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【苔玉に寄せて】Vol.15〜苔玉と草玉

苔玉と草玉

苔玉は上手に手入れが行き届けば、3年でも5年間でも楽しむことができます。でも、3年も経過しますと、その姿・形は徐々に成長・変化してきます。

苔玉に仕立てたモミジ、ケヤキ、サクラ等の木本植物には、よく下草としてタマリュウノヒゲ、コクリュウ、フッキソウ等の地被植物(グランドカバープランツ)類を添植します。これらの地被植物類は繁殖力極めて旺盛で、苔面を覆ってしまいついには、苔は完全に淘汰されてしまうこと、しばしばです。「苔玉」なのに苔面がなくなってしまっては大変と、下草類の刈り取り除去に精を出す、そんな話を耳にすることがよくあります。

苔も極めて背の低い地被植物の一種、苔に代わって草が地被する代替わりと考えて頂いてもいいと思います。これを称して「草玉」と言います。20余年も苔玉を楽しんできましたが、「苔玉転じて草玉に」なったこと、多くありました。前述しましたタマリュウノヒゲ、コクリュウ、ハクリュウ、フッキソウ等々、でした。また、自然に苔面に育ってきたギボシ、ユキノシタ、ドクダミソウ等々に苔面を占拠されてしまったことなど、枚挙に限りありません。

更に、庭先で雑草として嫌われることの多いツクシンボ、カタバミ、チドメグサ等に占拠されたこともありました。園芸愛好家が毛嫌いしがちなゼニゴケに鑑賞苔が追い落とされてしまったこともありました。かなりの場合、除草作業をさぼったこと、否めません。

火山の爆発活動によって生まれた山地には、まず、苔が育ちます。その苔面にいろいろな種類の草のタネが育ってきます。そして低木が育ち、大木が森を作っていきます。だから、私の苔玉も大自然界の成り立ち同様、自己弁護納得理解して、苔玉が変遷を遂げて草玉に生まれ変わっていったのだと、達観?・・・いや、諦めていると言った方が当たっているのかもしれません。

オリーブの苔玉
苔面をフッキソウに占拠されてしまいました

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

 コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。

本コラムはおかげさまで連載1周年をむかえることができました。ご覧いただいてます皆様に深く感謝申し上げます。

【苔玉に寄せて】Vol.14〜苔玉Q&A

苔玉 Q&A



 

苔玉を育てるにあたって、多様な質問を受けること、しばしばです。

こうした疑問・質問の一部についてご一緒に考えてみましょう。

1. 「苔玉」はこのままの姿・形でどの位持ちますか?

 今までの体験から申し上げます、管理次第で5~6年、楽しめます。

2. 「苔玉」は剪定・整枝してもいいですか?

 植物の鑑賞に当たっては、均整のとれた適度の大きさが求められると思います。好みの高さ、枝幅、枝ぶりになるように、剪定・整枝は必要だと思います。植物たちは苔玉という限られた根部に閉じ込められているので、左程大きく伸長・成育することはありません。

3. 「苔玉」に肥料をやってもいいですか?

 苔玉に肥料を与えますと、コケは枯れてしまいます。肥料はやらない方が無難です。それでは、植物が上手く伸長しないとご不満の方は、苔玉を崩し鉢植えなどに切り替えて育てられることをお勧めします。どうしても、苔玉姿のままで肥料を遣りたい場合、参考までに、私は濃度の極薄い液肥を肥料が触れないように、注射器を使って苔玉内部にほんの少々注入したりしています。

4. 寒い冬を過ごさせるには、「苔玉」はどんな場所に置いたらいいですか?

 ミニ観葉植物、シクラメン、洋ランなどの花物、等、寒さに弱い植物の苔玉でしたら、当然、室内などの暖かい場所で管理しなければなりません。でも、暖房器具などの近くに置いては、苔がカラカラに乾いてしまい、遂には枯れてしまいます。ほどほどに暖かい場所を選んで下さい。
ウメ、サクラ、モミジなど寒さに強い植物の苔玉でしたら、路地で管理した方がいいでしょう。ただし、苔玉部分が凍結することは避けて下さい。

5. 水はどの程度遣ったらいいのでしょう?

 「苔面がしっとりと湿っている程度」を保つ、と一言できるでしょう。

6. 受け皿に水を張って「苔玉」を管理してもいいですか?

 受け皿に水をたっぷり入れて、苔玉部分を水浸しの状態に保っては、苔が腐ってしまいます。適度の空中湿度を保ち、風通しの良い状況を作ることです。

7. 苔玉が乾燥しないように、日陰に置いて管理すべきか?

 とんでもない、苔だって一般の植物同様、葉緑素を持ち、炭酸同化作用をして、生きています。レースのカーテン越し程度の太陽光線は必要不可欠です。

    

 私たちの生活空間に「緑の苔玉」を持ち込むのですから、私たちと、緑の植物にとりましてベストな環境が望まれることは当然です。でも、この双方の目指すベストな環境は、ほとんどの場合相反することがしばしばです。体験を積み重ねて、楽しい「苔玉園芸」をお楽しみ下さい。

 

執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

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【苔玉に寄せて】Vol.13〜苔玉園芸の立ち位置

苔玉園芸の立ち位置



 苔玉が生まれて概ね30余年、更に苔玉が多くの人たちに認知されるようになって10余年を経過します。ここ3~4年、ようやく園芸愛好家の間に少しずつ室内園芸植物として、完全に定着しつつある苔玉です。

 昭和時代・経済の高度成長期に一時代を賑わした観葉植物の大鉢仕立て品は、一般家庭ではほとんど見かけなくなりました。観葉植物類で、今園芸売り場を賑わしているのは、僅かに2.5号~3.5号の小鉢に仕立てられたミニ観葉と称される物ばかりです。
昭和後期から平成初期の頃にブリジット・バルドー、マリリンモンローなどの園芸品種名に代表される洋ラン、デンドロビュームが大量に出回った時代もありました。これ等、大量のデンドロビューム等の洋ラン類が市場に出回ったのは、メリクロン培養(生長点組織培養)による苗生産技術の進歩によってもたらされ、時あたかも経済の高度成長期も相まって洋ラン隆盛の時代がもたらされました。年末・年始の贈答品として、シンビジュームやデンドロビューム等の洋ラン類がもてはやされたこと、多くの方が体験なさったことでしょう。経済の高度成長期であったが故の、明治以降から戦後の、欧米並みの生活への憧憬動向であったのではないか、と思うのです。

 私たちの住む日本列島は、乾燥気候の欧米各国と異なって、極めて高温多湿の傾向にあること、ご承知のとおりです。気候・湿度が異なれば、おのずと生活環境に生育する植物の種類が異なります。植物を育て、花を楽しまれる多くの愛好家の方々が、高温多湿の日本での園芸の在り方に、思いを致されつつあるのではないかナァ、と考えます。その表れが「苔玉」が徐々に認知されてきたのかナァ、と。

  温室内いっぱいに咲き乱れる洋ラン類等の華やかさはありませんが、着実に園芸界にその地歩を築きつつある「苔玉」ではないのかナァ、と思い巡らしております。更に、来日される海外からの客人たちにも、「苔玉園芸植物」の人気は着実に高まっておりますこと、ご報告申し上げます。

    
 
執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

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コラム【苔玉に寄せて】Vol.12〜「吊苔玉」で室内に彩を

「吊苔玉」で室内に彩を

新年を迎えて5日を経過、お屠蘇気分も抜けてパソコンに向かっている。
パソコンラック上の棚に吊るした苔玉(吊玉)が、心癒してくれる。寒風吹きすさぶ外界とは別世界、暖かい部屋空間に、今日の吊苔玉は「ツルマサキ」と「プレクトランサス」の二連玉、春はまだまだ先だというのにプレクトランサスの新芽が瑞々しい淡緑色に輝いている。
まことに狭い室内空間に小さな、小さな緑の惑星が眼前に漂っているような感覚にとらわれる。

    

過ぎ去った一年を振り返ると、四季折々の植物を吊苔玉に仕立て、楽しんできました。

年間を通して楽しめたものは、イングリッシュアイビー、オリズルラン、サクララン(ホヤ)、ハートカズラ、ハツユキカズラ、黄金カズラといった品種名を持つ「テイカカズラ」などでした。また、ハッカの香りのするハーブの一種「アロマティカス」も周年楽しむことができました。

6月以降の夏季には、ワイヤープランツ、アスパラガス、ポトス、トラデスカンチャー、フィーカス・プミラ、等多くの種類の観葉植物類を吊苔玉として楽しむことができました。7月から8月に、赤や白、またピンクの大輪花を開花させる「マンデビラ」の吊苔玉の開花は、来宅される多くの方々に楽しんで頂きました。古い時代から日本の夏に風鈴を下げて涼をもたらしてきた「ノキシノブ」は、和の涼感を伝えてくれました。

枝垂れ咲種のシンビジューム等の各種の小型洋ラン類は、元来樹上の寄生植物です。霧吹き等して空中湿度を保つことで、見応えのある吊苔玉を楽しむことができました。赤、黄、白、紫、ピンク等の洋ランの花咲く部屋宇宙空間を、ご想像ください。

晩秋となると、ヘンリーヅタ、シュガーパインなど、それまで旺盛な緑の吊苔玉が紅葉して、枯淡の美をもたらしてくれました。更にツルウメモドキ、コトネアスター、クランベリーなどの、赤や黄色の果実が秋の深まりを教えてくれました。

年末差し迫ってくると、大陸生まれの力強い緑の吊苔玉の中に大実のヤブコウジの真っ赤な果実が輝いています。西洋イワナンテンは、木枯らし吹きすさぶ中で赤く染まった葉を装い、異彩を放っています。

苔玉を吊るすこと(吊玉、連玉)で、四季を問わず狭い空間で緑を楽しんでみては如何でしょう。
「吊苔玉」として楽しめる植物の種類はたくさんあります。
これからももっともっと多くの植物で、私の部屋に壮大な小宇宙空間を作っていきたいと考えています。

    
 
執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

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本コラムは、おかげさまで連載1周年をむかえることができました。ご覧くださっている皆様に感謝申し上げます。

コラム【苔玉に寄せて】Vol.11〜「苔玉」に癒される「園芸」

「苔玉」に癒される「園芸」

やぶこうじ

 

戦後間もない頃の鉢モノ園芸は陶器製の植木鉢が主流でした。

石油産業隆盛の時代になり、園芸業界も植物の植え付け容器は、プラ鉢やプラ製プランターなどの石油製品に取って代わられてしまいました。その結果、家庭の庭先やベランダの片隅などに、プラ鉢やプランターの残骸を見かけることが多くなりました。
また学校や駅の片隅などにも、季節外れのプランターの残骸を多く見かけます。
モノ余りの時代の園芸・ガーデニングの惨めな結末とでも言えましょうか。

軽くて割れないプラ製やビニール製の植木鉢やプランターが、しかも安価であったことが、園芸の量的な拡大・発展に大きく貢献してくれたことは、決して否定するものではありません。余りにも大量に出回り過ぎた結果として、庭先や街角の一角に使い古されたプラ鉢、プランターが残骸として放置されているんです。心の片隅でほんの少しばかりの罪悪感を抱きながら・・・。

    

いま、多くの若い人たちの生活感として、できるだけモノを持たない生活空間で生きていこうという「断捨離」生活を目指す人や、ミニマリスト等といった人たちが着実に増えつつあります。行き過ぎたモノ余りの経済・生活から生まれた、当然の帰結なのかもしれません。

私たちの「園芸・ガーデニング」でも然り、だと思います。
プラスチックやビニール製の植物の植え付け容器の残骸を、生活空間に放置するなど、「園芸・ガーデニング」以前の問題だという、認識を持つべきでしょう。

そんな中で、忽然と現れたのが「苔玉園芸」でした。時、あたかも経済の停滞期、安定成長期でした。数量的にまだまだ、プラ鉢園芸には遠く及びませんが、根元を自然素材の「苔」に包まれた植物に多くの人たちが癒されているように思います。ビロード状の緑の命、「苔」を眺めて頂き、モノ余りの時代の「園芸」を見つめ直して頂ければ・・・・・と、思います。

苔は人様に見捨てられ不要となれば、惨めに残骸など残すことなく、黙って土に帰っていきます。

    
 
執筆者紹介 –  S.Miyauchiさん

日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。
つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。

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