暑い日が続きます。今日はちょっと一工夫した苔玉の楽しみ方をお話ししましょう。
その一つは,「涼を誘う水辺の苔玉」の演出です。
まず生花などに使う水盤を準備します。その水盤にたっぷりの水を湛えます、水深は概ね4〜5センチくらいになりますね。その水深と同じ長さの木炭を3本程度寄せて立て、その上に苔玉を乗せてください。如何ですか。水面に浮かぶ苔玉のアイランドが生まれたでしょう。水盤の面積と苔玉の大きさにもよりますが、大・中・小3個程度の苔玉のアイランドを浮かべ好みの景観を作って楽しむのも一興です。
更に、苔玉の島々を遊泳するメダカや色とりどりの小振りの金魚を泳がせると、お子様たちも眼を輝かせて喜んでくれます。
水面下に沈めた木炭には水盤の水を浄化する働きがありますし、当の苔玉は木炭の多孔質な間隙を通して必要な水分を吸収します。アイランドの基盤となり、水を浄化し、植物への自然潅水もやってくれる、一石三鳥です。
苔玉の植物をあれこれ取り替えて、宮城県の松島、湘南の江ノ島あるいは琵琶湖に浮かぶ竹生島など涼やかな景観をお楽しみ下さい。
苔玉には吊るすタイプの苔玉「つりだま」があります。涼し気なアイビー類、サクララン(ホヤ)、シノブシダ、ヘンリーヅタ、ポトス、などの吊り玉タイプの苔玉の底に風鈴を下げて、涼やかな風を楽しむのも一興です。苔玉に下げたチリンチリンの音色で、「涼風を聴く」そんな夏のお楽しみも乙なものです。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
椿の苔玉
苔玉を作り始めて25年余。この間、色々な種類の苔玉を多くの人たちにプレゼントして喜んで頂きました。
蒸し暑い7月や8月は、アジアンタム、オリヅルラン、ガジュマル、テーブルヤシ、パキラなどの瑞々しい緑濃い観葉植物が、涼をもたらしてくれます。
9月は、敬老の日のプレゼントとして、苔玉は大変喜ばれます。
御歳98歳を迎えられた私たち夫婦の仲人さんに、さらなる長寿を願って「竹」の苔玉をお贈りしました。寝床に伏しがちの室内生活の中で、すっくと伸びた竹と鮮やかな苔の緑を眼にして、生き生きと輝く老人の姿に触れ、贈った私が元気を頂いたことでした。
茶人の端くれであった私の母は、初釜ということで1月初旬には多くのお茶仲間を迎えて、茶の湯を楽しんでおりました。毎年同じことの繰り返しで、「何かいいイベントがないかしら?・・」と。ちょうど椿の開花の時期だし、「茶花・椿の開花を苔玉で楽しんでみたら!」と提案、早速に樹高30センチ余の蕾付き椿苗を25種類程集めて苔玉に仕立てました。椿を愛でながらの茶席に皆様大喜び、お帰りには好みの椿の苔玉を土産としました。小さな椿の苔玉たちで華やぎ、茶人の皆様に椿の初釜を楽しんで頂いたこと、いつまでも母の語り草でした。
2月3日は節分会です。小さな柊の苔玉に鰯の煮干を吊るし、魔除けのお呪い。私たちの生活に密着した伝統の行事の数々、大切に守っていきたいと思います。
2月14日はバレンタインデー。愛しの彼に愛を告白するチャンスです。真っ赤なバラの花言葉は「熱烈な愛」です。この日は、真っ赤なミニチュアローズの苔玉が愛をいっぱいひろげてくれます。お幸せに!
ハナモモの苔玉
私には二人の娘がいます。
3月3日は桃の節句ということで、二人のために「ハナモモ」の苔玉を床の間に飾り付けました。樹高60センチ程度、下草にヤブランをあしらいました。幼い娘たちはさして喜ぶ様子もなく、雛あられやらケーキに夢中、喜んでいたのは妻と私の外野席でした。二人の娘たちとの、懐かしい思い出です。
5月は「母の日」。最近では感謝の気持ちを込めてアジサイの花を贈ることが多くなりました。山アジサイの可憐な花は苔玉にピッタリ、お母様へ贈って下さい。
四季折々、私たちの生活と植物との関わりを、身近な苔玉を通して、見つめ直してみたいと思います。
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日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
机上に置いたヤマモミジの苔玉が、瑞々しい緑の季節を演出しています。
ベランダではケヤキ、シマトネリコ、ネムノキ、ブナ、ヤツデ等の苔玉が今を盛りと緑いっぱいです。黒松、赤松、五葉松、アスナロなどの針葉樹の苔玉も、新芽が充実して夏の装いです。フウチソウ、シュンラン、ヤブラン、コクリュウ、玉リュウノヒゲ、ドクダミソウ、トクサ、ヘビイチゴ等の草たちの苔玉は風に揺らいで涼しげです。それ以上に、木や草たちの根元を包む苔たちが、多湿な6月を、一番、喜んでいます。
緑豊かな大自然の一端を苔玉で楽しむ絶好の季節、6月になりました。
緑の中に、青・紫・白・ピンク色に七変化するヤマアジサイの花、黄や白色のヤマブキ、大きな白色のオオデマリ、小さな白色小花のウノハナ、白花のシャラノキ等の花も今まさに盛り、苔玉に楚々と開花して私たちの眼を楽しませてくれます。草の花も負けずに開花中、三寸アヤメ、トキソウ、ドクダミソウの白い花、可愛いピンクのネジバナ、豊かな自然の成り行きに心癒されております。
もちろん、6月の苔玉仕立ての果実もこれからが旬、ウメの実、赤い小さな果実のジューンベリー、黒紫色した早生のブルーベリー、緑色のキブシの実、小さな木に似合わない大きな実のボケ、赤色のユスラウメ等を苔玉に見ることができます。
更に、アジアンタム、ガジュマル、ジャカランダ、シルクジャスミン、パキラ、ハツユキカズラ、ホンコンカポック等の観葉植物たちも今まさに盛り、苔玉で楽しむ絶好の季節です。赤花のアンスリューム、白花のスパティフィラムも苔玉の最適の材料になっています。
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ちょっと変わった鑑賞の方法として、苔玉を吊り玉の形で楽しむのも一興です。
普通に見られるオリヅルラン、ワイヤープランツ、ヘンリーヅタ、トラデスカンチャー、ハートカズラ、ヘデラ類、プレクトランサス、ホヤ等が、そのいい例です。天井や壁面に吊るされ、風にそよぐ蔓性の植物たちは、涼しさを演出する名脇役を演じてくれます。
葉、花、果実そして根っこまでも、多様な植物たちの営みを、夏を装う苔玉で楽しみ、心癒されています。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
「こけだま」というと「苔玉」の漢字が定着しているようです。でも、「苔球」あるいは「苔珠」といった漢字を当てる場合もあります。
20余年前の「こけだま」は、苔に包まれた植物の根部が”球形”のものがほとんどでした。その故「苔球」の漢字が誂えられたのでしょう。
根部が”球形”の「こけだま」は座りが悪く安定感がありません。そのため透明の釣糸(テグス)などで店頭に吊るすなどして販売されていました。
昨近の「こけだま」は、室内で風情ある皿に載せられたり、玄関先や床の間で観賞されるようになってきました。そして苔の根部を”お椀を伏せた形”に仕上げて安定させた状態が多く見られるようになり、徐々に「苔球」の漢字がそぐわなくなって「苔玉」の漢字へと変化し、定着してきたようです。
また一部の「こけだま」愛好家たちでは、「苔珠」という漢字を当てて観賞されているようです。
「珠」の漢字を当てる、なんとも雅な感覚ではないでしょうか。「和」の感覚の園芸です。
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「苔玉」を身辺に置いて楽しみ観賞する姿は、老若男女を問いません。
”和”の感覚の植物を「苔玉」で楽しまれる年配の愛好家、ミニチュアローズやカランコエなどのカジュアル・フラワー類を「苔玉」で楽しむ若い人たち、「苔玉」愛好家は多岐に渡ってきました。また、都心部の小物店・園芸専門店、郊外のショッピングモールにも「苔玉」が多く見受けられるようになりました。
床の間にモミジ、クロマツ、ケヤキなどの「苔玉」を置いて一服の茶を嗜むのも良し、パソコンなどに向き合うことの多いオフィスで、テーブルヤシ、ガジュマル、アジアンタムなどの小さな「苔玉」で心癒される瞬間を持つのも良し・・・、自由な形で「苔玉」が楽しまれることを願います。
緑成す苔の大地に佇む植物の姿は愛らしくも、生命の力強さを伝えてくれます。
小さな小さな「苔玉」が、園芸愛好の裾野をジワリジワリと拡げているようです。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
桜花爛漫、春真っ最中、お花見なさったことでしょう。
サクラの苔玉は、一足先に開花しました。苔玉に仕立てるサクラは、小さな樹形に花いっぱい着けたいですネェ。それには一般の花見で愛でる「染井吉野」種では、殆ど期待できません。苔玉仕立てに向くサクラは「豆桜」種が最適です。「豆桜」は、富士山~箱根界隈に自生するサクラで、小さな木でも樹冠いっぱいに小さめの花を開花させます。花いっぱい・豪華絢爛な桜花を苔玉仕立てでお楽しみ下さい。
花が終わったら、青葉新芽の萌芽を楽しむことができます。「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」と、初夏の風情をサクラの青葉に託するのです。風に揺らぐ青葉の苔玉は、爽やかな涼感をもたらしてくれることでしょう。
6月中旬は「さくらんぼの実る頃」、青葉の中に赤いルビー色の果実は嬉しいものです。さくらんぼを実らせるには、開花時期に一工夫が要ります。苔玉に仕立てたサクラと異なる品種のサクラが、苔玉の近辺に開花していて、その異なる品種のサクラの花粉を受粉しなければ果実「さくらんぼ」は着きません。サクラには「自家不和合性」という性質があって、めしべ(雌蕊)は同じ木の花粉(雄蕊)を殆ど受けいれないんです。兄弟・親族とは結婚しないという、自然の法則をサクラは厳守するんですネェ。苔玉仕立てのサクラに赤いさくらんぼを着けるには、別品種のサクラの開花が必要だ、ということです。ウメについても、同じことが言えます。梅の花を愛で、6月に苔玉仕立て梅の木に果実を付けることができたら、素敵な実物盆景苔玉となります。
秋も深まってきますとサクラの葉は、紅葉します。黄色く、さらに赤く紅葉が、深い緑の苔玉の丘に、秋の訪れを演出します。紅葉は落ち葉となり、桜の枝幹を残すだけの冬の景観を呈します。緑の苔の丘に、寒々とした枝幹だけの桜、寂し気な「枯淡の美」。でも、枝先をよく観察すると、赤っぽい硬い新芽が内包され次の春を待っている・・・・・
春夏秋冬変わりゆく苔玉の表情は、生命の神秘を私たちに語りかけてくれます。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
※4月は第2土曜日の掲載となりました。何卒ご了承ください。