昨年末から新春にかけて多くの松の苔玉を作成しました。クロマツ、アカマツ、ゴヨウマツ等でした。植物の本性・向日性の故に、若いマツは素直に真っすぐ上に伸びた樹形で育ち、鑑賞するには面白味がありません。私たちの住む日本列島は、アジアモンスーン地帯に位置しているので海岸風が強く吹き付け、クロマツの樹形は風に押されて幹も枝も曲がってしまいます。この曲がったクロマツを故人たちは「磯慣れ松(そなれまつ)」と言って、慣れ親しんできました。風に煽られて曲がった松の生育する環境の中で生きてきた私たち日本人に、「磯慣れ松」という自然が心のどこかに映像化されてきたのかもしれません。
風に煽られ磯部に力強く張り付いて生きる松・・・・・を盆景の中に描くために、枝振りに変化を付けて面白みを演出する必要に迫られました。ために、幹や枝部分に園芸用のアルミ線を螺旋状に巻き付け、右・左に、更にスパイラル状にと、自在に枝振りを作るようになりました。
真っすぐに幹の伸びた樹形を「直幹」と言います。穏やかな地中海型気候のイタリアや南仏に育つ松は「直幹」型に育っています。直幹樹形の松は、それなりに良さもありますが、私たちは風に煽れるアジアモンスーン地帯が育ち慣れ親しんだ環境の故か、マツは主幹や枝の細い部位を曲げたり捻ったりと、自在に変化を付けたくなってしまいます。この年末年始に作成したマツ類の苔玉の殆んどに、園芸用アルミ線で曲げ・捻り等を加えて「松の苔玉」に仕立てたのでした。
クロマツ、アカマツ、ゴヨウマツ等の苔玉に限らず、過去に制作した苔玉たちにも、園芸用アルミ線等を使って主幹・枝振りに変化を付けてきました。オリーブ、コナラ等の雑木類、シマトネリコ、ツバキやサザンカ類、ナナカマド、ムラサキシキブ、モミジ類、等々の苔玉作成がそうでありました。
枝や幹を曲げたり捻ったり・・・・・植物達には甚だ迷惑千万なことは百も承知、でも私たちの生活環境に合わせて我慢してもらうしかありません。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。
こんにちは、くーこです。
先月のコラムで山ブドウを使って酵母を起こしたと書きましたが、今回はその酵母を使ってパンを焼いてみたお話をしようと思います。なんとか酵母ができたら、次は種起しと言う作業をします。家庭用レシピでよく見る材料をいっきに混ぜて作る方法をストレート法と言うのですが、天然酵母液を直接使うと生地が安定しないそうなので、あらかじめ天然酵母液と小麦粉を混ぜて発酵させて寝かしての作業を3回ほど繰り返してできる元種を作っておきます。配合はいろいろあるのですが、天然酵母を使ったレシピが少ないので手持ちのレシピを使えるように酵母液(水):粉=1:1にしています。粉は灰分が多い全粒粉を使います。普通の強力粉も使えますが、灰分(ミネラル)が入っている方が安定して発酵するそうですよ。2回目と3回目は酵母液ではなく水を入れますが、今回は発酵が弱そうだったので今回は3回とも酵母液を加えました。1日目は酵母液と全粒粉を40gずつ密閉容器に入れてよく混ぜ6~12時間常温で発酵後半日冷蔵庫、2日目と3日目は水と全粒粉を30gずつ追加して入れてよく混ぜ6~12時間常温で発酵後半日冷蔵庫と繰り返します。今の時期だとなかなか発酵し辛いので、ホームベーカリーやヨーグルトメーカーがあるとやりやすいですね。
ここまでで、パンを作ろうと思いついてから1週間です。ようやくパン生地を作ります。今回はカンパーニュと角食パンを焼きました。今回はちょっと発酵力が弱そうだったので、粉の量に対して元種を40%加えてあります。なので、元レシピの分量から40%分の粉と水分を引いておく必要があります。作ったカンパーニュを例に挙げると、強力粉とリスドオルを合わせると200g必要なのですが、200gの40%は80gで1:1の液体と粉の比率なのでそれぞれ40gずつ引くってことですね。粉は160g、水は98g必要なところを58gにします。ここで1:1にした意味が出てきます。計算が簡単なので、手持ちのレシピに応用しやすいのです。
あとは普通のパンと作り方は一緒です。発酵時間が倍以上かかること以外は。1次発酵は4時間前後、2次発酵は2時間程かかっています。なので、時間がないときに作ることはできないと感じました。試しに夜長時間発酵にチャレンジしたら、過発酵な生地になってしまい、泣く泣くピザ生地やラスクになったことも…プロでもあまりやりたがらない理由が分かります。本当に難しい!!角食パンは3回作って2回失敗でした。リーンなカンパーニュの方が作りやすい気がします。こちらは失敗なし。家庭用オーブンでカンパーニュを焼くのは難しいのですが、お友達から蓋つきの鉄鍋を使った焼き方を教えてもらい、やってみたら上手く蒸気が入ってパリパリの皮ができました。これ食べると自分でまたつくりたくなるのだから不思議なんですよね。作っている時にはもうやらない…と思うのですが。こうやって人は沼にはまっていくようです。もしかしたらこの後も別の果物で酵母液を作ってパンを焼くかもしれません。手を出してはいけないものに手を出してしまった気分の私なのでした。
つくば市在住。現在子育て真っ最中のフリーライターさん。
学生時代より文芸部の部長を務め、大学では文学部に学び、現在も執筆活動を続けています。
趣味は長年続けているお菓子作り。みんなから頼りにされる緑と料理を愛する主婦です。
コラム「つくばで食べる・つくる・育てる 」は毎月第4土曜日に掲載予定です。
60数年も以前のこと、私が高等学校3年生時の担任の先生、長嶺洋先生が92歳の誕生日を迎えられた。当時のクラスメイト10余人が故郷長崎・佐世保の地に集まり、お祝いすることとなりました。祝宴に当たり、記念品は何にしたものか?・・・
悩んだ末に、私、「宮内・作製の苔玉がいい」と、世話役同級生たちの結論・・・
という次第で、悩みは私・一人にバトンタッチ。さてさて植物は何を選定したものやら、どんな形に纏め上げたものやら、等々、責任重大・・・。悩んだ末に「黒松」の苔玉に思い至りました。早速に、良き樹形のクロマツを求めての植物探しです。「千歳松」と名付けられた香川県産の縁起良い黒松を探し当てました。京都市産の山苔を使って苔玉に仕立て上げ、松ボックリを添景物として何とか仕上げることが出来ました。
11月23日が佐世保で祝宴、前日22日に苔玉に仕立てた「千歳松」を荷造りし、新幹線を乗り継いで佐世保市に到着、翌祝宴会場に届けることが出来ました。
祝宴会場に恩師ご夫妻をお迎え、宴たけなわの中で、記念の千歳松を無事にお贈りし、肩の荷を降ろしたことでした。「磯馴れの松」形状に仕立てた黒松の苔玉に、恩師ご夫妻には喜んで頂き、つくばから九州佐世保市まで運んできた甲斐がありました。高等学校を卒業してより60有余年、お元気な恩師のお姿に触れ、乾杯、喜びを分かち合えたこと、誠に幸せです。
「磯馴(そなれ)松」の形状に仕立て上げた黒松の苔玉が祝の宴を一層盛り上げてくれたことに感謝です。恩師・友人たちには「よか盆栽だネェ」というお褒めを戴きましたが、「盆栽」域には及ばず、敢えて言うならば、「カジュアル盆栽」のクロマツとでも、言っておきましょう。
「長嶺洋先生!ご長寿おめでとうございます。益々のご健勝を祈念申し上げます。」
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
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こんにちは、くーこです。
このコラムが出る頃には二十四節気の「小雪」を迎えているのですが、つくばは日中暖かでセーターの出番がありません。それでも朝の通学時は息も白くなってきて、息子は手袋をするようになりました。そして既に片方なくしました…なんて、別のママさんにお話しすると、「うちはこの短期間で2回無くした!」なんて仰っていました。小学生男子の冬あるあるですね。苦笑いしながら歩いていると真っ白な椿が咲いていて、静かに冬が来ていることを実感した今日この頃です。
先月、同じ市内に住む友人から「山ぶどうを摘みませんか?」とお誘いがあり、親子でお邪魔してきました。2年前からご主人のご実家から株分けしてもらった山ぶどうを育てていて、更に今年は株を増やしてお庭のフェンスに這わしてたくさん実をつけたそうです。良い機会だから皆で摘んでしまおうってことで、ボウルとキッチンバサミをお借りして房ごとカットしていきます。実の大きさは小ぶりのブルーベリーくらいで、普段食べているぶどうの様にぎっしり房に付いているわけではありません。子ども達は早々に飽きてしまい、大人だけで30分取り続けました。ボウルに山盛り2つ。達成感ありますね。
ただ、この山ぶどう、本当に酸っぱい!ちょっと生食には向かないのではないかと思うぐらいなんです。天然のものや、プロの栽培したものを食したことがないので本当は甘いのかもしれませんが、子どもはおろか栽培している張本人も手に余る品だそうで…「お義父さんは珍味だって言うんだけれど、珍味すぎてどう食べて良いのか分からないから、くーこちゃん何か作って!全部あげるから!!」と言うので、全てもらって帰ってきましたよ。ちなみにそのお義父さんはつぶしてジュースにして飲んでいるそうです。
善は急げと、軽く洗って房から食べられる実だけを取り分けると700gありました。これだけあるといろいろできそうだったので、500gと200gに分けてジャムとジュースと前からやってみたかった天然酵母液を作ることにしました。酵母液から生種を作って、天然酵母パンを作ってみるつもりです。
まずは天然酵母作りから。
ジッパー袋に200gの実と砂糖小さじ1と水100ml程入れてもみもみしてから、煮沸消毒しておいた瓶に詰めて常温に放置。1日1回かき混ぜて空気を入れてあげて、3日もすればシュワシュワと発泡し、オリが沈むと完成です。5日後ぐらいにできました。このままだとワインになってしまい、酒造法に引っかかってしまうらしいので濾して瓶詰して冷蔵庫で保管します。それで成功したかと聞かれれば、答えは否です。酵母を育てるために水道水はNGということは知っていたのですが、家にあったアルカリイオン水を使ってしまい、イマイチ弱い酵母液になってしまいました。酵母は酸性を好むのでアルカリ性を混ぜるのはダメだったようです。お菓子作りやパン作りは化学変化を無視して作れないことを再確認しました。反省です。
次はジャム作りです。
友人が言うには、山梨の道の駅で山ぶどうのジャムは人気過ぎて買うことができないでいるそうです。ならば私が作るしかない!ですよね。いつも果実に対して20%の砂糖を入れるのですが、今回は30%にしてみました。この辺は果実を食べてみて臨機応変に。山ぶどうの良さを崩さない甘さにします。鍋に山ぶどう入れてこげないように注意して中火で煮ていき、水分が上がってきたら砂糖を入れて更に煮ます。砂糖が溶けて実が柔らかくなったところでザルにあけて実をつぶしながら濾します。山ぶどうは実に対して種が大きいのでジャムにすると口に当たる気がするんですよね。ここでジュースにする分を取り分けて、残りを鍋に戻して煮詰めてジャムにしていきます。瓶詰めして脱気すれば1年は持ちます。
ジュースは味が濃いので炭酸水で希釈して山ぶどうサイダーに。我が家のメンズ曰く、甘くなくて健康になりそうな気がするのと事。なんだかノンアルコールカクテルっぽいテイストです。ジャムはジュレのようで、パンでもお肉料理のソースにしても良さそうです。全て友人宅へ行く予定なので私が口にすることはなさそうですが。
それで、肝心の天然酵母パンはどうした?と思いますよね?これについてはページが少なくなってきたのでまた来月にお話ししようと思います。それでは、また来月にお目にかかりましょう。
つくば市在住。現在子育て真っ最中のフリーライターさん。
学生時代より文芸部の部長を務め、大学では文学部に学び、現在も執筆活動を続けています。
趣味は長年続けているお菓子作り。みんなから頼りにされる緑と料理を愛する主婦です。
コラム「つくばで食べる・つくる・育てる 」は毎月第4土曜日に掲載予定です。
歩行者専用の緑道が整備された筑波研究学園は、散歩するにはうってつけのラインでいっぱいです。紅葉で彩られた秋の歩行者専用道路を散策する、魅力がいっぱいです。
自然の景観に見とれて、この佇まいを苔玉の世界にいれていきたいものだなぁ・・・と思い描いております。
紅葉する木々の合間に濃い緑の黒松や赤松の林が程よく散在します。松の樹林下には松ボックリが転がり落ちています、ついつい手に取ってみたくなること、しばしばです。松の木の直下に松ボックリ・・・なかなかの景観であり、ストーリーだなぁと思うことしばしばです。
そうだ、この景観、季節感、ストーリーを苔玉作品に描いてみよう・・・と、早速にクロマツの苔玉に、添景物として松ボックリを配してみました。クロマツの老いた厳つい風情の幹肌に、マツの赤ん坊である松ボックリが張り付いている・・・なかなかの景を醸し出しました・・・老木と若い子孫が同一空間に生きている姿は、なかなかの様となり、ストーリーとなりました。
私が若き日々、大学時代の頃、園芸・造園学を学ぶ中で折に触れて、「自然に学べ」と、教え諭されたものでありました。ゴツゴツとしたクロマツの老木の幹肌・傍らに無造作に転がる松ボックリ、この相者が若き日々の学びを想起させてくれました。松の老幹肌・松の赤子「松ボックリ」を見ていると、永遠に繋がる命の偉大さを改めて思い知らされた気がしないでもありません。黒松の強面な老幹肌と松ボックリは、一個の苔玉景観を通して、命の世代交代を、言わず語らずのままに私に教えてくれました・・・たかが路辺に放り出された松ボックリ、されど未来の松の大木であったのです。
緑なす「苔」の大地で、老幹肌「クロマツ」と「松ボックリ」が演出する舞台・・・たかが小さな「苔玉」、されど思いは無限に拡がる「苔玉」空間舞台です。小さな苔玉園芸空間に、私たちの思いの一端でも表すことが出来たらいいなぁ・・・等々、深み行く秋の中で思いを馳せています。
日本農業園芸造園研究所代表。農業・園芸・造園について30年以上の業務・指導に務める。つくば市在住。 つくばの松見公園をはじめ、数々の有名庭園の設計に携わる。現在は全国各地で苔玉教室などを開催し、誰もが楽しく園芸に触れることができる活動を展開している。
コラム「苔玉に寄せて」は毎月第2土曜日に掲載予定です。