。

 

 

大輪で目立つ西洋アジサイは、日本の幕末期にオランダの植物学者シーボルトが比較的地味な開花のヤマアジサイ、ガクアジサイを欧州に持ち帰り、ヨーロッパ各国で品種改良されたものなんです。

因みに、シーボルトが愛した長崎の女性「お滝」に思いを寄せて、アジサイを「オタキサン」と、命名したということです。

赤や白に今、開花真っ最中の「サツキ」は日本の花です。この「サツキ」や各種の「ツツジ」を、ベルギーを主とした欧州に持ち込んで品種改良されたものが「アザレア」と称される「西洋ツツジ」です。

比較的地味だった日本原産のツツジやアジサイの花も、欧州に渡って、派手目の花・園芸植物に変身して帰国したんですネェ。「和」でもいい、「洋」でもいい、ケースバイケースで好みの園芸植物を「苔玉」に仕立ててお楽しみください。

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

【苔玉に寄せて】Vol.16〜「苔玉台地」に育つ植物たち

「苔玉台地」に育つ植物たち

苔玉を作っていると、よくこんな質問を受けます。「こんな小さな苔根鉢で植物が大きく育ってきたら、一体どう対処したらいいのでしょう?」と。ほとんどの場合、「育てられる貴方の好みの大きさに剪定なさって下さい。」と、お答えしています。本来なら大地に思う存分根を張って必死に生きている植物を、鑑賞のためという私たちの都合で、小さな根鉢に抑え込んでしまっているのです、仕方のないことですネェ。盆栽や鉢植えの植物も、また切花も同じだと思います。

大地に根を張って大きく育った大木ではあっても、大風でなぎ倒されたり、落雷で焼け落ちたり、地震・津波で押し流されたりなどして、いつかは、寿命を迎えます。机上にある、まことに小さな苔玉の台地に根を張っているモミジやケヤキを見ながら、大自然への畏敬の念を抱きつつも、私の身勝手でこんな小さな世界に植物を押し込み止めていいのだろうかと、思いを致したりもしています。

私が居住するつくば市は表向き街路が立派に整備され、イチョウ、ユリノキ、トウカエデ、アメリカフウ等がすくすくと成長しています。でも、狭すぎる植栽枡から根部がはみ出して、コンクリート製の縁石を押し倒したり、歩道部分の舗装面を持ち上げたりと、道路管理される方々も植物の成長威力に手を拱いておられるようです。とりわけ、つくば市内の国道408号線を飾るアメリカフウの並木の生長威力には驚いています。

きっちりと8㍍間隔で植えてなければ承知しない、台風で一本の大木街路樹が倒れようものなら、鎌倉・鶴ヶ丘八幡宮のイチョウでもあるまいに、血税・大金を支払ってその木を起こして立て直そうとする。ところが、ガーデニング先進国、ブリティッシュの感覚はちょっと違う、倒れた大木の傍らにアトランダムに小苗が植えてあり、倒れた大木は伐採し、次世代の小苗を育てる、という発想なんです。とりわけ、この発想・思想・考えを、かつて英領であったイラン・テヘランの街路樹を見たときに、痛切に感じたことでした。

そんな場合大木は伐採して、傍に植えた小苗を育てればいい、何もきっちりと等間隔でなくても、樹高がバラバラで、アトランダムに植え込まれていても構わない、気取らず、もっと、柔らかな頭でいたい、と思います。この発想・感覚は古くから日本にもありました。宮崎県の高千穂峡を訪ねると、吊り橋を多く見かけました。吊り橋はスギ、ヒノキなどの大木に支えられていました。そして、その大木のすぐ傍に必ず中・小の苗が植えてありました。先人は、知恵の塊なんですネェ。

欧米先進国を追いかけて、ひたすら経済成長路線を突っ走ってきた明治以降の私たちでした。先人の生きてきた知恵を、植物を通して、まことにスローライフな「苔玉園芸」を通して考えなければと、思っております。豊かな時代になった今、改めて多くを考えさせてくれる「苔玉」たちです。

小さな苔玉から、大きな話になり過ぎました、失礼致しました。

つくば市 国道408号線の並木

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

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本コラムはおかげさまで連載1周年をむかえることができました。ご覧いただいてます皆様に深く感謝申し上げます。

【苔玉に寄せて】Vol.15〜苔玉と草玉

苔玉と草玉

苔玉は上手に手入れが行き届けば、3年でも5年間でも楽しむことができます。でも、3年も経過しますと、その姿・形は徐々に成長・変化してきます。

苔玉に仕立てたモミジ、ケヤキ、サクラ等の木本植物には、よく下草としてタマリュウノヒゲ、コクリュウ、フッキソウ等の地被植物(グランドカバープランツ)類を添植します。これらの地被植物類は繁殖力極めて旺盛で、苔面を覆ってしまいついには、苔は完全に淘汰されてしまうこと、しばしばです。「苔玉」なのに苔面がなくなってしまっては大変と、下草類の刈り取り除去に精を出す、そんな話を耳にすることがよくあります。

苔も極めて背の低い地被植物の一種、苔に代わって草が地被する代替わりと考えて頂いてもいいと思います。これを称して「草玉」と言います。20余年も苔玉を楽しんできましたが、「苔玉転じて草玉に」なったこと、多くありました。前述しましたタマリュウノヒゲ、コクリュウ、ハクリュウ、フッキソウ等々、でした。また、自然に苔面に育ってきたギボシ、ユキノシタ、ドクダミソウ等々に苔面を占拠されてしまったことなど、枚挙に限りありません。

更に、庭先で雑草として嫌われることの多いツクシンボ、カタバミ、チドメグサ等に占拠されたこともありました。園芸愛好家が毛嫌いしがちなゼニゴケに鑑賞苔が追い落とされてしまったこともありました。かなりの場合、除草作業をさぼったこと、否めません。

火山の爆発活動によって生まれた山地には、まず、苔が育ちます。その苔面にいろいろな種類の草のタネが育ってきます。そして低木が育ち、大木が森を作っていきます。だから、私の苔玉も大自然界の成り立ち同様、自己弁護納得理解して、苔玉が変遷を遂げて草玉に生まれ変わっていったのだと、達観?・・・いや、諦めていると言った方が当たっているのかもしれません。

オリーブの苔玉
苔面をフッキソウに占拠されてしまいました

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
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【苔玉に寄せて】Vol.14〜苔玉Q&A

苔玉 Q&A



 

苔玉を育てるにあたって、多様な質問を受けること、しばしばです。

こうした疑問・質問の一部についてご一緒に考えてみましょう。

1. 「苔玉」はこのままの姿・形でどの位持ちますか?

 今までの体験から申し上げます、管理次第で5~6年、楽しめます。

2. 「苔玉」は剪定・整枝してもいいですか?

 植物の鑑賞に当たっては、均整のとれた適度の大きさが求められると思います。好みの高さ、枝幅、枝ぶりになるように、剪定・整枝は必要だと思います。植物たちは苔玉という限られた根部に閉じ込められているので、左程大きく伸長・成育することはありません。

3. 「苔玉」に肥料をやってもいいですか?

 苔玉に肥料を与えますと、コケは枯れてしまいます。肥料はやらない方が無難です。それでは、植物が上手く伸長しないとご不満の方は、苔玉を崩し鉢植えなどに切り替えて育てられることをお勧めします。どうしても、苔玉姿のままで肥料を遣りたい場合、参考までに、私は濃度の極薄い液肥を肥料が触れないように、注射器を使って苔玉内部にほんの少々注入したりしています。

4. 寒い冬を過ごさせるには、「苔玉」はどんな場所に置いたらいいですか?

 ミニ観葉植物、シクラメン、洋ランなどの花物、等、寒さに弱い植物の苔玉でしたら、当然、室内などの暖かい場所で管理しなければなりません。でも、暖房器具などの近くに置いては、苔がカラカラに乾いてしまい、遂には枯れてしまいます。ほどほどに暖かい場所を選んで下さい。
ウメ、サクラ、モミジなど寒さに強い植物の苔玉でしたら、路地で管理した方がいいでしょう。ただし、苔玉部分が凍結することは避けて下さい。

5. 水はどの程度遣ったらいいのでしょう?

 「苔面がしっとりと湿っている程度」を保つ、と一言できるでしょう。

6. 受け皿に水を張って「苔玉」を管理してもいいですか?

 受け皿に水をたっぷり入れて、苔玉部分を水浸しの状態に保っては、苔が腐ってしまいます。適度の空中湿度を保ち、風通しの良い状況を作ることです。

7. 苔玉が乾燥しないように、日陰に置いて管理すべきか?

 とんでもない、苔だって一般の植物同様、葉緑素を持ち、炭酸同化作用をして、生きています。レースのカーテン越し程度の太陽光線は必要不可欠です。

    

 私たちの生活空間に「緑の苔玉」を持ち込むのですから、私たちと、緑の植物にとりましてベストな環境が望まれることは当然です。でも、この双方の目指すベストな環境は、ほとんどの場合相反することがしばしばです。体験を積み重ねて、楽しい「苔玉園芸」をお楽しみ下さい。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

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