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コラム【 苔玉に寄せて 】 Vol.10〜苔玉、冬の管理

苔玉、冬の管理

冬の苔玉

寒くなってきました。寒くなってきますと、「苔玉は室内に取り入れなくていいのでしょうか?」と、質問されること、しばしばです。答えは「苔玉に仕立てた植物によって異なります。」

まず、苔は空中湿度の乾燥を極端に嫌うので、「空っ風吹き抜ける寒風にさらすべからず」、です。乾燥した北風や西風の吹き抜けることのない、庭先の木陰や軒先などに置いて管理して下さい。

但し、熱帯地方や亜熱帯地方原産の観葉植物類や洋ラン類の苔玉は、この限りではありません。暖かい室内で冬越しして下さい。でも、暖房が効き過ぎて室内が乾燥してしまっては、苔が参ってしまいます。少々難しい条件になりますが、室温を維持しつつ、室内の湿度も保たなければなりません。

さらに、観葉植物類や洋ラン類も、そして苔も太陽光線を浴びて炭酸同化作用をして生きています。日の当たらない室内に置きっ放しにしては、観葉植物類も苔も駄目になってしまいます。南~南東向きの、レースのカーテン越しの窓辺に置き、ちょくちょく噴霧器などで霧吹きし、湿度を保つことです。

湿度を保つからと言って、受け皿に水を満たし、苔部分を水に浸しっ放しにする(これを「越水」といいます)、これは絶対やってはいけません。肝心な苔が過湿で腐ってしまいます。

    

苔玉の冬季の管理に、ここまで色々条件付けしては、「やっぱり苔玉は難しい!」って、諦めないで下さい。平たく言い変えましょう。

常緑性の苔は、寒い冬でも成長し続けています。だから、水分は必要欠くべからず、苔玉部分が乾いたナァー、と判断したら午前中の暖かくなった時間帯に、バケツの水にたっぷりと浸して下さい。ブクブク水泡が出なくなるまで水中に浸し、その後、水を切って受け皿等に戻して下さい。カーテン越しの日向に置き、側に水を入れた霧吹きを常時準備し、気が付いたら苔部分に霧吹きかけてください。

私たちが寝静まった日の出前の時間帯は、最も室温が低下します。同じ室内でも床面など低い位置程、温度が下がります。タンスの上など、少しでも暖かい箇所で、夜間~早朝の置き場としてください。

苔玉の冬の管理は、一般の鉢物の管理とさして変わるものではありません。要は、苔部分を如何に適湿に保つか、という一点にかかっています。

見事に冬を乗り切って、緑の苔の丘に、新芽吹く春以降の草木に期待したいですネェ。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

コラム【 苔玉に寄せて 】 Vol.9

苔玉の手入れ、アレコレ

苔

苔玉を育てて、「苔が茶色に変色し、枯れてしまった」と、耳にします。「苔玉の管理は難しい」と、仰る方によく出会います。

「苔は多湿を好みます」 これは紛れもない事実で、多くの人の認めるところです。そのために苔玉を水に浸しっ放しにし、室内に閉じ込めて外気に触れることもなく、太陽光線も一切遮断して、完全管理した積り・・・? これでは「苔」は虚弱体質となって、死んでしまいます。

水に浸したままでは、酸素に触れることは出来ずに呼吸困難に陥り、ご臨終です。
苔玉は水にたっぷり浸し、その後水を切って皿の上などでお楽しみ下さい。
皿の上に乗せる時、皿と苔玉部の間に僅か(2~3㍉程度)ばかりの隙間を作り、風通しを図ることが栽培のコツです。

「苔だって葉緑素を持った”緑色の植物”です」 緑色であることで、苔が太陽光線を浴びて炭酸同化作用をし、生命を維持しています。室内に閉じ込めたままでは、苔はモヤシ伸びした虚弱体質となり、遂には死に至ります。さりとて、強烈な太陽光線下では日焼けして、茶褐色になり死んでしまいます。
また、爽やかな外気に触れることがなければ種々の雑菌が繁殖し、苔は病弱な体質となってしまう。弱り目に祟り目、苔は茶色に変色し、枯れてしまいます。

ごくごく月並みな表現をしますと、苔は、空中湿度が高くて水はけのよい朝日程度の差し込む風通しの良い場所を好む、ということです。朝日ではなく夕日が差し込んでは、紫外線が強すぎて困りものです。”夕日”、すなわち”西日(にしび)”のことを、園芸家たちは逆さ読みして”しにび(死日)”と称し、嫌います。更に月並みに言えば、苔玉は、朝日の当たる風通しの良い木漏れ日の下 に置くと良い、ということです。

「それでは鑑賞出来ないじゃないか」と、お叱りを受けることも、しばしばです。 答えは簡単、苔玉を3~4個持って頂き、取っ替え引っ変え、室内で鑑賞して下さい。その際、気がついた折には噴霧器で水を噴霧、空中湿度を高めると、苔は大喜びします。

条件が整えば、苔は順調に伸びます。伸び過ぎると、苔は蒸散作用が激しくなり、更に下部に日が射し込まなくなって、苔は黄変~褐色化し、遂には枯れてしまいます。伸びすぎた苔は、時折軽く鋏を当てて刈り込むことです。芝生の管理と同じです。

最後に、「苔玉の肥料はいつ、ごれくらいあげるの?」という、質問もよくあります。
肥料をあげると苔は全滅…、枯れてしまいます…。 富士山から街中の側溝まで、苔の育つ自然界には肥料気は殆どありません。
そんな中で苔は生きています。

 

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

コラム【 苔玉に寄せて 】 Vol.8

四季折々の苔玉を楽しむ

下草のある苔玉

 

モミジ、ケヤキ、ウメ、ハナモモなどの落葉樹は晩秋になると落葉してしまい、寂しい苔玉景観になってしまいます。
緑の苔玉の丘に立つ落葉した枝振りを「枯淡の美」として堪能するのも、一つの鑑賞眼だと思います。

下草

一方で、苔の丘に落葉した樹木一本だけ、それでは寂しすぎると感じる方もいらっしゃることでしょう。その場合は、「落葉してしまった木」の根元に一もとの下草類を添植・あしらってみては如何でしょう

冬枯れした落葉樹の傍らに下草として常緑の玉リュウノヒゲやコクリュウなどを添植しておく。そうすれば、寂しさも一味違った風情を醸し出すことでしょう。あるいは、下草としてフクジュソウ、スミレ、ツクシンボ、などの山草を添植して、早春を描くのも一興です。

これらの下草の植え付けは、苔玉制作の当初から寄せ植えして苔玉を作ることが必要です。

また、手っ取り早く少し華やいだ春の演出をご希望でしたら、秋のうちに白、黄、紫色の開花を期待して、クロッカス(秋植え球根)等の小球根をコケの中にねじ込み植えておけば、手軽な春の演出になります。球根植え付けの具体的な方法は、コケの部分に割り箸などで球根をねじ込み植え付けられる程度の植え穴を開けて、その植え穴に球根を植え付けるといいでしょう。

更に深い味わいをお求めでしたら、小さなラン科の植物「トキソウ」を苔の中にねじ込み添植すれば、優雅な春の苔玉景観をお楽しみ頂けることでしょう。

この他に、秋に紫色花を開花するヤブラン、ランナーを伸ばしながら増殖し続けるユキノシタ、ハツユキカズラ、オウゴンカズラ、アイビーなど、好みの草花や山野草を添植して、世界に一つだけしかない、好みの苔玉にチャレンジして下さい。

小さな下草を添えることによって、一味も二味も違った四季折々変化する苔玉園芸をお楽しみ下さい。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

コラム【 苔玉に寄せて 】Vol.7

苔玉を楽しむ

暑い日が続きます。今日はちょっと一工夫した苔玉の楽しみ方をお話ししましょう。

その一つは,「涼を誘う水辺の苔玉」の演出です。
まず生花などに使う水盤を準備します。その水盤にたっぷりの水を湛えます、水深は概ね4〜5センチくらいになりますね。その水深と同じ長さの木炭を3本程度寄せて立て、その上に苔玉を乗せてください。如何ですか。水面に浮かぶ苔玉のアイランドが生まれたでしょう。水盤の面積と苔玉の大きさにもよりますが、大・中・小3個程度の苔玉のアイランドを浮かべ好みの景観を作って楽しむのも一興です。

更に、苔玉の島々を遊泳するメダカや色とりどりの小振りの金魚を泳がせると、お子様たちも眼を輝かせて喜んでくれます。

水面下に沈めた木炭には水盤の水を浄化する働きがありますし、当の苔玉は木炭の多孔質な間隙を通して必要な水分を吸収します。アイランドの基盤となり、水を浄化し、植物への自然潅水もやってくれる、一石三鳥です。

苔玉の植物をあれこれ取り替えて、宮城県の松島、湘南の江ノ島あるいは琵琶湖に浮かぶ竹生島など涼やかな景観をお楽しみ下さい。

苔玉(皿)

苔玉には吊るすタイプの苔玉「つりだま」があります。涼し気なアイビー類、サクララン(ホヤ)、シノブシダ、ヘンリーヅタ、ポトス、などの吊り玉タイプの苔玉の底に風鈴を下げて、涼やかな風を楽しむのも一興です。苔玉に下げたチリンチリンの音色で、「涼風を聴く」そんな夏のお楽しみも乙なものです。

苔玉(つりだま)

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

コラム【 苔玉に寄せて 】Vol.6

喜んでもらえた苔玉
椿の苔玉

椿の苔玉

 苔玉を作り始めて25年余。この間、色々な種類の苔玉を多くの人たちにプレゼントして喜んで頂きました。

 蒸し暑い7月や8月は、アジアンタム、オリヅルラン、ガジュマル、テーブルヤシ、パキラなどの瑞々しい緑濃い観葉植物が、涼をもたらしてくれます。

 9月は、敬老の日のプレゼントとして、苔玉は大変喜ばれます。
御歳98歳を迎えられた私たち夫婦の仲人さんに、さらなる長寿を願って「竹」の苔玉をお贈りしました。寝床に伏しがちの室内生活の中で、すっくと伸びた竹と鮮やかな苔の緑を眼にして、生き生きと輝く老人の姿に触れ、贈った私が元気を頂いたことでした。

 茶人の端くれであった私の母は、初釜ということで1月初旬には多くのお茶仲間を迎えて、茶の湯を楽しんでおりました。毎年同じことの繰り返しで、「何かいいイベントがないかしら?・・」と。ちょうど椿の開花の時期だし、「茶花・椿の開花を苔玉で楽しんでみたら!」と提案、早速に樹高30センチ余の蕾付き椿苗を25種類程集めて苔玉に仕立てました。椿を愛でながらの茶席に皆様大喜び、お帰りには好みの椿の苔玉を土産としました。小さな椿の苔玉たちで華やぎ、茶人の皆様に椿の初釜を楽しんで頂いたこと、いつまでも母の語り草でした。

 2月3日は節分会です。小さな柊の苔玉に鰯の煮干を吊るし、魔除けのお呪い。私たちの生活に密着した伝統の行事の数々、大切に守っていきたいと思います。
2月14日はバレンタインデー。愛しの彼に愛を告白するチャンスです。真っ赤なバラの花言葉は「熱烈な愛」です。この日は、真っ赤なミニチュアローズの苔玉が愛をいっぱいひろげてくれます。お幸せに!

ハナモモの苔玉

ハナモモの苔玉

 私には二人の娘がいます。
3月3日は桃の節句ということで、二人のために「ハナモモ」の苔玉を床の間に飾り付けました。樹高60センチ程度、下草にヤブランをあしらいました。幼い娘たちはさして喜ぶ様子もなく、雛あられやらケーキに夢中、喜んでいたのは妻と私の外野席でした。二人の娘たちとの、懐かしい思い出です。

 5月は「母の日」。最近では感謝の気持ちを込めてアジサイの花を贈ることが多くなりました。山アジサイの可憐な花は苔玉にピッタリ、お母様へ贈って下さい。

 四季折々、私たちの生活と植物との関わりを、身近な苔玉を通して、見つめ直してみたいと思います。

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執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。